2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500316
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Research Institution | Osaka Electro-Communication University |
Principal Investigator |
小沢 一雅 大阪電気通信大学, 情報通信工学部, 特任教授 (40076823)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 前方後円墳 / 邪馬台国 / 考古学 / 歴史情報学 / 数理 / コンピュータ |
Research Abstract |
当該年度(平成23年度)は本研究の開始年度であって、まず研究計画の主要項目を詳細に点検しつつ、研究計画を具体的に実践する手順の策定と事前準備にあたった。とくに、本研究の基礎的な情報源である前方後円墳についての新たな角度からの分析法の実践に向けた検討を行った。一方、倭人伝、および記紀(古事記・日本書紀)に現れる地名の現代地図上の位置同定に関する研究(古代地名の地理的研究)の具体化についても検討を行った。 前方後円墳の研究では、邪馬台国論争において中心的な役割を演じている箸墓古墳(奈良県桜井市)を取り上げ、宮内庁書陵部によって近年出版された精密な実測図から数値計算によって墳丘体積が35万立米に上ることを推計した。この推計にあたっては、当該実測図にある全等高線を電子化するとともに、後世の明らかな人為的擾乱による部分的な等高線の乱れを目視によって穏和なレベルで修正し、なめらかな等高線形状を復元した後、シンプソン公式による数値計算を行って上記推計値を算出した。箸墓古墳の墳丘体積を厳密に推計したはじめての事例である(第17回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」にて論文形式で発表し情報公開した)。また、箸墓古墳と時期を同じくする古式古墳の地理的分布状況について点検調査を行った。一例として、箸墓古墳を築造した古代大和政権(大和朝廷)と密接な関係をもつ吉備勢力(岡山県)との交通ルートとなる播磨地域(瀬戸内側地域)における主要前方後円墳の立地状況について現地調査を行った。 古代地名の地理的研究については、種々の角度から研究の具体化について詳細な検討を行ったが、いまだ実践方針の確立には至らなかった。予備的調査によれば、古代地名表記と現代地名との信頼できる音声的同定法がみつからないことがその原因であって、次年度における継続課題として引き続き検討を行うこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、邪馬台国論争に資する新たな知見を前方後円墳を軸にした情報学的方法によって導こうとするものである。したがって、前方後円墳というモニュメント(遺跡)について従前とは異なった新たな視点を導入して分析・調査を行うことがもっとも重要な課題である。本研究代表者は、長い期間にわたって数理的な観点からの前方後円墳形態研究に従事してきた実績をもっているが、本研究ではさらにもう一歩踏み込んだ調査研究をめざしている。当該年度はこうした基礎的な方法論の探索に注力し、一定の方向性を見いだすことができた。一方、本研究でとりあげる邪馬台国と前方後円墳は、日本古代史および考古学における長年の研究を通じて相互の深い関連性が認識されている。関連性の根元は文献情報であって、魏志倭人伝と記紀がその中心にある。文献は史学の対象であって、本研究(代表者)が膨大で深遠なその成果を包括的にくまなく取り扱うことはもちろん不可能であるが、邪馬台国という限定された問題の中で関連するいくつかの具体的な断面を分析することは可能であると同時に、考古学や史学といった伝統的分野とは異なった情報学的方法によってそれを試行することに意義があると考えている。こうした根源的な姿勢のありようについては、方向性がほぼ固められている。 上記の【研究実績の概要】でも述べているが、当該年度中に邪馬台国論争の中心に位置する箸墓古墳の墳丘体積を厳密に推計した手法は、次年度以降に予定している各地の古式前方後円墳の体積の推計にも応用可能であり、最終的に、前方後円墳を築いた各地の勢力の大きさ(人口規模)の推定に際して、基礎的なデータとなるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
前方後円墳の時代のはじまりをしるす古墳と想定されているのは、奈良県桜井市の箸墓古墳であって、墳丘長280mの巨大古墳である。日本書紀・崇神紀にその築造記事が記載されている箸墓古墳が実年代でいつ頃の築造になるのか、という年代観が邪馬台国問題を解く重要な鍵のひとつである。従前からの主要な年代観としては、4世紀初頭頃および3世紀中頃という2つが考古学界の主流をなしてきた。近年は、邪馬台国畿内説と連動して後者の年代観が大勢を占めるようになっている。つまり、卑弥呼の死が3世紀中頃という文献情報(魏志倭人伝から読み取れる)が一方にあるので、これとのリンクで直裁的に邪馬台国畿内説を成立させようという思考が底流にあると思われる。 本研究は、こうした現行の箸墓古墳の年代観が、情報学的にみたとき必ずしも不動の学術的根拠をもつものではなく、断片的な推理、直感、あるいは学界のトレンドなどが複合された流動的な見解であろうという認識の下で、これをいったん白紙にもどし、新たな角度からの厳密な考察をめざして調査研究を展開しようとするものである。このための具体的課題として、(1)前方後円墳築造に要する労働量(人日)の推定 (2)箸墓古墳と同型もしくは最古級の前方後円墳の地理的分布 (3)記紀および魏志倭人伝における古代地名の分析、の3つを想定している。ただし、前記の【研究実績の概要】にあるように、(3)については当初の予定にある古代地名の地理的分析を行う具体的な手法が未確定の状況にあり、引き続き模索を継続する。場合によっては、課題目標を若干修正することも想定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の推進に要する基本設備類はすでに従前の科研費および大学内予算などによって十分に整備できている。したがって今後必要となる研究費の大枠としては、(1)物品費、(2)出張旅費、(3)謝金、(4)その他、の4つに分類できる。 物品費については、パソコン関連の消耗品類、メモリ、ソフトウェア、航空写真や地図を含む電子化データなど、および研究遂行上必要な学術・啓蒙図書等の購入に使用することを想定している。 出張旅費については、学会・研究会等への参加旅費、各地の前方後円墳の実地視察等にともなう調査旅費、および海外研究機関の視察を含む調査旅費等に使用する。 謝金は、本研究の推進に必要な関連データのパソコンへの入力作業等の補助員(アルバイト)の費用、および研究遂行上必要な場合に専門家の教示を得る際の謝礼等に使用する。また、複数の専門家を招いて研究ミーティングを行う際の会議費等については上記(4)の研究費を使用することを想定している。 必要な場合、本研究の推進によって得られる知見群を整理し、公開する目的で冊子体に印刷製本することも予定している。このために研究費を使用することも想定している。
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