2012 Fiscal Year Research-status Report
視覚皮質における活性化拡散を指標とする視覚情報処理過程の解析
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23500320
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
河西 哲子 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (50241427)
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Keywords | 視覚 / 注意 / 選択 / 統合 / 体制化 / 物体 / 事象関連電位 |
Research Abstract |
1.これまでの多くの研究が、群化による注意誘導がN1成分に反映されることを示していたが、形類似性に関しては例外的にN2に同定された(Kasai et al., 2011)。しかし群化強度を統制したところ、やはり形類似性によりN1注意効果が変動した。(竹谷隆司が担当し、国際学会および国内研究会で発表) 2.アモーダル補完刺激に対するN1注意効果が、一般大学生における自閉症特性の増加によって増大した。すなわちこの効果が視覚皮質における強制的広域空間統合の個人差を反映することが明らかにされた。(国内学術雑誌に印刷中) 3.領域共通性によるN1注意拡散効果が、一般大学生におけるADHD(注意欠陥多動性障害)高群において左注意時に消失することが示された。これは、知覚の体制化による刺激駆動的な注意誘導作用が、能動的な注意焦点化機能と拮抗することを示唆する。(山田優士が担当し、国内外の学会で発表) 4.文字列や顔など過学習された視覚パタンに対して、それらパタンに特有なERP応答(N170)に重複して、ERPの注意拡散効果が同定された。(文字列は奥村安寿子が担当し、国際会議で発表;顔は留学生のXinfang Dingが担当し、技術報告として発表) 5.N1に後続して現れるP2注意効果が、両側刺激をそれぞれ囲んだ分離条件で囲みのない中立条件よりも増加し、一方、N2注意効果は両側刺激を全体して囲んだ共通条件で中立条件より減少した。この結果は、これら2つの空間的注意効果が知覚的体制化の異なる側面に関わることを示唆する。(李旻昊が担当し、国内研究会で発表) 6.線画物体の連結によって、P2成分の注意効果が課題難易度によらず減少した。これはP2注意効果が、境界によって分離された物体の選択を反映することを示す。(国際学術誌に投稿準備中)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、事象関連電位(event-related potential, ERP)を用いた注意拡散パラダイムにおいてさまざまな刺激・課題文脈を操作し、視覚皮質における強制的な広域空間統合処理の順序・時間の可変性を明らかにすることである。2年目である平成24年度は、初年度に同定されたさまざまな体制化要因(アモーダル補完、大きさ類似性・対称性、知識・単語、領域分離)によるN1, P2, N2注意誘導効果を変動させるいくつかの要因を検討し、それぞれの処理過程および機能的意義に関する知見を得たが、24年度の目的に達していない点も生じた(以下を参照)。しかし総じて最終目的の観点からは意義有る知見を複数得たため、おおむね順調と判断した。 1.群化要因の種類によらず生じるN1注意拡散効果から、時間的に固定された広域空間統合メカニズムが存在し、さらにそこには質問紙に反映される発達障害特性との関係があることが見いだされた。 2.文字・顔などの過学習された刺激に対しては、注意拡散効果よりも早くパタン特異的な活動が同定されたため、学習されたパタンとそうでないパタンにおいて異なる広域空間統合メカニズムが存在することが明らかになった。 3.N1の次段階の選択過程として、主に線画を用いたときに出現するP2注意効果を同定した。しかしこの効果の報告は少なく機能的意義はまだ明らかでない。 4.物体の先行提示の効果を分析したが明瞭な結果が得られず、刺激間間隔を変動させる実験手法の限界が明らかになった。また、課題難易度の効果を分析したが、線画を用いたところN1注意効果が出現せず、初期統合過程への影響を検討できなかった。 5.上記のように、同定されたERP注意効果の基本的な機能的意義の解明が不十分であるため、本年度の目的として掲げた、複数の奥行き情報を含んだより実際的な視覚刺激を用いた場合の検討を開始できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度であるH25年度は、前半においてH24年度に課題として浮上した具体的問題を解決するためにさらに実験的検討を行う(以下)。それぞれの実験・分析にあたっては、引き続き、大学院生の協力を得る。 1.群化による強制的な広域空間統合(注意拡散)へのトップダウン・バイアスの影響に関する検討を行う。線画ではなく表面特徴を持つ刺激を用いて、標的弁別性により課題難易度を操作する。もしもN1注意効果の減少として観察される注意拡散効果が、低負荷時により明瞭に観察されれば、知覚の体制化によるボトムアップ・バイアスとトップダウン的な注意焦点化が、同じ処理過程上で拮抗することが明らかになる。 2.線画上の注意作用の特異性に関する検討を行う。これまでの研究と同様の手続きの実験において、表面情報を持つ刺激を線画に変える。もしも表面特徴を持つ刺激で見られた群化によるN1注意効果への影響が消失し、P2注意効果への影響のみが同定されれば、N1注意効果とP2注意効果はそれぞれ、表面と境界による異なる物体処理過程における異なる選択メカニズムを反映することが明らかになる。 また25年度の中後半においては、それまでに個々の実験で得られた知見をそれぞれ、学会発表および学術論文として公表する。さらに、諸実験から得られた知見をERPを用いた注意研究の中に位置づけ、空間的注意選択過程に関連する各ERP成分が反映する処理過程および選択メカニズムに関して理論的に考察する。また、このERP研究の枠組みをさらに、視覚の神経生理学および認知科学の知見の中に位置づけ、視覚皮質における強制的な広域空間統合処理過程の観点から、視覚情報処理の順序・時間の可変性について考察する。これら理論的な考察はレビュー論文としてまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度は、引き続き実験を行うにあたり、実験遂行・分析に関わる大学院生への謝金、実験参加者への謝金、および脳波実験消耗品に研究費を使用する。さらに、研究成果の発表にあたり国内・外で学会発表を行うための出張旅費、また国際的な学術雑誌に論文を投稿するため英文校閲費を要する。
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Research Products
(17 results)