2012 Fiscal Year Research-status Report
人工物利用における「背後にある潜在論理構造」の学習:認知的加齢の影響の検討
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23500323
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
原田 悦子 筑波大学, 人間系, 教授 (90217498)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
須藤 智 静岡大学, 大学教育センター, 講師 (90548108)
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Keywords | 認知的加齢 / 学習 / GMLT迷路学習 / エラーレス学習/エラーフル学習 / ルール発見 / エピソード記憶/顕在記憶 / 方略 / 発話・行動プロトコル分析 |
Research Abstract |
人が人工物との相互作用の中で「背後にある潜在論理構造」を獲得する学習過程において,健康な高齢者と若年成人の間でどのようなに異なるのか,GMLT(Groton Maze Learning Test)を用いて実験研究を行っている.初年度に行った高齢者群/若年成人群(各24名)の比較実験の結果について,1)新たに考案した学習指標・連続正答数(CCR)において,年齢群間の学習の相違が明確に示され,また2)各種認知機能指標との関係性分析から,特にWM容量(Operation Span)との高い相関が示された.これはGMLTでの学習が単純な知覚的記憶ではなく,認知的制御を必要とするものであることを示し,両年齢群での学習過程を説明しうるモデル化の必要性が示された. 次に,学習条件による変化を検討するため,先行の記憶研究から顕在記憶(エピソード記憶)の利用が困難な群エラーレス学習環境が学習を支援すると考えられたため,第1試行目にエラーレスな情報を付与する実験条件での検討を行った.その結果,3)高齢者群の特に学習中期において学習促進が見られたが,最終的な学習水準には影響を及ぼさなかった,4)そのパタンは若年成人も同様であり,若年成人ではエラーフル学習事態が有効とする先行研究とは異なる結果が得られた.潜在構造の学習のためには,より有効なエラーレス学習の検討が必要であることが示された. 一方,ランダムな正解経路ではなく,一定のルールに基づくメイルを用いて,そのルールの発見・学習が可能か否かの検討を行ったところ,若年成人では学習可能であるのに対し,高齢者は学習が極めて困難であったが,しかし一定のエラー数減少は両年齢群に共通に観測された.こうした結果は,学習における二過程モデル(潜在レベルと顕在的意識的レベルの学習)の必要性を示唆しており,今後のさらに検討を進めていく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GMLT課題における学習の認知的加齢の効果について,潜在的な学習と考えられる「エラーの減少」と意識的レベルでの「わかった」というルール学習や方略選択とでは,異なった年齢間差異が示されることが明らかにされてきた.特に,エラーレス学習/エラーフル学習の比較については,先行研究とは異なる結果が得られ,その本来の概念に立ち戻って,検討をし直す必要性(とチャンス)があることが示され,研究の新たな展開が示唆されているといえる.また潜在的レベルでの学習は年齢群差なしに効果が観察されている点は,GMLTに限定されない認知的加齢と記憶の2過程理論の交互作用の枠組みの中で,他の認知的課題とも関連付けながら,今後検討を深めていく必要性が示唆された.
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Strategy for Future Research Activity |
人工物利用学習過程と認知の二過程モデルとの関係をより明らかにしていくために,1)エラーレス学習環境の在り方について,そのカテゴライズなども含めた分析,2)発見・学習できる「埋め込まれたルール」とその条件をより系統的な分析,3)それらと高齢者群内の個人差(特性による変動)との関係性を分析していく.また,学習時のオンラインのデータをより豊富にしていくために,生理指標,とりわけ循環器系の反応と動機づけ(認知的活動の主体性)についての先行研究(Richter, Friedrich, & Gendolla, 2008)を参考に,連続血圧測定を加えた検討を行っていきたい. 引用文献:Richter, M., Friedrich, A., & Gendolla, G.H.E. (2008). Task difficulty effects on cardiac activity. Psychophysiology, 45, 869-875.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでと同様に,実験実施に必要な参加者謝金,実験用消耗品ほか物品,成果発表のための旅費に研究費を利用する(連続血圧のための機器については関係する研究協力機関との協働研究で行っていくため,経費は発生しない).
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