2012 Fiscal Year Research-status Report
異なる課題要求をもつ視覚・運動課題における対象物の把持位置の乖離に関する研究
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23500325
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
片山 正純 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90273325)
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Keywords | 対象物 / 把持運動 / 把持位置 / 課題要求 / 中心視 / 周辺視 / 不慣れ |
Research Abstract |
本研究では,対象物の把持位置計算に関する脳内メカニズムの解明を目指して, 対象物を把持してテーブルから持ち上げる持ち上げ課題(LT),および対象物を把持するが,持ち上げないつまみ課題(PT)における把持位置について調べており,それぞれの課題要求に応じて把持位置が異なることを報告した.H23年度において,タスクチェンジ・パラダイムを構築し,脳内ではそれぞれの課題要求に応じて明確に把持位置計算を切り替えていることを明らかにした.そこで,H24年度には,これらの把持位置計算における視覚メカニズムに焦点を絞り,視野を制限する実験を行った.中心視野条件ではゴーグルにより中心視付近に視野を制限し,周辺視野条件では対象物の周辺に配置した注視点を注視しながら把持課題を実行した.この結果,視野を制限しない通常条件では,LTはほぼ重心を把持したが,PTでは重心から離れた位置を把持した.中心視野条件でのLTでは重心から離れた位置を把持するようになり,両課題とも重心から離れた同じ位置を把持した.一方,周辺視野条件でのPTでは重心を把持するようになり,両課題ともほぼ重心を把持した.これらの結果は,LTにおける把持位置計算には周辺視野の視覚情報が重要な役割を果たしており,PTには中心視野が重要な役割を果たしていることを示している.さらに,予備的な実験として,運動の熟練度(慣れた運動と不慣れな運動)における把持位置の差異についても調査した.普段使い慣れた指でのLTでは重心に近い位置を把持するが,使い慣れていない指ではPTとほぼ同じ位置を把持した.さらに,慣れている作業空間(右手では右半空間)でのLTでは重心に近い位置を把持するが,慣れていない作業空間(右手では左半空間)ではPTとほぼ同じ位置を把持した.これらの結果は,脳内での把持位置計算には運動の熟練度も関与していることを示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度の研究目標は下記の2項目である. (1)持ち上げ課題とつまみ課題の把持位置のそれぞれの計算過程に関与している視覚メカニズムが異なっている可能性がある.この観点から,持ち上げ課題とつまみ課題の把持位置計算における視覚メカニズムについて調べることを目的として,視野を制限しない通常条件,視野を制限した中心視野条件と周辺視野条件における把持位置について調べる. (2)上記1に加えて,課題実行時の視野制限された状態での計測や視線の計測を行うことにより,対象物への視線方向と把持位置の関係について調べる. 上記1の実地計画についてはおおむね計画どおりに実施することができ,上述の成果を得ることができた.上記2の実施計画については,視線計測装置の機種選定・購入の遅れから,平成24年度には実施することが困難となったため,平成25年度に実施計画していた下記3に関する実験を行った.上記2については平成25年度に実施する. (3)把持位置計算と運動の熟練度との関係を調査するために,普段使い慣れた指での把持(慣れた把持)と使い慣れていない指での把持(不慣れな把持)での把持位置について調べる. 実施状況としては予備的な実験を行い,運動の熟練度における把持位置の差異について調査した結果,把持する指や作業空間に関する慣れた把持運動と不慣れな把持運動のそれぞれの把持位置が異なっていることも示した.この結果は,把持位置計算には運動の熟練度も関与していることを示している.平成25年度においてこの実験を改善・発展して研究をまとめる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には,下記の項目について研究を実施する. (1)導入した視線計測装置および導入予定である大型ディスプレイ(キャリブレーションおよび視覚提示)を用いて,3つの課題(視覚課題,持ち上げ課題,つまみ課題)のそれぞれの実行時に視線を計測し,視線方向と把持位置との関係について調べる. (2)普段使い慣れた指での把持(慣れた把持)と使い慣れていない指での把持(不慣れな把持)において把持位置を計測し,慣れ/不慣れな状態と把持位置の関連性について調べる.さらに,不慣れな把持での把持運動を繰り返し行うことにより,訓練による把持位置の変化についても調べることにより,運動の熟練度と把持位置の関係について調査する. (3)対象物を把持する空間的位置においても運動の慣れ/不慣れが存在する.この観点から,対象物を置く位置を右半空間と左半空間のそれぞれに置いて把持位置を計測する.さらに,上記2と同様に,慣れていない空間(左半空間に対象物を置き右手で把持など)での把持運動を繰り返し訓練し,運動の熟練度と把持位置の関係についても調査する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:上述のように,課題実行中の視線と把持位置の関係について調べることを目的として,視線の計測環境を構築するために,導入した視線計測装置(Eyelink II, SR Research Ltd.)のキャリブレーションと被験者への視覚提示のための大型ディスプレイ(CG276, Nanaoを予定)を導入する.さらに,視線計測装置とアゴ台を固定するために器具の製作,対象物やキャリブレーション用ディスプレイなどを置くための実験用机,視覚提示のためのUMU Glass(日本板硝子),課題実行中の注視点を操作するための装置などを導入する予定である.しかし,対象物の把持位置を計測している三次元位置計測装置(OPTOTRAK3020)の動作が不安定になっているため,今後の状況次第では修理・購入を検討する. 旅費:国内学会(Neuro2013, 日本認知心理学会など)での発表を予定しており,国際会議(ICCS2013, マレーシア)などでの発表を予定している. 人件費・謝金:計測実験への参加者(被験者)への謝金として使用する
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