2012 Fiscal Year Research-status Report
離散観測される確率場における分布理論の開発とその空間統計学への応用
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23500353
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
二宮 嘉行 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (50343330)
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Keywords | 確率値 / ゲノム科学 / 検出力 / 正規確率場 / 多重検定 / 超過確率 / 統計的漸近理論 / 微分幾何 |
Research Abstract |
多重検定間の相関がわかっているとき,その相関の値を利用し,検定のサイズ(FWER; family-wise error rate)をコントロールしつつなるべく検出力が大きくなるように確率値を評価する一般式を与えたのが前年度である.これに対し,多重検定間の相関がわからないとき,前年度の評価式を利用しつつ新しい考え方を導入してより検出力を向上させたのが当該年度の成果である.例えば生物種間において複数の特徴量(例えば身長と体重)を比較する多重検定問題では,特徴量間の相関が一般に未知であるため,多重検定間の相関もわからない.このような場合,特徴量間の相関を一致推定量で置き換え,FWER を漸近的にコントロールする方法を用いるのが最も簡単な対処法である.しかし,特徴量間の相関がそれほど高くないとき,相関を利用してもそれほど確率値の改良(検出力のゲイン)は得られない.そこで,必ずしも一致推定量にはならない統計量を相関の代わりに用いることにより,FWER を漸近的にコントロールしつつ検出力を上げる方法を導いた.検出力を上げる方法は現在も開発され続けているがそのような発想を用いたものは存在せず,開発した手法による検出力のゲインは従来手法のそれよりはるかに大きいことが見込まれている.相関の代わりとなる統計量は容易に求められるものであり,この問題における標準手法となる価値をもつと確信している.統計量を用いて確率値を求める際には離散観測される正規確率場の超過確率の評価式を用いており,したがってこの開発は本研究課題において開発した理論が活かされる応用の一つと位置づけられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題において開発している分布理論を最大限に活かすことができる新しい多重検定の評価方法を発見することができたため,順調に計画は進んでいるといえる.空間統計学への応用を進めているわけではないが,相関がある多重検定問題においては相関がわかっていないケースの方が多く,開発した手法はあらゆる分野で活用されることが見込まれる.多重検定において検出力を上げる方法論は近年発展が進んでおり,その動向を調べているが,近い発想を用いているものも存在していないことを確認している.新しい評価方法の構築であるために成果をまとめることに時間がかかっており,実データ解析における有用性の確認と論文作成ができていれば区分を「当初の計画以上に進展している」としてもよかったと思っている.
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Strategy for Future Research Activity |
まずは実データ解析における有用性の確認と論文作成に取り組む予定である.もともと実ゲノムデータ解析で多重検定を用いることを考えていた際にこの手法の原型を思いついているため,ゲノムデータに対する統計モデルの構築とその統計モデルに合わせた手法のカスタマイズの必要はあるものの,実データ解析における有用性は近いうちに確認できるはずである.そして国内外の専門家と議論し,手法を精錬させた後に論文を作成する予定である.また,現時点では複数の特徴量を比較するタイプの多重検定問題で手法を定式化しているが,手法の有用性を保ったままでどのように一般化できるかといった理論的な問題を解決していく.さらに,相関の代わりの統計量としてどのようなものを使ったらよいか,といった最適性に関する問題にも取り組んでいく予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度に開発した手法に対する議論を求めた国内外での成果発表,ゲノム解析への応用やさらなる理論面での改良を目的とした国内外研究者との交流を予定している(国外旅費:600千円,国内旅費:240千円).ちなみに,福島で行われる日本計量生物学会,サウサンプトン(イングランド)で行われる 8th International Conference on Multiple Comparison Procedures における成果発表の申し込みは既に終えている.また,手法の有用性を確かめる大規模な数値実験を行うため,最新のパーソナルコンピュータを購入する予定である(400千円).それ以外では,書籍や謝金などで使用することを計画している(書籍:100千円,謝金:60千円).
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