2012 Fiscal Year Research-status Report
心臓ネットワーク数理モデルの構築と分岐解析による交互脈の制御
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23500367
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
北島 博之 香川大学, 工学部, 准教授 (90314905)
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Keywords | 交互脈 / 分岐 / 数理モデル |
Research Abstract |
本年度は下記の2点に焦点を絞り,研究を行った. 1.数理モデルの作成とその解析 甲殻類の心臓数理モデルにおいて,小細胞(small cell)と大細胞(large cell)間で作り出され,心筋細胞へ入力される自励振動のリズムについて研究を行った.細胞体と樹状突起を分けた2コンパートメントモデルを作成し,電気シナプス及び化学シナプスモデルを用いて2つの細胞を結合した数理モデルを用いた.文献で示された波形では実験結果とずれが生じていたので,研究協力者の助言を基にパラメータ値の調整を行い,正常なパラメータ値(各種イオン電流のコンダクタンス値)において実験に近い波形を出すことに成功した.そこから,イオンチャネル病などの疾病によりイオン電流の流入に異常が生じた場合を想定して,それらのコンダクタンス値を変化させた場合の出力(大細胞の樹状突起部の膜電位)を計算した.結果として,小細胞の細胞体のカリウムイオンのコンダクタンス値が下がることにより,交互脈が発生することがわかった.更にコンダクタンス値が下がると,バースト発火数が減少しやがては脈が1回跳ぶ現象が発生し,心臓にとって好ましくない状況が発生することを明らかにした. 2.交互脈の抑制 昨年と今年の数理心臓モデルの解析により,イオン電流の流入の異常が発生すると交互脈が起こることを明らかにした.そこで,パラメータ値の制御によりこの交互脈を抑制する手法を提案した.具体的には,交互脈は力学系における周期倍分岐に対応するので,安定性に関する評価関数を構築し,その関数値が大きくなると制御が入り,自動的にパラメータを調整し,交互脈の発生(周期解の周期倍分岐による不安定化)を防ぐことに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心筋細胞に人工的なシナプス電流を入力した数理モデルの解析を通して,死の予兆と言われている交互脈の発生要因の一つとして「細胞外カリウムイオン濃度の上昇」を平成23年度に特定した.これらの解析では,心筋細胞への入力が一定であるという仮定であったが,平成24年度は小細胞と大細胞間のネットワークにより心筋細胞へ入力されるリズムの変化を考察した.結果として,「細胞外カリウムイオン濃度の下降」が,交互脈を生ずることを明らかにした.すなわち細胞外のカリウム濃度は上昇しても下降しても異なるメカニズムで交互脈が発生する可能性があることが分かった.数値計算の高速化では,FPGAを用いた簡略化分岐解析プログラムを作成し,ソフトウェアを用いた並列処理よりも約30倍の高速化を実現できた.従って研究は順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
現在作成した数理モデルは下記の2つである:1.心筋細胞への入力電流は周期的であると仮定して,心筋細胞へ周期的シナプス刺激電流を人工的に入力したモデル,2.大細胞と小細胞のネットワークを構築し,心筋細胞への入力を再現したモデル.今年度は1と2を結合し,甲殻類の心臓全体の数理モデルを構築し,各種パラメータ変化に伴い心筋細胞の膜電位(筋収縮に対応)がどのように変化するのかを調査する.その数理モデルを用いて,交互脈を始めとして様々な不整脈をコンピュータ上で再現する.数理モデル上で現象の再現が出来れば,それらの現象のパラメータ(細胞外イオン[ナトリウム,カリウム,塩化物,カルシウムイオン]濃度,イオンコンダクタンス(イオンの細胞内外への移動のしやすさ),各種イオン電流の平衡電位,パルス刺激電流の強度や周波数等)依存性を数値分岐解析の手法を用いて正確に調査する.パラメータ依存性が分かれば,どのパラメータがいくらぐらい変化すれば正常な脈に戻るのかがわかるようになる.それらの数値計算は時間が非常に掛かることが予想されるので,FPGAを用いた並列処理プログラムの開発を行う.FPGAのプログラムは簡略化版が平成24年度に完成し,約30倍の高速化を実現済みである.今後は,詳細な分岐解析を行うためにそれらをOpenCL等によるプログラムに拡張する必要がある.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究協力者である研究室内の学生が発表を1件キャンセル(学生の健康問題)したためにそのために用意していた約5万円が次年度使用となった.平成25年度は,大規模なシステムの解析およびGPU・FPGAのプログラム開発を予定しているので,コンピュータシステム一式を導入する.
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Research Products
(8 results)