2013 Fiscal Year Research-status Report
心臓ネットワーク数理モデルの構築と分岐解析による交互脈の制御
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23500367
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
北島 博之 香川大学, 工学部, 准教授 (90314905)
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Keywords | 分岐 / 交互脈 / 数理モデル |
Research Abstract |
本年度は下記の2点に焦点を絞り,研究を行った. 1.心筋数理モデルの解析 ラットの心臓数理モデルであるLuo-Rudyモデルを用いて,細胞外カリウムイオン濃度が上昇し,時間非依存カリウムイオン電流の平衡電位が高くなれば交互脈が発生することを初年度に明らかにした.本年度は更に詳しい解析を行った.結果として,時間非依存カリウムイオン電流の平衡電位が与える影響の中で,特に時間非依存カリウム電流の不活性ゲートが重要であることを明らかにした.更には,6種類の各種イオン電流の変化と細胞の膜電位の変化は相互に影響を与え合うので,1種類のイオン電流のみが膜電位に影響を与えると仮定し,それらの組合せを詳細に調べた.結果として,時間依存・時間非依存カリウム電流と膜電位の影響のみで交互脈が発生することを明らかにした. 2.リズム発生器の解析 甲殻類の心臓数理モデルを用いて,心筋細胞に送られるリズムの発生について解析を行った.昨年度に小細胞の細胞体のカリウムイオンのコンダクタンス値が下がることにより,交互脈が発生することを明らかにした.しかし,交互脈から心停止に至る現象をモデルで再現できていなかった.本年度は,電気シナプスモデルとして,更に詳細なモデルを使用することにより,小細胞の細胞体のカリウムイオンのコンダクタンス値が下がることのみで正常脈から交互脈を経て心停止へと至る現象を再現することができた. 1.は心筋細胞へ正常なリズム信号が入力されたシステム,2.はリズムを作り出すシステムの解析結果である.いずれの場合もカリウムイオンに関するパラメータが交互脈の発生に寄与していることがわかった.イオンチャネル病などで異常が生じた場合には,特にカリウムイオンに注目することにより,重篤な状態となることを未然に防ぐことが可能であることが数理モデルを用いた結果より分かる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度において,心筋細胞に人工的なシナプス電流を入力した数理モデルの解析を通して,死の予兆と言われている交互脈の発生要因の一つとして「細胞外カリウムイオン濃度の上昇」を特定した.これらの解析では,心筋細胞への入力が一定であるという仮定であったが,平成24年度は小細胞と大細胞間のネットワークにより心筋細胞へ入力されるリズムの変化を考察した.結果として,「細胞外カリウムイオン濃度の下降」が,交互脈を生ずることを明らかにした.平成25年度においては,平成24年度のモデルの改良を行い,交互脈から心停止に至るプロセスを数理モデルにおいて再現できた.また,平成23年度において確認した事を更に詳細に解析し,時間依存・時間非依存カリウム電流と膜電位の影響のみで交互脈が発生することを明らかにした.数値計算の高速化では,FPGAを用いた分岐解析プログラムを改良し,平成24年度よりも複雑な式に対応できるようにした.以上より,研究は順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策:現在作成した数理モデルは下記の2つである:1.心筋細胞への入力電流は周期的であると仮定して,心筋細胞へ周期的シナプス刺激電流を人工的に入力したモデル,2.大細胞と小細胞のネットワークを構築し,心筋細胞への入力を再現したモデル.今年度は1と2を結合し,甲殻類の心臓全体の数理モデルを構築し,各種パラメータ変化に伴い心筋細胞の膜電位(筋収縮に対応)がどのように変化するのかを調査する. 昨年度に行った抑制手法は,状態変数に外乱が加わった状態から正常な状態に戻る時間を早くすることに主眼をおいた手法であった.本年度は,パラメータ摂動を考慮して,パラメータ空間において分岐点よりできるだけ離れたパラメータ値に設定する手法を提案する.具体的には,交互脈は力学系における周期倍分岐に対応するので,考察しているパラメータ範囲において,この分岐より最も遠くなるパラメータ値を検索する.結果として,大きなパラメータ摂動が加わったとしても,交互脈の発生を防ぐが可能となる. それらの数値計算は時間が非常に掛かることが予想されるので,GPUを用いた並列処理プログラムの開発を行う.GPUのプログラムは簡略化版が平成23年度に完成し,約50倍の高速化を実現済みである.今後は,それらをライブラリ化してGPUをよく知らない研究者でも使えるようにする予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
コンピュータシステム一式を90万円で購入したが,合い見積もりで競争をさせることで当初の予算より20万円程安くすることができた. 最終年度においてはこれらの経費を英文校正費,論文投稿費(オープンアクセス化を含む)にあて積極的に研究成果を公表していく予定である.
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Research Products
(5 results)