2011 Fiscal Year Research-status Report
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23500383
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
菱田 竜一 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (90313551)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / 生理学 / 可視化 / 認知科学 |
Research Abstract |
1、帯状回および頭頂連合野の活性化により視覚野に抑制反応が誘起される。視覚野の抑制を誘起する大脳皮質領域を同定するため、前部帯状回・後部帯状回・頭頂連合野を1ミリの細目に区切り、その交点に経頭蓋電気刺激を順次与え、視覚野への効果を調べた。その結果、前部帯状回の後端、後部帯状回および頭頂連合野への刺激が抑制を誘起すること、さらに頭頂連合野が抑制を最も強く誘起することを明らかにした。2、視覚野抑制は、皮質内経路または視床を経由する神経回路によるのかもしれない。抑制反応の神経基盤を調べるため、後部帯状回および頭頂連合野へトレーサーを注入し、同部位との神経接続を解析した。その結果、まばらではあるが視覚領野への投射と、視床網様核への投射が見られた。これらの結果から、視覚野抑制には2つの経路が機能している可能性が示唆された。第1は、視覚皮質内の抑制細胞が機能して視覚野が抑制されるという直接経路。第2は、まず視床網様核の抑制細胞が機能して外側膝状体の活動を抑制し、その結果視覚野が抑制されるという間接経路である。3、頭頂連合野の活性化により視覚野の応答が抑圧される。視覚野の視覚刺激に対する応答に対して、頭頂連合野の電気刺激が及ぼす効果を調べた。その結果、視覚刺激に対する応答がシャットダウンされ、さらに、その抑圧の効果は電気刺激終了後も10分程度持続することを明らかにした。後者の結果は、視覚野抑制が可塑的に変化しうることを示しており、頭頂連合野・帯状回の活性が学習に関与するかもしれないという示唆を得た。4、頭頂連合野・帯状回の不活性化により視覚野の応答が増強される。活性化と逆の効果を調べるため、頭頂連合野・帯状回と視覚野の間の皮質領域に切れ目を入れ、これらの領野からの出力を遮断した。その結果、視覚刺激に対する視覚野の応答が増強され、視覚野への抑制が定常的に存在することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、「(1)各一次感覚野に抑制反応を誘起する前帯状回部位のマッピング」、「(2)2音弁別課題を用いた注意機能の行動解析」、「(3)前帯状回から視覚領域への抑制投射経路の解析」を行う予定であった。(1)については、聴覚野・体性感覚野での抑制反応を残念ながら今回は検出できなかった。しかし視覚野の反応については、マッピング対象部位を前帯状回に限らずにより広く設定し、抑制反応を起こしうる範囲と、もっとも強く抑制する部位を特定でき、今後の研究展開に重要な知見を得ることができた。(2)については、(3)の実験において重要なデータが得られ始めたので、こちらの進展を優先することにした。(3)では、破壊実験による頭頂連合野・帯状回の不活性化の実験を進め、これらの領野から視覚野への抑制が定常的に存在するという当初予想していなかった結果を得られた。また、抑制投射経路の解析のため、当初の計画にはなかった後部帯状回および頭頂連合野へのトレーサー注入実験を行った。そして、視覚野抑制に働く経路として、直接経路と間接経路という2つの経路が機能しているという示唆が得られた。これらの結果は今後の実験展開に大きく影響を与えうるもので、(2)よりも(3)を優先するという計画変更に見合うだけの研究成果を得られることができた。以上から、部分的には予定していた実験の遅延があったものの、そのほかの部分では予期していた段階より進んだ進展が見られ、全体を見渡して検討し、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1、2音弁別課題を用いた注意機能の行動解析。聴覚情報への注意を要する課題を遂行中に、視覚刺激を入れると注意がそがれ、課題の成績が下がると予想される。この成績低下率を、視覚情報への注意の指標として測定する。前帯状回後端・頭頂連合野・後部帯状回の活動を増減させた時の成績低下率を測定し、同部位の注意機能への関与を検証する。亢進させるには、同領野に埋め込んだ慢性電極を使って電気刺激する。低下させるには、同部位に留置したカテーテルよりムシモルを注入する。あるいは、該当皮質領域に切れ目を入れたマウスと入れていないマウスとで比較検討する。2、視覚領域への抑制投射経路の解析。抑制神経細胞でGFP蛍光蛋白質が発現している系統のマウスを使い、帯状回および頭頂連合野へトレーサーを注入して、同部位との抑制細胞との接続を解析する。さらに、帯状回や頭頂連合野に電気刺激を加えて視覚野の抑制反応を起こしたマウスにおいてc-Fos(神経興奮のマーカー)の発現を調べ、抑制反応が起こっている時に活性化している神経回路部位を解析する。3、第I層抑制ネットワークのin vitroスライスイメージング。広範囲の第I層を1枚の切片の中に含む脳表スライスを調整し、電位感受性色素で染色、電気刺激を加えてin vitroイメージングを行い、ネットワークの空間パターンを解析する。また、パッチ電極による解析も行い、ネットワークの電気生理的特性の分布パターンを調べる。4、2光子顕微鏡in vivoカルシウムイメージングを使った視覚野チューニングカーブの解析。視覚情報への注意の有無によって、視覚野神経細胞の方位選択性が変化することが知られている。そこで、頭頂連合野や帯状回が注意機能に関与することを明らかにするため、視覚野神経細胞の方位選択性を2光子顕微鏡で測定し、頭頂連合野や帯状回の活動の有無による影響を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費は、おおむね全額を使用した。残額の99,295円(全体の7.1%)は、年度末頃に消耗品の購入に使う予定だったが、研究の進行状況によって購入が延期になったものである。次年度の研究費と合わせて使用したい。次年度の研究費は、主に物品費と旅費に使用する予定である。 物品費としては、以下の物品の購入費として使用したい。マウスおよびその飼育に必要な飼料などの実験動物関連の物品。神経活動の測定などに使用するオシロスコープなどの実験機器。CNQXなど薬理学的実験に使用する薬や、フラビン経頭蓋イメージングの際に使用する麻酔薬および歯科用樹脂、2光子顕微鏡カルシウムイメージングの際に使用するカルシウム指示色素、トレーサーの分布やc-Fosの発現を調べる際に使用する試薬、脳表切片のイメージングに使用する電位感受性色素などの薬品類。行動実験に必要なLEDライトを装備した2音弁別学習システムの作製に必要な物品や、in vivoイメージングに使用する動物固定台の改良に必要な部品、2光子顕微鏡in vitroカルシウムイメージングに必要な専用チャンバーの作製に必要な物品など実験工作部品。実験データの保存およびバックアップのために必要なHDディスクとDVDディスク、実験データの解析に必要なパソコンやソフトウェアなどコンピューター関連の物品。本研究課題の進行に必要となる情報を掲載している書籍。旅費としては、本研究課題の成果を速やかに国内および国外の学会などで発表するための費用、本研究の進展に必要な情報を収集するために国内および国外の学会などに参加するための費用として使用したい。
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Research Products
(5 results)