2012 Fiscal Year Research-status Report
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23500383
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
菱田 竜一 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (90313551)
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Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / 生理学 / 可視化 / 認知科学 |
Research Abstract |
1、頭頂連合野の活性化により聴覚野に抑圧反応が誘起される。聴覚野に対する抑制については昨年度検出を試みたが不成功に終わっていた。今回は実体顕微鏡の光学的倍率を1.6倍から3.2倍に上げるという工夫を試みところ、聴覚野付近に陰性のフラビン信号を微弱ながら観察することができた。そこで、聴覚野の聴覚刺激に対する応答に対して、頭頂連合野の電気刺激が及ぼす効果を調べたところ、応答が抑圧されることを明らかにすることができた。 2、頭頂連合野の機能破壊により視覚野の応答が増強される。昨年度は、大脳皮質に切れ目を入れるという構造破壊によって頭頂連合野の抑制機能を解析したが、この方法では単なる通過繊維の切断が原因とする可能性を排除できなかった。そこで、頭頂連合野にムシモールを注入して同領野の興奮性神経活動を機能的に不活性化する実験を行った。結果は構造破壊実験と同様であったので、視覚野の定常的な抑制を頭頂連合野の機 能として確定できた。 3、視覚領域への抑制投射経路の解析。抑制神経細胞でGFP蛍光蛋白質が発現している系統のマウスの頭頂連合野に電気刺激を加えて視覚野の抑制反応を起こし、c-fos(神経興奮のマーカー)の発現を調べ、抑制反応が起こっている時に活性化している神経回路部位と抑制細胞との関係を解析した。視覚野内の抑制神経細胞の活動が向上していたことから、皮質内を通った抑制投射経路の存在を明らかにした。 4、頭頂連合野損傷によるコントラスト感受性の低下。大脳皮質に切れ目を入れて頭頂連合野の出力を遮断した実験群と切れ目をいれていない対照群とで、縞パターン視覚刺激に対する視覚野応答のコントラスト感受性を測定した。対照群に比べ実験群では、低コントラストの視覚刺激に対する応答性が低下していたことから、頭頂連合野の生理的機能としてコントラスト感受性の制御を示唆することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、「(1)2音弁別課題を用いた注意機能の行動解析」、「(2)視覚領域への抑制投射経路の解析」、「(3)第I層抑制ネットワークのin vitroスライスイメージング」、「(4)2光子顕微鏡in vivoカルシウムイメージングを使った視覚野チューニングカーブの解析」を行う予定であった。 (2)では、ほぼ当初の予定通りの実験を行い、頭頂連合野の電気刺激により誘導されたc-fos発現を解析して、頭頂連合野から視覚野への皮質内抑制投射経路の存在を明らかにすることができた。さらには、視床の幾つかの神経核も関与を示唆することができた。これらの部位の同定や生理的意味付けは、将来の研究課題になると考えられる。また、第I層の抑制神経細胞にはc-fosの陽性反応を見いだせず、第I層抑制ネットワークの関与には否定的な結果だったので、(3)の実験計画を中止することにした。 これまでの実験から、頭頂連合野が定常的に視覚野を抑圧しているという現象を明らかにできたが、この視覚野抑制の生理的な意義については不明だった。今回、この問題に切り込み、視力の中枢制御への関与を示唆する重要な知見を得ることができた。一般に視力調整は、視標への焦点合わせや視野中央への視標の移動など、眼球という感覚器の運動制御によるものとされていた。ところが、コントラスト感受性という視力の一側面についてではあるが、中枢である大脳皮質頭頂連合野の神経活動が視覚情報を修飾し視力に影響を与えているという結果を得ることができた。 コントラスト感受性の実験において極めて重要な結果が得られだしたので、この実験の進行を最優先とし、(1)と(4)の実験については延期することにした。 以上、予定していた実験の変更がいくつかあったものの、重要な論点について大きな進展が見られた。全体を見渡して検討し、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1、外側膝状体への抑制投射経路の解析。頭頂連合野から視覚野への皮質内抑制投射経路の存在は既に示せたが、これと並行して視床の頭頂連合野から外側膝状体への抑制投射という第2の経路が存在する可能性を追求したい。まず、頭頂連合野に電気刺激を加えた時に、外側膝状体の神経活動が抑制されるか否かをユニット記録により調べる。抑制が観測されない場合は、「外側膝状体への抑制投射は存在しない」と考える。抑制が見られた場合には、その抑制がフィードバック経路を通じて視覚野抑制から派生した2次的なものである可能性を検討するため、視覚野を除去したマウスでも外側膝状体の神経活動を測定し、抑制の有無を調べる。もし抑制があれば、第2の抑制投射経路の存在を示していると考える。 2、2音弁別課題を用いた視覚への注意の行動解析。聴覚情報への注意を必要とする課題を遂行中に、視覚刺激を入れると注意がそらされて課題の成績が下がると予想される。この成績低下率を、視覚情報に向けられた注意の指標として測定する。頭頂連合野の活動を慢性電極による電気刺激で増加させた時の成績低下率や、頭頂連合野を破壊したマウスでの成績低下率を測定する。得られた結果から、頭頂連合野の注意機能への関与を検証し、抑制投射経路の生理的意義について考察する。 3、2光子顕微鏡in vivoカルシウムイメージングを使った視覚野チューニングカーブの解析。視覚野神経細胞の方位選択性や方向選択性を2光子顕微鏡で測定し、頭頂連合野の活動の有無による影響を調べる。頭頂連合野から視覚野への抑制投射の効果を細胞レベルで解析することで、視覚野神経細胞の応答調節という視点から抑制投射経路の生理的意義について考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費は、おおむね全額を使用した。残額の160,454円は、主に物品の購入にあてる予定だったが、研究の進行状況によって購入が延期になったものである。次年度の研究費と合わせて使用したい。 次年度の研究費は、主に物品費と旅費に使用する予定である。 物品費としては、以下の物品の購入費として使用したい。神経活動の測定などに使用するオシロスコープなどの実験機器。ユニット記録に用いる金属電極。マウスおよびその飼育に必要な飼料・ケージなどの実験動物関連の物品。ムシモールなど薬理学的実験に使用する薬や、フラビン経頭蓋イメージングの際に使用するウレタンやマーカインなどの麻酔薬および歯科用樹脂、2光子顕微鏡カルシウムイメージングの際に使用するカルシウム指示色素などの薬品類。行動実験に必要な2音弁別学習システムの作製に必要なLEDライト・防音箱・スピーカー・アクリル板・金属板・ケーブルなどの物品や、in vivoイメージングに使用する動物固定台を改良するのに必要な部品。実験データの保存およびバックアップのために必要なハードディスクとDVDディスク、実験データの解析に必要なパソコンやソフトウェアなどコンピューター関連の物品。本研究課題の進行に必要となる情報を掲載している書籍。 旅費としては、本研究課題の成果を速やかに国内および国外の学会などで発表するための費用、本研究の進展に必要な情報を収集するために国内および国外の学会などに参加するための費用として使用したい。
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Research Products
(2 results)