2013 Fiscal Year Research-status Report
視床ー視床網様核ー大脳皮質のループ回路が構成する感覚情報処理機構の解明
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23500397
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
木村 晃久 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (20225022)
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Keywords | 視床網様核 / 聴覚 / 視覚 / 体性感覚 / 感覚統合 / 視床 / 大脳皮質 / 注意 |
Research Abstract |
視床網様核は、視床核と大脳皮質領域が出力した情報を基に視床核に抑制投射し、視床核の情報処理と視床核が大脳皮質領域に送る情報の伝達を制御する。視床網様核の機能に関する従来の見解では、視覚、聴覚、体性感覚の情報の処理と伝達をそれぞれ制御する機能解剖的に分離したセクターが視床網様核を構成すると考えられている。この見解に対し、本研究では、異種感覚情報が単一の視床網様核細胞に収束、干渉して、視床網様核が感覚種を越えて感覚情報の処理と伝達を制御する神経機構が存在することを仮定する。当該年度では、動物(麻酔したラット)実験において、視覚、聴覚の刺激(感覚入力)が、視床網様核細胞の音あるいは光反応を修飾することを明らかにし(European Journal of Neuroscience in press)、異種感覚情報が視床網様核細胞に収束し視床網様核を介して相互に情報の処理と伝達を制御する可能性(本研究の仮定)を示した。また、視床網様核細胞において聴覚と体性感覚入力が感覚反応を相互に修飾することを示す実験(前年度施行)のデータを当該年度で解析し、結果を学会で報告した。更に、当該年度で、視床網様核における視覚と体性感覚入力の干渉に関する実験を施行した。実験では、視覚と体性感覚入力も相互に感覚反応を修飾することが示唆された。研究結果から、視床網様核が、異種感覚情報の統合と競合及び注意制御、あるいは、感覚時間情報処理の制御に深く関与することを示すこと(本研究の目的)ができたと考える。 加えて、当該年度では、視床網様核細胞の聴覚反応におけるバースト活動を調べる実験を新たに施行した。前年度論文にまとめた視覚反応と同様に、聴覚反応において1次あるいは高次視床核に投射する視床網様核細胞群が特異なバースト活動を示す結果が得られ、視床網様核に2つの特異な制御機構が存在する可能性を学会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度以降の研究実施計画に含まれる研究項目2)<視床網様核細胞が反応する感覚種を特定し、その感覚種の刺激に対する1次、2次反応が、他の感覚種の時間差刺激にどのように影響されるか調べる>の聴覚-視覚間の影響に関する実験は終了し結果を論文に発表、聴覚-体性感覚間の影響に関する実験は終了し論文作成中、視覚-体性感覚間の影響に関する実験は終了し結果を解析中で、概ね研究計画に沿って研究が進んでいる。また、当初の研究実施計画に含まれていないが、全体の研究目的達成に有用な研究(1次と高次視床核へ投射する視床網様核細胞群が示すバースト活動の特異性)を前年度の論文発表に引き続き、新たな実験を施行して発展させることができている。しかしながら、平成23年度研究実施計画に含まれる研究項目1)<内側膝状体細胞から、音圧と周波数に関連した1次、2次反応の特性を調べ、更に、2音の時間差刺激による1次、2次反応の変化と細胞の解剖学的特性を調べる>の実験1では、実験の準備(計測システムの構築)は概ね完成しているが、実験の遂行に至っていない。平成23年度研究実施計画に含まれる研究項目1)<体性感覚(痛覚)あるいは視覚の時間差刺激による1次、2次聴覚反応の変化を内側膝状体細胞から記録し、反応の変化と解剖学的特性の関係を調べる>の実験2と3は、結果を解析しているが、更なる実験の施行とデータの解析を次年度以降更に継続する必要がある。平成24年度以降の研究実施計画の研究項目3)<大脳皮質1次聴覚野及び島皮質聴覚野において、2音の時間差刺激、あるいは異種感覚刺激による聴覚1次、2次反応の変化を調べる>では、実験の準備は概ね完成しているが、実験の施行に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度研究実施計画に含まれる研究項目1)の実験を施行し、研究結果を論文にまとめる。平成24年度以降の研究実施計画に含まれる研究項目3)の実験は、できるだけ早い時期に施行を開始する。当初の研究実施計画に含まれていないが、実験過程で得られた視床網様核細胞のバースト活動の特性に関する研究知見を論文にまとめる。当初の研究計画で予定した近傍細胞記録-染色法を覚醒動物に適用する新たな実験が今後展開できるように、実験システムを構築する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究が推移する過程で、研究対象の重点項目を細胞形態の解剖学的探索から、細胞活動の電気生理学的探索にシフトし、これまでの麻酔した動物から細胞活動を記録する実験を覚醒動物から記録する実験に発展させる必要が生じてきた。当初の研究実施計画では、細胞形態の計測システム(研究備品)を購入し細胞形態の解剖学的探索を行う予定であったが、この購入に研究費を使用せず、これからの研究進行を踏まえつつ、これまでの研究結果を支持し発展させる覚醒動物から細胞活動を記録する新たな実験システムを次年度に構築することに研究費を充てる必要があると考えた。また、当該年度に予定した北米神経科学学会に参加することができず、次年度に研究成果をまとめて北米神経科学学会に発表する費用に充てたいと考えた。 実験動物、薬品等の消耗品は、当初の研究実施計画に沿って使用する。当該年度に予定したが実施しなかった北米神経科学学会の参加を次年度で行い、視床網様核が、異種感覚情報の統合と競合及び注意制御(Cross-modal modulation of attention)、あるいは、感覚時間情報処理の制御に深く関与することを示した研究結果(最も重要な研究成果と考えている)を発表する。近傍細胞記録-染色法を覚醒動物に適用する新たな実験システムを構築するため脳固定装置等の研究備品を購入する。
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Research Products
(6 results)