2012 Fiscal Year Research-status Report
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23500402
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
川井 秀樹 創価大学, 工学部, 准教授 (90546243)
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Keywords | クロスモード / 視覚喪失 / 大脳皮質 / アセチルコリン / 聴覚 / シナプス / 可塑性 / CREB |
Research Abstract |
研究成果の内容: 本研究の目的は、盲目のマウスをモデルに、聴覚大脳皮質での神経情報伝達機能の鋭敏化のメカニズムを、細胞レベル、および分子レベルで解析することである。人では、幼少期に視覚障害になった成人において、音への鋭敏さが増す一方、聴覚大脳での音への反応が健常者より減少することが知られている。これは聴覚皮質における神経回路の変成により、効率的な音神経情報処理がなされているためと考えられる。つまり、視覚喪失により、不必要な情報(ノイズ)を排除し、必要な情報を選択するという効率的な情報選択(フィルタリング)を行なう脳構造に変成したと考えられる。これらの仮説のもと、当初計画していた研究に加え、盲目と健常マウスにおいて、音刺激による反応の違いを、神経回路の再構築に関わる転写因子CREBの活性に着目して研究を行なった。音刺激がない場合では活性に違いは見られなかったが、音刺激によるCREB活性が、盲目により減少していることが判明した。また実施計画で提案した研究においては、アセチルコリンによる皮質での神経制御、特に、皮質外から聴覚情報を受け取る神経細胞での興奮性の制御を調査した。視覚喪失(眼球剥奪)により細胞膜の内在的電気特性には大きな変化は見られなかったが、通常のアセチルコリンによる神経細胞の興奮性の増加が、視覚喪失により減少することが明らかになった。これにより、盲目による聴覚皮質での音刺激反応の減少の機序の一端が解明された。 意義と重要性 本研究により、感覚系のクロスモードな経験による脳の変成のメカニズムにアセチルコリン制御が関与していることが初めて示唆された。アセチルコリンがアルツハイマー病の認知能力欠損に関与していることから、この変成のメカニズムを更に理解することにより、認知症の新たな治療の方途が開拓されることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度に入り、研究協力者に恵まれ、さらに実験に必要な機器の買い替えが可能になったことで、研究が進んでいる。実験設備の時間的拘束と研究協力者の変更と訓練の必要性から、研究の目的の範囲内で可能な研究を検討し、新たな実験を取り入れた。その結果、当初計画していた研究は予定より遅れているものの順調に進行している一方、新研究により新たな発見がなされ、目的達成には概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の実施計画を進める一方で、転写因子活性を用いた新たな実験結果を更に進展させる予定である。 昨年度から新たに行なってきた、転写因子CREBを用いた神経活性の研究により、仮説の基盤が確立されつつある。これまでは、人の幼少期での視覚喪失をモデルするため、開眼直後に視覚喪失させ、10日後にホワイトノイズを用いて聴覚皮質全体を神経活性し、神経細胞核内でのCREB活性を免疫染色法を用いて検証した。今後はこの方法を用いて、①皮質層での活性の違い、②神経回路変成の臨界期の同定、③神経細胞内でのCREB活性に関与する酵素および細胞タイプの同定、そして④トーンを使った聴覚皮質の局所の神経活性によるフィルタリング現象の証明などを行なう予定である。 また、当初の実施計画の研究であるアセチルコリン制御の研究を更に進めて行く。特に、入力層細胞でのアセチルコリンによる興奮性制御の差異が明らかになったため、①それを介する受容体など、制御メカニズムの同定を行なう。そして、②視床皮質シナプスと皮質内シナプスからの入力に対するアセチルコリン制御、③入力層からの情報を受取る上層の神経細胞制御、また新たに④下層でのアセチルコリン制御の変化などを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(62,403円)が生じた状況は、消耗品や備品などの物品購入残額による。翌年度の研究費と合わせて使用する。 翌年度は、上記の研究に必要な動物管理費、薬品や抗体などの消耗品、脳固定装置の備品などの物品、および学会発表に必要な旅費や印刷費などに使用する予定である。
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