2011 Fiscal Year Research-status Report
攻撃行動を指標とした自閉症、発達障害原因遺伝子の機能解析
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23500427
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小泉 恵太 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 准教授 (70377406)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 自閉症/広汎性発達障害 / 攻撃衝動 / 神経発生 |
Research Abstract |
次年度に研究室の引っ越しを控えていること、科研費の最終交付額が年度途中まではっきりしなかったことなどから、本年度は2年目に計画していたショウジョウバエ研究を中心に行った(研究に必要な機器、予算が少なくても遂行できることなどから)。 まず、ショウジョウバエの攻撃行動を指標とした観察システムを改造し本研究に合うシステムを構築した。次にセロトニン系、ノルアドレナリン系(オクトパミン系)神経系にてtrp2(温度感受性チャンネル)の神経系特異的強制発現を行い、それぞれの神経系の特異的活性化による攻撃行動の変化を明らかにした。さらに、浜松医大のグループとのヒト臨床共同研究から明らかになった(Suda et al. Mol Autism、2011)、自閉症関連遺伝子Robo遺伝子について、ハエでのセロトニン/ドーパミン系での強制発現が、社会環境変化による攻撃性の増加に有意な変化をもたらすことを明らかにした。さらに、新たに同定したHit遺伝子の攻撃性の変化についても解析を行った(以上、第34回日本分子生物学会にて発表) また、マウスを用いた解析については、上記の理由から限定的なものとなったが、特に新たに同定したHit遺伝子の解析を中心に行なった。すなわち、Hitがin vitroで神経の伸長、細胞移動に関わり、アクチンとの分子的関連性があることを明らかにした。 さらに、次年度以降の解析の準備として、PC12を用いたセロトニンによる細胞移動アッセイ系の確立を行い、マウス初代培養系でのアッセイ系についても、ほぼ確立することが出来た。上述のRoboや、FoxP2、Reelinなど多くの発達障害原因遺伝子が、細胞移動に関わることを踏まえ、これらの遺伝子の機能的関連性の研究を進めるつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究室の移転、本年度研究予算が年度途中まで未確定であったことなどから、研究計画を一部変更し、次年度計画した実験(ショウジョウバエ攻撃衝動解析)を先に行ったが、実験自体は、ほぼ順調に達成することが出来た。本年の研究から、ハエでもセロトニン、ノルアドレナリン系が攻撃行動に関与することを確認し、さらに、社会環境の変化による攻撃衝動の変化にも深く関わることを明らかにすることが出来た。マウスの系でも同様の神経系が社会環境の変化による攻撃衝動の変化に関連することが、明らかになっている。 また、ヒト自閉症関連遺伝子として明らかになったRoboが、ハエの系でも社会環境の違いによる攻撃衝動に関連することを明らかにし、この系がRoboのモデル動物での分子機能解析の上でも有効であることを示すことが出来た。 一方、哺乳類での解析については、主に培養細胞での解析を行うことにより、ハエ研究から同定した、発達障害関連遺伝子候補、Hitについての分子機能を明らかにすることが出来た。Hitついては、同じFAMグループのDrr1が発達期の環境ストレスと関連し、アクチンを介したシナプス発達をコントロールすることが明らかになり(PNAS, 108: 17213-8, 2011)、Hitとは機能的、構造的類似性が高いことから、次年度以降の研究発展を期待している。 さらに、自閉症関連遺伝子Roboの機能解析に関連し、セロトニンを介した神経細胞移動解析系を、ほぼ期待通りの形で確立することが出来た。Roboは脳発生期での細胞移動に関連することが既に報告されているが(Development 133:2243-52, 2006)、その詳細は未解明である。発生期の神経細胞移動は発達障害の原因の一つと考えられており、次年度の研究に役立つ解析系として期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、計画変更により昨年度に行わなかった、マウスモデル系(一部ではラット培養細胞PC12を使用)での解析を特に推進したい。 1. 培養細胞系での神経細胞移動の解析:本年度に確立した培養細胞系での細胞移動解析系を用い、薬理的(セロトニン系関連アゴニスト、アンタゴニストやcAMPなどの阻害剤の効果を見る)解析を詳細に行い、神経細胞移動の分子メカニズムを明らかにし、その上でRobo、Hitなどの研究対象としている分子や、他の発達障害原因遺伝子(FozP2、Reelin、MecP2などが)が、どのように神経細胞移動に関連しているのかを明らかにする、さらに、in utero での遺伝子導入から、目的遺伝子の強制発現、RNAiによる発生期の神経細胞移動、脳構築への影響を解析して行く。 2. マウスの攻撃行動と遺伝子解析:若年のマウスの単独/集団飼育等の社会環境の変化やストレスによる攻撃衝動性の変化を観察し、さらに脳内での遺伝子発現の変化や機能的、構造的変化を明らかにし、これにRobo、Hit等の遺伝子がどのように関わるかを明らかにする。 3. ショウジョバエ攻撃行動解析系を利用した遺伝子機能解析:本年度はRoboに関し、社会環境変化による攻撃衝動変化との関連性を明らかにした。次年度以降は関連することが期待されるNeurexin遺伝子(ヒトでは自閉症原因遺伝子)についても機能解析を行い、Robo、Neurexinの機能的関連性を明らかにしたい。また、発達障害に関連する、他の新たな遺伝子の解析、新規同定も試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述のとおり、研究予算が年度途中まではっきりしないことに合わせ、予算額が少なくとも達成できるショウジョウバエ研究を先に行った為、当初計画より少ない額にて研究を遂行できた。未使用分は次年度に予定する培養細胞系での研究(下記の1)に使用予定である。 1. 培養細胞系での神経細胞移動解析:薬理的解析に用いる、セロトニン系のアンタゴニスト、アゴニストやCaを介した細胞内伝達系に関連する阻害剤(細胞移動に深く関係すると考えられていることから)等を購入する。また、対象遺伝子のsiRNAの購入も計画している。さらに、in uteroでの解析の準備を進める為の分子生物学関連試薬(コンストラクト作成用)、エレクトロポレーション機器のレンタル代、免疫組織解析でのマーカー抗体購入、マウス購入、飼育代などにも使用する。さらに、同解析系を利用し、Roboや関連すると期待されるslit、Neurexin等の神経細胞学的、生化学的解析解析の為の試薬類の購入にあてる。 2. マウスの攻撃行動と遺伝子解析:マウスの購入、飼育代、行動解析の為のビデオ装置購入、遺伝子発現解析の為の分子生物学関連試薬の購入(cDNA合成、RT-PCR等やさらにはマイクロアレイ解析)、免疫組織解析の為の、抗体等の購入費に使用する。 3. ショウジョバエ攻撃行動解析系を利用した遺伝子機能解析:ハエの飼育代、遺伝子系統の購入費、免疫組織染色の為の抗体等購入費に使用する。また、実験進捗状況によっては小型インキュベーターを購入する。
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Research Products
(4 results)