2011 Fiscal Year Research-status Report
神経病理学的新規アプローチによる弧発性・遺伝性認知症の大脳白質小血管病変の解明
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23500435
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
高尾 昌樹 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 専門研究部長 (50245487)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 祐子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 臨床検査部, 医長 (60344066)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 脳・神経 / 病理学 / 神経科学 / 長寿命化 / 生体材料 |
Research Abstract |
平成23年度は,当初予定されていた症例の選定を中心に行った.代表者が在籍する高齢者ブレインバンクにおける症例を後方視的・網羅的に探索しており,現在約300例程度の臨床的認知症と神経病理学的脳血管病変が存在した症例を抽出している.高齢者が多いことから,アルツハイマー病は,レヴィ小体病(LBD)の合併も多い.同時に,strategic infarctと言われる,基底核や視床などの小血管病変を合併している症例もあることから,それら合併例をどのように検討するかが課題である.組織サンプリングに関しては,ルーチン病変に加え,前方視的に集積している症例に関しては,ブレインカッティングの際に,白質病変(皮質直下白質から深部)のパラフィンブロックを抽出している.また,それらの通常染色及び加齢性変化を抽出するための免疫染色に関しても,順調に進行している.遺伝性脳血管疾患は,現在本邦に比較的報告されている,常染色体劣性遺伝性脳血管疾患で白質病変を有するCARASIL 3例を検討中である.保存条件などが一律でないこと,従来報告されている,本疾患に特定的な抗体を用いた免疫染色が,必ずしも一定の結果を得ないことなど,解釈には慎重でなければならない点が多いことが判明してきた.この中で,特に1例に関してはその臨床経過を長期に追跡し,剖検まで確認できた症例であり,皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体劣性脳動脈症(CARASIL)の54歳男性剖検例として,第98回 日本神経病理学会関東地方会(2011.08.07)で報告した.また,必携脳卒中ハンドブック 改訂第2版に,「脳血管性認知症」を,雑誌神経内科に「ラクナ梗塞の病理と発症機序」を執筆した.以上,23年度は予定通り組織標本検索の下準備を施行しながら,遺伝性疾患の検索平行して開始している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時における,平成23年度研究計画の中で,症例の選定に関しては,代表者が在籍する高齢者ブレインバンク症例を後方視的・網羅的に探索し,孤発例の検討を継続中である.7000例以上の剖検例データベースから,臨床的認知症と神経病理学的脳血管病変が存在した症例を,抽出しているが,現在の段階ではまだ300例程度にとどまっており,当初の目標数500には達していない.その理由の1つとして,遺伝性脳血管疾患で白質血管病変を有するCARASIL症例の検討にも重点を置いたことがある.この研究にも,重点をおいた理由は,遺伝子変異が判明している症例,特にそのうち1例に関しては,臨床経過も詳細に記載されていることから,孤発例と遺伝例を比較していく過程において,遺伝性症例の病変を熟知することが,孤発例の解釈に重要であることが考慮されたためである.その過程で,従来報告されているような,血管病変における組織学的所見とは必ずしも一致しない点も多々あり,検討を継続中である. 組織サンプリング部位の選定とその実施に関しては,前向き症例に関しても順調に経過し,MRI画像も活用しながら白質病変(皮質直下白質から深部)のパラフィンブロックの抽出を継続している.これらの神経組織検査に関して,通常のルーチン染色に加え,その他加齢性変化を見極め得る特殊染色,免疫染色も継続している.しかし,血管に対する特殊免疫染色は,遺伝性症例の結果をみながら施行するので,24年度以降に行うこととし,抗体などの購入は次年度となった.小血管病変の分布の検討に関して,全例を網羅はできていないので継続している.白質病変だけでなく,基底核や視床などの小病変を合併する場合もあり,その取り扱いを検討中である.以上,一部遅れや物品購入を次年度にしたものなど若干変更はあるが,一方,本研究の基盤となるあらたな方向性も加わり,上記自己評価が妥当と考慮される.
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Strategy for Future Research Activity |
23年度に到達できていない過去の症例の抽出を継続する.同時に,申請時の研究計画通り,前方視的症例蓄積も継続する.特に,前方視的にみる場合は,ブレインカッティングの際に,通常当ブレインバンクでのルーチン標本に追加し,積極的に大脳白質の標本を追加し検討を行うことは変わらない.大脳白質の小血管病理学的検討として,血管サイズによる分類(完成した組織標本から,細動脈(直径100μmまで),小動脈(直径300μmまでと300~1mmまで)を行い,サイズ別に,血管壁肥厚による分類を検討する(リサーチ顕微鏡Eclipse 80i(Nikon)とディジタルカメラDS-Ri1(Nikon)(あるいはスキャナー(Aperio))でサイズ別に3箇所以上の血管画像を撮像し,画像解析ソフトで上記インデックスを計算.0.2-0.3が正常,0.5以上で狭窄).血管サイズと壁肥厚別に分類された小血管の,組織学的,免疫組織学的性状を検討.通常染色により,血管内皮増殖,内弾性板の変性・消失,小血管周囲の微小出血の有無,小動脈瘤の形成,血管周囲腔の拡大を検討(半定量スコア化).加えて,免疫組織学的に血管内皮,中膜,外膜に認める蛋白レベルの病理変化を,検討した抗体ごとに半定量スコア化する.遺伝性脳血管疾患特にCARASILの検討を継続し,孤発例と遺伝例の違いを検討する.また,併存する加齢性変化(老人斑,神経原線維変化,レビー小体など)と,その病理所見を同時に検討し,大脳白質の小血管病変による認知障害と変性型認知症との関連をそれぞれの症例で解析する,全体として 大脳白質の小血管病変と認知障害との関連を明確にすることを目標とする. 25年度は24年度までの検討を継続的に行い,全データ解析・論文発表を行い,特に大脳白質の小血管病変と認知障害との関連や,病変の進展度合いなどを総括する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度:23年度に引き続き,物品費として組織標本作成のための,試薬や染色液,抗体などの費用.特に前年度は購入しなかった血管に関する抗体(抗CD31,CD34抗体,抗α-smooth muscle actin抗体,抗typeI, III, IV,VI,VIIIコラーゲン抗体,さらに抗fibronectin抗体,抗VGEF抗体,抗Notch3抗体など)を多種,統計学的解析と画像解析を行うためのソフト,研究に必要な資料や書籍の購入,学会・研究会および論文で発表を行うための準備費用や印刷などを含め,24年度直接経費1,400,000円,23年度の繰り越し分(1,037,579円)をあわせたうち,2,037,579円を見込んでいる.特に,標本数が多いことから,組織染色にかかる費用を要する. また旅費として学会発表(海外も予定)を含め,400,000円を見込んでいる.25年度も,同様の内容を継続して,症例を追加するが,特に,最終年度であり,発表,論文などへの費用も必要となる.
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