2012 Fiscal Year Research-status Report
脳内ストレス応答を制御する蛋白質チロシンリン酸化シグナルの解析
Project/Area Number |
23500437
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
大西 浩史 群馬大学, 生体調節研究所, 准教授 (70334125)
|
Keywords | 神経細胞 / シグナル伝達 / 脳 / ストレス / 行動 |
Research Abstract |
これまでに、強制水泳ストレスを受けたマウスの脳で、膜型分子SIRPαが迅速にチロシンリン酸化を受けること、さらに、SIRPαやその細胞外リガンドCD47を欠損したKOマウスでは、強制水泳中の無動時間(うつ様行動)が増加することを見いだしていた。また前年度は、強制水泳による脳内SIRPαのチロシンリン酸化には、水に浸ることにより起こる低体温が最も重要な要因であることを新たに見いだした。この予想外の展開により、SIRPαのチロシンリン酸化が低温ストレス応答シグナルとして機能することが新たな可能性として考えられた。また、強制水泳ストレスを用いてストレス応答を検討する場合、低体温が原因となる反応を考慮する必要性が示された。本年度は、SIRPα以外に強制水泳テストで活性化状態が変化するMEK, CREB, CaMKIIについて、低体温の影響を検討した。その結果、CaMKIIはSIRPαと同様に、低体温に応答して活性化状態が変化し、一方で、MEK, CREBについては低体温は活性化状態の変化を誘導する条件として十分ではないことが分かった。MEK, CREBの活性化変化は、不快感や不安といった脳の機能が関与する可能性が高く、精神的なストレスへの応答において、これらの分子が重要である可能性が考えられた。これらの結果は論文として国際誌に発表した。一方で、SIRPα KOマウスの強制水泳テストでの行動異常(うつ様行動の増加)に神経機能の変化が関与することを示す目的で、興奮性神経細胞特異的なSIRPαコンディショナルKOマウスを用いた解析を行ったが、予想外に全身ノックアウトマウスのような行動異常は認められなかった。これらの結果から、興奮性神経細胞に発現するSIRPαではなく、抑制性神経細胞やグリア細胞におけるSIRPαの機能が強制水泳テストにおける行動制御に関わる可能性が考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度からの研究により、強制水泳ストレスにより脳内でリン酸化するSIRPαが、高次脳機能により生じるストレスではなく、低体温ストレスに応答するシグナルであることが明らかになり、研究計画の方向転換が必要となった。その点で、計画は順調に進展しているとはいえなかったが、この発見を端緒として、強制水泳による生体へのストレスを、不安や情動の変化に由来するストレスと、低体温によるストレスとに分ける解析に着手できたことは進展として評価できると考える。特に、強制水泳により脳内で活性化状態が変化するSIRPα以外の分子について解析を進め、その結果、CaMKIIはSIRPαと同様に、低体温に応答して活性化状態が変化する分子であり、MEK, CREBの活性化変化は、不快感や不安といった脳の機能が関与する可能性が高いことを明らかにし、論文として報告できた。また、想定外に見いだした低温応答性のSIRPαシグナルも広い意味で生体のストレス応答反応であり、神経機能を制御する新たなシグナルとして解析を継続する予定である。この点について、前年度の段階では、低温応答シグナルとしてのSIRPαの解析を重点化することを計画していたが、上述のシグナル分子の低温依存性についての解析結果を論文としてまとめることを先行させたために、本年度は十分に取り組むことは出来なかった。以上のように、解析は必ずしも計画通り進められたわけではないが、新たな知見を論文に発表する事が出来たことは大きな成果である。また、当初の計画を修正しつつ、現在、コンディショナルノックアウトマウスを用いた解析の結果も集まりつつある。これらの状況を踏まえ、全体として計画はおおむね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、前年度に十分に取り組めていない、低温ストレス応答としてのSIRPαチロシンリン酸化についての解析を進めることを計画している。計画としては培養神経細胞などを用いて低温ストレスがSIRPαチロシンリン酸化を引き起こすメカニズムを in vitroで解析し、低温が神経細胞に与える作用がどのようにチロシンリン酸化シグナルに変換されるのかを検討する。また、ノックダウンによりSIRPα欠損神経細胞を作製し、神経活動性や、神経細胞死などを、正常神経細胞と比較検討して、SIRPαチロシンリン酸化シグナルを介して制御される神経機能を検討する。この解析を通じて、哺乳類の細胞が内包する低温ストレス応答のメカニズムの理解を進める。低温は、脳虚血や出血による障害から脳を保護する効果があり、すでに臨床応用されているが、保護効果の詳細なメカニズムは十分に解明されていない。本計画を進めることで、低温による生体保護効果の理解につながる成果が得られる可能性に期待している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、SIRPαの低温応答性の発見から派生して、いくつかの脳内シグナル分子が、低温応答性に基づいて分類できることを見いだした。この点について詳細な解析を進め、成果を論文としてまとめるために、当初の研究計画を修正して進めた。その結果、当該年度の研究費の使用計画についても変更が必要となり、次年度以降に繰り越して使用する研究費が生じた。これらについては、次年度に請求を予定している研究費とあわせて、チロシンリン酸化による低温ストレス応答シグナルを in vitro, in vivoで解析するための研究用消耗品、あるいは最終年度に研究を加速させるための実験補助者の人件費として使用する計画としている。
|
Research Products
(13 results)