2012 Fiscal Year Research-status Report
神経伝達物質のG蛋白質共役型受容体刺激によるErbB4の制御とシナプス機能
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23500451
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
山本 秀幸 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60191433)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仲嶺 三代美 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20381105)
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Keywords | Cキナーゼ / ErbB4 / G蛋白質共役型受容体 / GnRH / プロテインキナーゼD / タンパク質分解反応 / タンパク質リン酸化反応 / TACE |
Research Abstract |
報告者らは、培養神経株細胞であるGT1-7細胞を用いて、G蛋白質共役型受容体(GPCR)の中のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体の刺激により、ErbB4の活性化と限定分解という相反する現象が起こることを見いだした(J. Cell. Physiol., 2012)。今回、見いだした二つの現象の生理的意義と分子機構を検討した。1)GnRH刺激後のErbB4の活性化により、MAPキナーゼの中のERKが活性化された。また、GnRH刺激後の遺伝子発現の変化をDNAマイクロアレイにより検討した。その結果、ErbB4の活性化はERKの活性化を介して、遺伝子発現を変化させることが示唆された。また、ErbB4の分解により、ニューレグリン刺激によるERKの活性化が減弱した。すなわち、ErbB4の分解によりErbB4の脱感作が起こることが明らかになった。2)阻害剤およびsmall interfering RNAを用いて、反応に関与するGタンパク質を検討した。その結果、GqとG11がErbB4の活性化にも限定分解にも関与することが明らかになった。さらに、阻害剤およびsmall interfering RNAを用いた検討から、両反応にCキナーゼのデルタが強く関与すること、プロテインキナーゼDはERKの活性化には関与するが、ErbB4の限定分解には関与しないことが明らかになった。3)タンパク質分解酵素に対する阻害剤を用いた検討から、ErbB4の限定分解には、tumor necrosis-α-converting enzyme (TACE)が関与することが明らかになった。 今回の研究から、GPCR刺激後のErbB4の制御に関与する主な分子が明らかになった。今後は、それぞれの分子の相互作用を明らかにすることで、様々な神経伝達物質によるErbB4の制御機構が明らかになるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シナプス機能の分子基盤の理解には、神経伝達物質の刺激によって引き起こされる後シナプス部位での細胞内情報伝達機構の総合的な理解が必要である。後シナプス部位には、ErbB4が存在する。ErbB4は、heparin binding-EGF (HB-EGF)やニューレグリン1が結合することで活性化される。HB-EGFやニューレグリン1の前駆体は細胞膜に存在する。以前の研究から、GnRHの刺激によりそれらの前駆体が限定分解を受けて細胞膜から遊離し、ErbB4を活性化すると考えられる。当初の目的のように、GnRHの刺激後のHB-EGFやニューレグリン1の限定分解に至る分子機構がほぼ明らかになってきた。すなわち、GnRHの刺激によりGqとG11が活性化され、Cキナーゼのデルタの活性化に続いてPKDが活性化されて、HB-EGFやニューレグリン1の限定分解に至ると考えられる。また、SrcがGT1-7細胞では恒常的に活性化されていて、GnRHの刺激によりPYK2を活性化することを見いだした。活性化されたPYK2はHB-EGFやニューレグリン1の限定分解を促進させることを示唆する実験結果も得られた。ErbB4の限定分解に関しては、活性化されたCキナーゼのデルタがTACEによるErbB4の限定分解を促進させることが明らかになった。この反応にはPKDとPYK2は関与しないことも明らかになった。すなわち、ErbB4の活性化と限定分解の分子機構の違いが明らかになってきた。なお、GnRH受容体以外にGT1-7細胞が持つGPCRの刺激では、ErbB4の活性化は起こるが、ErbB4の限定分解はみられなかった。したがって、ErbB4の限定分解は、GnRH受容体の刺激に特異的な反応である可能性も考えられる。このために、当初計画していたGnRH以外の神経伝達物質の刺激によるErbB4の切断実験は進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
1) ErbB4の活性化の分子機構については、(1) Cキナーゼのデルタ、PKD、Src、PYK2の相互作用を詳細に検討する。まず、それぞれの免疫沈降による共沈実験を行う。ErbB4とそれぞれの分子の共沈実験を行う場合は、TACEの阻害剤を加えて、ErbB4が分解されない条件で行う。もし、共沈実験で相互作用が検出できない場合は、大腸菌の発現系を用いて、タグを付けたErbB4やPKD、PYK2を作成して精製する。得られた融合タンパク質を用いて、細胞の粗抽出液からのpull-down実験を行う。結合が検出できた場合には、融合タンパク質の欠損変異体を作成して、結合部位を同定する。(2) PKDとPYK2の活性化に続いて、HB-EGFやニューレグリン1を限定分解するタンパク質分解酵素を同定する。これまでに、アルカリフォスファターゼを融合させたHB-EGFの前駆体を発現するGT1-7細胞株を樹立した。この細胞株を用いて、HB-EGFの前駆体の切断後に、細胞培養液中に遊離するアルカリフォスファターゼ活性を定量する系を確立する。この系を活用することでHB-EGFの限定分解の機構を明らかにする。(3) Srcにより活性化されたPYK2がErbB4を直接にリン酸化して活性化する可能性も検討する。32P-ATPを用いて、PYK2によるErbB4のリン酸化や活性化の実験を行う。また、2) ErbB4の限定分解に関しては、デルタによるTACEのリン酸化と活性化をin vitroと細胞系で検討する。3) 海馬神経細胞もGnRH受容体を発現しており、GnRHの刺激が シナプス機能を修飾するとの報告がある。ラット海馬の初代培養神経細胞を用いて、GnRHの刺激によるErbB4の活性化と分解反応を検討する。これらの検討により、GnRHによるErbB4の制御機構が明らかになるものと期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1) 抗体、一般試薬、器具、放射性同位元素化合物 ErbB4、Cキナーゼのデルタ、PKD、Src、PYK2などの抗体は市販の抗体を購入する。免疫沈降実験や免疫ブロットには、プロテインAセファロースやプロテインGセファロースに加えて高価な検出試薬を購入する。タグ付きの融合タンパク質や変異体の作成には、高価な分子生物学の実験試薬を購入する。siRNAも多量に購入する。GT1-7細胞の培養のために、無菌的な操作に必要な実験器具を多量に購入する。また、リン酸化反応の実験には、32P-ATPを頻回に購入して使用する。 2) 動物 海馬の初代培養細胞を得るために、妊娠しているラットを購入する。
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Research Products
(13 results)