2011 Fiscal Year Research-status Report
ニューロン型グルタミン酸輸送体の生理的役割:拡散依存性シナプス調節の制御
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23500457
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
佐竹 伸一郎 生理学研究所, 生体情報研究系, 助教 (30360340)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 小脳 / プルキンエ細胞 / 登上線維 / 籠細胞 / グルタミン酸輸送体 / スライスパッチクランプ法 / エタノール |
Research Abstract |
脳幹(下オリーブ核)から小脳皮質のプルキンエ細胞に投射する登上線維の神経終末から放出された興奮性伝達物質グルタミン酸は、プルキンエ細胞に強力な興奮を誘発させると同時にシナプス外領域にも拡散する。拡散したグルタミン酸は、籠細胞(分子層の介在ニューロン)軸索終末のAMPA受容体を活性化することにより、籠細胞‐プルキンエ細胞間GABA作動性伝達のシナプス前抑制を引き起こす。ラット小脳スライスにパッチクランプ法を適用することにより、この異種シナプス抑制がエタノールによって用量依存的に阻害されることを発見した(25‐50 mM:酩酊~泥酔時の血中濃度に相当)。エタノールの阻害作用は、プルキンエ細胞に特異的に発現するグルタミン酸輸送体EAAT4の選択的阻害薬threo-3-methylglutamic acidにより有意に減弱した。一方、シナプスを被覆するバーグマングリアに発現するグルタミン酸輸送体GLASTとGLT-1の阻害薬(PMB-TBOA, dihydrokainate)は、エタノールの異種シナプス抑制阻害作用に無効であった。また、エタノールの阻害作用は、protein kinase C(PKC)とphosphatidylinositol-3 kinase(PI3K)の阻害薬により完全に消失した。こうした結果から、エタノールにはPKC/PI3Kカスケードを介してプルキンエ細胞のEAAT4機能(グルタミン酸回収能)を亢進することにより、登上線維伝達物質のシナプス外拡散を阻害する作用があると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エタノールが小脳異種シナプス抑制を阻害する作用は、プルキンエ細胞に特異的に発現するグルタミン酸輸送体EAAT4の機能亢進によって仲介されていることを示唆する結果を得た。また、PKC/PI3Kカスケードの関与など、エタノールの作用メカニズムの一端を明らかにすることができた。今年度計画していた全ての課題に取り組み、エタノール作用の基礎データを取得するとともに分子基盤の解明を進めるなど、目標を十分に達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
EAAT4機能の制御機構をさらに追究するため、電気生理学的/薬理学的手法を用いて2次メッセンジャー系の関与について重点的に検討を行う。また、登上線維シナプス入力を反映したEAAT4長期増強が生理的条件下でも発現する可能性を検討する。グルタミン酸輸送体とその駆動に関わるNa+/K+イオン勾配を作出するNa+ポンプの共役関係を明らかにするため、Na+ポンプα3サブユニットタンパク質(Atp1a3)の遺伝子ノックアウトマウスを導入する。野生型マウスとノックアウトマウスの表現型(シナプス特性、異種シナプス抑制)を比較する。軸索Ca2+スパイクのキネティクス変化を正確に記録するため、低親和性Ca2+指示薬を用いた時間分解能が高いイメージングシステムの構築を進めている。このシステムを籠細胞軸索終末に適用するとともに薬理学的手法を併用して、AMPA受容体がGABA放出を抑制するメカニズムの解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在使用しているパッチクランプ実験用機器の多くは、他グループからの借用品である。恒常的なパッチクランプ記録を実施するため、こうした機器(微小マニピュレータ、ガラス電極作製装置等)の購入・拡充を進める。実験内容により、高価な試薬(受容体阻害薬、輸送体阻害薬等)を脳スライスに長時間かつ高濃度で灌流投与し続ける必要に迫られることも想定される。実験設備の拡充のみならず試薬類の安定供給にも努める。次年度は、Atp1a3遺伝子ノックアウトマウスの導入に伴い、今年度よりも動物購入・飼育費用が増大すると予想している。今年度の研究費の残金から、この費用増大分を補填する。
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Research Products
(3 results)