2012 Fiscal Year Research-status Report
ニューロン型グルタミン酸輸送体の生理的役割:拡散依存性シナプス調節の制御
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23500457
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
佐竹 伸一郎 生理学研究所, 生体情報研究系, 助教 (30360340)
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Keywords | 小脳 / プルキンエ細胞 / 登上線維 / 籠細胞 / グルタミン酸輸送体 / スライスパッチクランプ法 / エタノール |
Research Abstract |
脳幹(下オリーブ核)から小脳プルキンエ細胞に投射する登上線維の軸索終末から放出された興奮性伝達物質(グルタミン酸と推定)は、プルキンエ細胞を強力に興奮させるとともにシナプス外領域にも拡散する。拡散した登上線維グルタミン酸は、分子層介在ニューロン(籠細胞)軸索終末のAMPA受容体(GluA2/3)を活性化することにより、籠細胞‐プルキンエ細胞間のGABA作動性伝達にシナプス前抑制(即ち、脱抑制)を引き起こす。 昨年、この異種シナプス抑制が、エタノールにより用量依存的(25‐100 mM:酩酊~泥酔時の血中濃度に相当)に阻害されることを発見した。またこれまでに、エタノールの阻害作用は①プルキンエ細胞特異的に発現するグルタミン酸輸送体EAAT4の選択的阻害薬threo-3-methylglutamic acidにより減弱すること、②protein kinase C(PKC)とphosphatidylinositol-3 kinase(PI3K)の阻害に伴い消失することなどを見出している。 エタノールの作用メカニズムを追究するため、登上線維からシナプス外に拡散したグルタミン酸の動態をグルタミン酸輸送体電流を利用して観察した。エタノール(50 mM)は、登上線維を刺激してプルキンエ細胞に誘発したシナプス性輸送体電流(synaptic transporter current)を不可逆的に減弱させた。また、エタノールがグルタミン酸輸送体電流を減弱させる作用は、PKC阻害薬GF109203Xにより完全に消失した。こうした結果から、エタノールの異種シナプス抑制阻害作用には①PKCを介したタンパク質リン酸化カスケードと②EAAT4の機能亢進に伴う登上線維伝達物質のシナプス外拡散の減弱という2つのプロセスが関与していると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた課題に予定通り取り組み、エタノールにはPKC/PI3Kカスケードを介してグルタミン酸輸送体EAAT4の機能を亢進させる作用があることを明らかにした。 グルタミン酸輸送体とその駆動に関わるNa+/K+イオン勾配を作出するNa+ポンプの共役関係を検討するため、Na+ポンプα3サブユニットタンパク質(ATP1A3)の遺伝子ノックアウトマウスを導入した。また、ニューロン軸索Ca2+スパイクのキネティクス変化を正確に記録するため、低親和性Ca2+指示薬を用いた時間分解能が高いイメージングシステムを構築した。これにより、ニューロン型グルタミン酸輸送体の制御機構ならびにAMPA受容体が籠細胞のGABA放出を抑制する分子メカニズムを検討するための実験設備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
野生型マウスとAtp1a3遺伝子ノックアウトマウスの間で表現型(シナプス特性、異種シナプス抑制、長期抑圧など)の比較を行う(この課題は、自治医科大学・川上潔教授、兵庫医科大学・池田啓子教授らとの共同研究として実施する)。 Ca2+イメージングシステムを分子層介在ニューロンの軸索終末に適用するとともに薬理学的手法を併用して、AMPA受容体がGABA放出を抑制するメカニズムの解明を目指す。また併行して、カルシウムチャネルの機能を亢進する作用が報告されているロスコビチン(roscovitine)がニューロン軸索のCa2+動態におよぼす影響を観察する。 光分解性ケージ化合物を利用した、グルタミン酸輸送体電流の記録システムを構築する。エタノールがプルキンエ細胞のEAAT4機能を亢進させるメカニズムの追究ならびに登上線維‐プルキンエ細胞間シナプスにおけるグルタミン酸輸送体長期増強の観察に適用したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
光分解性ケージ化合物を用いた実験系を導入するため、既存のパッチクランプ記録用装置に光刺激システムを追加する(光源装置、落斜投光管ならびに電動シャッターを新たに購入する)。 実験内容により、高価な試薬(受容体・輸送体阻害薬、ケージ化合物など)を脳スライスに長時間かつ高濃度で灌流投与し続ける必要がある。こうした試薬類の安定供給に留意する。 Atp1a3遺伝子ノックアウトマウスの導入に伴い、動物購入・飼育費用が増大すると予想している。これまでの研究費の残金から、この費用増大分を補填したい。
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Research Products
(3 results)