2011 Fiscal Year Research-status Report
神経栄養因子を介する中脳ドパミン神経活動調節の異常に関与するチャネル機構の解明
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23500464
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
難波 寿明 新潟大学, 脳研究所, 助教 (90332650)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 神経栄養因子 / ドパミン / 生理特性 / ニューレグリン / 上皮成長因子 |
Research Abstract |
上皮成長因子(EGF)やニューレグリン(NRG)は、ドパミン神経に対する神経栄養因子であり、統合失調症発症との関与が提唱されている。本研究では、これら因子の幼若期投与による発達期と成熟時でのドパミン神経の生理特性変化、チャネル分子発現、あるいはin vivoでの活動変化を解析する。それにより、これら投与動物が示す統合失調症様行動異常との関連性を考察する。本年度は、EGF、NRG投与動物の急性スライス標本ならびに 麻酔下in vivo記録によってシナプス伝達、自発活動性の検討を実施した。EGF投与マウスのドパミン神経の生理特性に関しては、発火特性への影響が見出されている。この生理特性変化はドパミン神経の興奮性の亢進に寄与する可能性がある。NRG投与マウスではEGF投与マウスで見られた発火特性での生理的変化を認めることができなかった。またペースメーカー発火頻度を調節する過分極活性型カチオン電流においても同様であった。その一方で微小シナプス電流解析の結果より、その活動性を増加させる方向にシナプス変化を示していた。実際、スライス標本から自発性発火活動を記録した際には、NRG投与群でその平均発火頻度が増加していた。このようにして、EGF、NRG投与動物では影響を受ける生理的変化が異なっている可能性がある。このようにして両因子はともにドパミン神経の活動を亢進させる方向に影響を持つ可能性が示唆された。 またこれら生理機能の影響が行動異常にまで反映されるかという点を議論するため、in vivoでのドパミン活動性を検討する計画であった。そのための備品として手術用顕微鏡を購入し、麻酔下でのin vivo神経活動を計測するための実験系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本計画初年度の研究実施を通して、EGFとNRGの両者の栄養性刺激が、ドパミン神経のチャネル機能やシナプス入力に対して、各々の因子に特異的な影響を持つことで、自発活動を増加させる可能性が見出されてきている。しかしながら、この調節に関わる分子機序の解明までには至っていない。EGF投与動物における発火特性変化に関して、関与するチャネルの同定などができていないため、薬理的分離などより同定を試み、その発現レベルの解析などの分子的な解析が実施されるべきものと思われる。NRG投与動物に関しては、シナプス入力系への影響を認めたものの、チャネル特性に関しては因子投与の影響を検出するまでには至らなかった。 このスライスでの生理機能の変化が個体でのドパミン活動に反映されるかを議論するため、麻酔下での腹側被蓋野ドパミン神経の平均発火頻度、バースト発火の割合、自発発火を示す細胞の割合の検討を開始した。本年度にはEGF・NRG投与の両群で検討を行ったものの、これまでに著明な影響を認めることができていない。その理由として、新たな実験装置、実験手法の立ち上げ段階であったということもあり、実験手技における安定性の問題などもあげられる。そのため、個体行動レベルで、ドパミン神経の生理特性異常を議論する段階には至っていない。これらの点により、計画の進行はやや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
栄養性因子投与の影響のみならず、トランスジェニックマウスも利用することで、因子過剰刺激の影響が同様の生理機能への影響をもたらすのか検討されたい。分子機序に関しては、特にEGFによるチャネル機能低下作用に関してチャネル分子の薬理的同定を試みる必要がある。さらにより短期的な因子投与の影響も検討も試みることで、因子がドパミン神経に対して栄養活性を発揮する際の、細胞機序への理解が深められる可能性がある。NRG投与動物のチャネル機能への影響が認められていない点に関しては、逆行性標識などを利用し特定の細胞群に着目して解析をすることで、因子投与の影響が検出される可能性がある。 これまでの経過では、ドパミン生理機能の異常と行動レベルとの関連性に関して検討するまでには至っていない。in vivoでのドパミン活動に関しては、マウスを用いた実験系での手技的な安定性が問題となってきてはいるものの、精神刺激薬に対する薬剤応答性に関するドパミン活動性を評価することは可能なものとなっている。これまでの予備的検討で得られている異所性運動などに見られる精神刺激薬に対する感受性亢進や抗精神病薬による改善効果に相関したドパミン神経活動における薬理応答などが見出される可能性がある。あるいは、疾患発症とより関連が深いストレス負荷などのパラダイムも考慮すべきかもしれない。またこれまでの実験はスライスとの対応付けを考慮してマウスを用いたが、in vivo実験系としては、実験精度や安定度に問題あるかもしれない。状況に応じてより解析に有利なラットでも試みるべきかもしれない。これらの点を考慮することにより、生理機能における影響がin vivo活動に反映される可能性がある。また、ドパミン活動や知覚運動機能を調節する大脳基底核活動の評価も状況に応じて実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は主として、実験用マウスの作成と飼育、生理実験用の阻害剤、抗体試薬、in vivo記録用の歯科用セメントなどの消耗品に当てられる。投与動物作成のため、高価なNRGを購入する必要がある。実験用マウスは、スライス実験並びにin vivo記録用を合わせて少なくとも10腹程度は作成する予定である。in vivo活動記録用として、必要に応じてEGF投与ラットも作成する。 EGF投与によって影響を受けるチャネル成分を同定するため、阻害剤を購入し、因子投与により影響を受けるチャネル成分を同定する。また、影響を受けるチャネル分子が同定できた際には、その発現性を生化学的に検討するため、抗体試薬なども入手する必要が生ずる可能性がある。 大脳基底核でin vivo活動記録を覚醒状態で実施するために、頭蓋固定手術などに用いる歯科用セメントや記録電極などの消耗品が新たに必要となる。 旅費に関しては、国内学会発表あるいは打ち合わせのためのものとし、海外(北米神経科学学会の予定)での発表は来年度に持ち越す計画である。
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Research Products
(1 results)