2012 Fiscal Year Research-status Report
神経栄養因子を介する中脳ドパミン神経活動調節の異常に関与するチャネル機構の解明
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23500464
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
難波 寿明 新潟大学, 脳研究所, 助教 (90332650)
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Keywords | ドパミン / 神経栄養因子 / ニューレグリン / 上皮成長因子 / 生理特性 / 動物モデル |
Research Abstract |
上皮成長因子(EGF)やニューレグリン(NRG)は、ドパミン神経に対する栄養因子として考えられている。また、これら因子は統合失調症発症との関連性が提唱されており、当該研究で主として用いるEGF/NRG幼若期投与動物は、その発症に関わる機構を解明する上での有用なモデルとなっている。 昨年度までの研究経過により、EGF投与マウスに関しては、ドパミン神経が保有する発火特性に対する影響が見出され、この生理特性変化が興奮性増加に寄与する可能性が示唆された。また、HRG投与動物では、シナプス入力への影響が見出され、ドパミン活動を増加させる可能性が示唆されてきた。当該年度の実施として、これら生理特性変化がin vivo神経活動に反映する可能性を麻酔下活動記録により検討した。その結果、EGF投与マウスの腹側被蓋野(VTA)のドパミン神経ではバースト率の増加が見出された。またスライスパッチクランプ法を用いた詳細な解析により、活動電位に伴うafter-hyperpolarizationを構成する外向き電流の低下も見出されてきている(平成25年度に行われる国際学会(Dopamine2013、イタリア)に演題登録)。またEGFは、バースト発火に影響を与える淡蒼球外節の一部に活動変化を引きおこすことも見出され、この成果はすでに論文掲載が決定している。 NRG投与マウスのin vivoドパミン活動は、内側VTAでは著明な影響が認められなかったものの、側方VTA-黒質緻密部(SNc)内側領域で同様のバースト亢進が認められた(平成25年度、第36回日本神経学大会に演題登録)。両者で見られたドパミン活動変化は、モデル動物の特性として、精神刺激薬感受性亢進やストレス脆弱性を引き起こす可能性があるものと議論できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の実施として、EGF、NRG投与の両マウスを用いた麻酔下活動記録を行い、終末領域でよりドパミン放出を引き起こすバースト活動の増加が検出されている。これにより昨年度に明らかになった生理特性変化が、in vivo活動性に反映される可能性が示されたという点で計画は進行しているといえる。特にEGF投与はNRGと比べより著明なバースト亢進を引き起こしていた。このことは、in vitro培養系やスライス実験の結果と一致し、EGFが中脳ドパミン神経の生理特性の発達、成熟後の生理機能に対して持続的かつ著明な作用を持つ可能性を示唆するものである。NRG投与マウスのin vivoドパミン活動性に関しても記録部位を考慮したより詳細な解析の結果、VTA側方からSNc内側部でバースト活動が亢進しており、シナプス入力変化がin vivo活動亢進にも寄与する可能性が示された。 EGF投与動物では、ドパミン神経の生理特性変化としてspike after-hyperpolarizationを構成する外向き電流の低下が見出されてきている。当初計画に基づき、その生理特性を決定付けるチャネルの同定を試みた。当該年度は、ドパミン神経特異的に発現するチャネル分子(カルシウム活性型Kチャネル:SK3)に着目し、ウェスタンブロットによる蛋白発現の検討を試みたものの、著明な影響は検出されていない。行動と生理特性の関連付けとして、抗精神病薬などによる行動改善に伴う生理特性変化あるいはin vivo活動変化の検討はまだ進められていない。このような点で、当初計画よりも進行はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
EGF投与動物で見られた生理特性変化の分子的裏づけを得るため、RT-PCRなどによる遺伝子発現解析あるいはチャネル蛋白の抗体染色を中心に、影響が見られるチャネル分子の同定を試みる必要がある。また、EGF過剰発現トランスジェニックマウスも利用することで、同様のチャネル機能・in vivo活動への影響が見られるかどうか並行して解析を進める。このトランスジェニックマウスを解析することで、内在性EGFを介したドパミン系への影響が明確になる。また、抗精神病薬を利用したin vivo活動・チャネル特性変化の検討は、行動改善とドパミン生理特性の関連性を評価する上で有用であると思われる。 NRG投与マウスのin vivo活動変化がSNcの一部で認められたことから、VTAのみならずこのSNc領域でのドパミン神経に、シナプス入力とチャネル発現などの生理特性をスライス実験により新たに検討する。その一方で、VTAでのドパミン活動に対する著明な因子投与の影響を検出するため、ドパミン活動亢進作用をもつストレス負荷パラダイムなども組み合わせin vivo活動を評価する必要があるかもしれない。それにより、モデル動物のストレス感受性の評価あるいは、ドパミン活動調節機能異常と精神疾患発症脆弱性の関連性などが考察できるものと思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度同様、栄養因子投与動物を引き続き作成するためニューレグリン(ヒト組み換えへレグリンβ1(Peprotech社))と妊娠動物を購入する。実験用マウスは、in vivo実験、スライス実験、生化学的解析用に少なくとも計20腹程度は作製する予定である。 EGF投与によって影響を受けるチャネル成分をスライス実験により生理学的に同定するため、チャネル特異的な阻害剤を購入する。また、混合ガスなどの消耗品も必要となる。生化学的解析用に、抗体試薬並びにRT-PCR用ポリメラーゼ酵素、プライマーなどの試薬を消耗品として入手する。 国際学会(Dopamine 2013イタリア)並びに第36回日本神経科学大会(京都)に参加するため、旅費を使用する。また、成果を論文投稿する際の英文校正にも経費を使用する予定である。
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