2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500467
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三浦 健一郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20362535)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 運動視覚 / 眼球運動 / 生理学 / 脳・神経 / 神経科学 |
Research Abstract |
視覚像中に複数の動き要素がある場合には、要素の性質や要素間の関係に応じて二つ以上の動きが同時に見える場合や一つの動きのみが見える場合がある。また、眼の動き等の運動出力においては複数の要素が等しく寄与する場合や、統合あるいは選択された一つの動きのみが寄与する場合がある。本研究では、ヒトと動物を対象とした行動実験とサルを対象とした神経活動記録実験を行い、異なる視知覚や眼球運動の基となる多重運動の脳内表現およびその情報処理機構の解明を目指している。 行動実験では、ヒトとサルの眼前に置いたモニタ上に多重運動刺激を提示し、それを見ている時に誘発される追従眼球運動反応を調べた。互いに反対の方向に動く、空間周波数が異なる二つの正弦波要素の和で構成される様々な二重正弦波運動縞に対する反応を調べた結果、二つの要素の振幅が大きく異なる場合には振幅が大きいほうの要素のみが寄与すること、要素の振幅が同じ場合には両方の要素が等しく寄与すること、さらにこれらの性質が視覚刺激の広い空間周波数帯域で成り立つことがわかった。また、同じ刺激に対するげっ歯類の視運動性反応も同様な性質を持つことがわかり、動物種に共通の性質であることが示唆された。 同じ実験課題を用いて、サルの大脳皮質MT/MST野から追従眼球運動中の単一ユニット活動記録を行った。正弦波運動縞を用いた実験から、MT/MST野ニューロンを効率良く活動させる時空間周波数帯域を調べ、この帯域内にある二つの正弦波運動縞を要素とする二重正弦波運動縞を作成し、その刺激を用いてニューロン活動を記録した。その結果、要素の振幅が同じ場合には両要素の運動がそれぞれの運動方向に最適性を持つ運動方向選択性ニューロンの活動として保持されること等、多重運動の脳内表現を示唆する結果が数多く得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、ヒトと動物の行動実験を通して所期の目的を達成する実験課題について検討を行い、ニューロン活動記録用の実験課題を確立し、一頭目のサルの大脳皮質MT/MST野の神経活動記録を開始する計画であった。現在、既に記録開始に至っており、当初想定していた結果に近いデータが得られている。実験課題の確立を目的として行ってきた心理・行動実験から当初想定した以上の興味深い結果も出ている。二重正弦波運動縞に対するげっ歯類の眼球運動の観察を行い霊長類と同様であるという結果も得た。ヒトを対象とした実験では運動視知覚と眼球運動反応の関係について調べているが、運動開始時と少し時間が経過した後の眼球運動の性質が異なるという所見を得ており、その対応関係を明らかにするための追加実験を企画している。また、構成的研究(モデル化とシミュレーション)では順次モデル化を進めており、眼球運動の時空間周波数依存性等の基本的特性をシミュレーションで再現できる段階にある。以上、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に確立した実験課題を用いて二頭目のサルのMT/MST野から二重正弦波運動縞に対する応答の記録を行う。ニューロンの視覚応答に関する基本的特性は得られた結果を解釈する時に必須のため、これまでの実験で重点的に調べてきた時空間周波数応答特性に加えて視覚運動検出メカニズムの性質も明らかにしつつ研究を進める。それと並行してヒトの心理・行動実験を継続して行う。格子縞刺激等の透明視に関わる多重運動刺激について運動視知覚と眼球運動反応の関係を明らかにし、その結果を踏まえて神経活動記録を効果的に実施するための刺激条件を探索し、神経活動記録実験に投入する。実験から得られたデータを統合的に理解するための構成的研究は実験経過中も行い、より良いモデルを構築するためにどのような実験が必要か検討し、心理・行動・電気生理実験にフィードバックして、実験課題の改善・拡張を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
神経生理実験、動物を用いた行動実験、ヒトを対象とした心理・行動実験の実験的研究と計算機を用いた構成的研究を進めるための物品費、被験者謝金が必要である。また、関連研究の調査および成果報告(北米神経科学学会、電子情報通信学会、日本神経科学学会、日本生理学会)のための旅費、研究成果の論文誌等への投稿のための費用(研究成果投稿料、雑誌掲載料、英文添削料)が必要である。尚、次年度使用額については、実験用消耗品購入の一部、ヒトの心理・行動実験の一部、学会発表の一部、論文投稿の一部を次年度に行うこととしたためである。
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