2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500467
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三浦 健一郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20362535)
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Keywords | 運動視覚 / 眼球運動 / 生理学 / 脳・神経 / 神経科学 |
Research Abstract |
視覚像中に複数の動き要素がある場合には、要素の性質や要素間の関係に応じて二つ以上の動きが同時に見える場合や一つの動きのみが見える場合がある。また、眼の動き等の運動出力においては複数の要素が等しく寄与する場合や、統合あるいは選択された一つの動きのみが寄与する場合がある。本研究では、ヒトと動物を対象とした行動実験とサルを対象とした神経活動記録実験を行い、異なる視知覚や眼球運動の基となる多重運動の脳内表現およびその情報処理機構の解明を目指している。 眼前に置いたモニタ上に多重運動刺激を提示し、それを見ている時に誘発されるヒトと動物の眼球運動反応を調べた。互いに反対の方向に動くテクスチャパターンが重畳した多重運動刺激を見ている時の被験者の眼球運動反応を調べた結果、眼球運動開始時の眼の動きが運動速度が速いほうの要素により強く影響されること、反応開始から1-2秒後ではより遅い要素に支配される等のことがわかった。これらの結果は運動情報選択のおダイナミクスを示唆する所見である。 互いに反対の方向に動く、空間周波数が異なる二つの正弦波要素の和で構成される二重正弦波運動縞を用いてサル大脳皮質MT/MST野の神経活動と同時に起こる眼球運動を調べた。多くの運動方向選択細胞において、選択方向に動く要素の振幅が大きい場合には、二重正弦波運動縞に対する反応が要素単独の動きに対する反応に近くなること、振幅が小さい場合には活動が抑制されること、要素の振幅が同じ場合には活動がその中間となることがわかった。同時に計測した二重正弦波運度縞に対する眼球運動では、二つの要素の振幅が異なる場合には振幅が大きい要素単独で起こる眼球運動と似ており、要素の振幅が同じ場合には要素単独で起こる運動の平均に近かった。これらの成果は多重運動の脳内表現と眼球運動出力の関係を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経活動記録実験では、初年度に二重正弦波運動縞を使った実験課題を確立し、現在までに二頭のサルから大脳皮質MT/MST野の神経活動を取得した。二頭のサルから得たデータを比較・検討し、実験の再現性が確認ができている。この実験の主要な成果は研究実績欄に記載のとおりであるが、取得したデータを詳細に解析し論文誌に投稿する準備を進めている。さらに、得られた結果を解釈するために、MT/MST野の視覚応答に関する基本的特性(時空間周波数応答特性と視覚運動検出メカニズム)を調べる必要があり同時に実験を進めていたが、これらの性質についてもまとまった結果が得られ、論文誌に投稿する準備を進めている。 動物を対象とした行動実験からは当初想定した以上の成果も出ている。初年度に二重正弦波運動縞に対するげっ歯類の眼球運動の観察を行い、霊長類と同様であるという結果を得たが、その成果が論文誌に掲載された。げっ歯類の視覚運動処理は網膜で行われると考えられるが、その性質には未だわかっていないことが多い。そのため網膜の運動検出細胞と眼球運動との関係を明らかにする実験を進めている。また、サルの眼球運動を対象として二つの運動刺激の空間的統合の性質を調べた実験を行い、その結果も論文誌に掲載された。ヒトを対象とした行動実験では多重運動刺激に対する眼球運動反応の関係について調べているが、運動開始時と少し時間が経過した後の眼球運動において選択される運動要素が異なるという新たな所見を得た。運動情報選択のダイナミクスを示唆する所見であり、多重運動の脳内表現を調べるための有効な実験パラダイムに発展する可能性がある。また構成的研究では、眼球運動の基となる多重運動の脳内表現およびその情報処理機構を理解に向けて、大脳皮質MT/MST野の神経活動および眼球運動を再現する神経機構のモデルの構築を進めている。以上、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
サルを対象とした神経活動記録実験において、二重正弦波運動縞を使った実験課題を用いて二頭のサルから大脳皮質MT/MST野の神経活動を取得した。それらのデータに加えて、MT/MST野のニューロンの時空間周波数応答特性と視覚運動検出メカニズムについてもまとまったデータを得ることができた。これらの知見には今回の研究で初めて明らかになったことが多くあり、研究開始の時点で想定していた以上結果が得られている。そこで今後は、時空間周波数応答特性、視覚運動検出メカニズム、二重正弦波運動縞に対する神経応答に焦点を当て、得られたデータを計算機シミュレーションで再現する等、多重運動刺激の脳内表現とその情報処理機構を明らかにする研究を進める。 並行して動物を対象とした行動実験およびヒトの心理・行動実験を継続して行う。マウスの行動実験から二重正弦波運動縞に対するげっ歯類の眼球運動が霊長類と同様であるという結果を得ている。網膜-脳幹系の視覚情報処理と眼球運動との関係を調べる実験を継続して行う計画である。マウスを用いた研究からは、網膜-脳幹系の視覚情報処理と眼球運動との関係が明らかとなり、皮質下の視覚運動表現の理解に繋がる可能性がある。ヒトを対象とした心理・行動実験では、二重正弦波運動縞に対する視知覚と眼球運動反応調べる実験を継続して行う。これまでの実験から視知覚と眼球運動反応が必ずしも一致しないという所見を得ており、視知覚と眼球運動の同時測定によりその違いを定量的に明らかにする実験を行う。また、これまでの研究で、多重運動刺激の提示開始からの時間に応じて選択される運動要素が異なるという、運動情報選択のダイナミクスを示唆する所見を得ている。多重運動の脳内表現のダイナミクスを調べるためにこの実験を継続して行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ヒトを対象とした心理・行動実験、動物を用いた行動実験の実験的研究と計算機を用いた構成的研究を進めるための物品費、被験者謝金が必要である。また、関連研究の調査および成果報告(北米神経科学学会、電子情報通信学会、日本神経科学学会)のための旅費、研究成果の論文誌等への投稿のための費用(研究成果投稿料、雑誌掲載料、英文添削料)が必要である。尚、次年度使用額については、実験用消耗品購入の一部、論文投稿の一部を次年度に行うこととしたためである。
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Research Products
(7 results)