2012 Fiscal Year Research-status Report
BACトランスジェニックマウスにおける脊髄後角エンケファリンニューロンの性質
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23500468
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
堀 雄一 獨協医科大学, 医学部, 教授 (60190229)
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Keywords | エンケファリン / NMDA受容体 / セロトニン受容体 / 脊髄痛覚神経回路 / 脊髄後角表層ニューロン / 単一細胞遺伝子発現解析 / パッチクランプ記録法 / 興奮性シナプス後電流 |
Research Abstract |
当初の計画に基づいて、単一細胞Real-Time RT-PCRによる遺伝子検出システムの確立を試みた。逆転写(RT)反応によって得られたcDNAを前増幅した後、Real-Time PCR反応によって遺伝子の発現を調べた。この解析方法はfalse positiveの危険性が高いことが危惧された。そこで、false positiveの可能性をどの程度に見込む必要があるかにつき、以下のように検討した。(1)細胞を含まない結合組織、細胞残屑、灌流液をそれぞれ採取し、RT反応、前増幅、Real-Time PCR反応を行った。PCR反応のサイクル数を70まで増やしても遺伝子の増幅は観察されなかった。(2)Enk-GFPマウス(PreproenkephalinプロモータによりGFPが発現する)において、PCR反応によりPreproenkephalinの増幅が見られた細胞の約99%にGFP蛍光が観察された。(3)TPH2-GFPマウス(TPH2プロモータによりGFPが発現する)において、TPH2の増幅が見られた細胞の95%にはGFP蛍光が観察された。このことから、今回の単一細胞Real-Time RT-PCRは、実際の遺伝子発現を十分に反映していると考えた。 この方法を、脊髄後角ニューロンおよび中脳水道周辺灰白質ニューロンに適用した。その結果、(1)エンケファリン作動性、GABA作動性、セロトニン作動性ニューロンでは、興奮性シナプス後電流(EPSCs)のNMDA成分とnon-NMDA成分の振幅比(NMDA/non-NMDA比)が異なる値を示した。(2)NMDA成分のたち下がりがGABA作動性ニューロンで遅い時間経過を示した。(3)非エンケファリン作動性ニューロンにおいて、末梢神経損傷性疼痛の発症に伴ってNMDA/non-NMDA比が増大し、NR2Bサブユニットの発現が増加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画は、単一細胞Real-Time RT-PCRに組み合わせてパッチクランプ・ホールセル記録を行い、エンケファリン作動性ニューロンの性質について検討を加えることであった。特に、NMDA受容体およびnon-NMDA受容体を介する興奮性シナプス後電流、GABAA受容体を介する抑制性シナプス後電流を記録し、その生理学的・薬理学的性質を調べ、エンケファリン作動性、GABA作動性およびそれ以外のニューロンで差異が見られるか検討する計画であった。 このうち、NMDA受容体およびnon-NMDA受容体を介する興奮性シナプス後電流に関しては、『研究実績の概要』に記述したとおり、十分な成果をあげられたと考える。しかし、GABAA受容体を介する抑制性シナプス後電流に関しては、その記録法に関して試行錯誤をすることがあり、十分な成果をあげることが出来なかった。GABAA受容体を介するシナプス後電流記録のためには、グラミシジンを用いた穿孔パッチクランプ法などによって細胞内クロライドイオン濃度を保つ必要がある。本年度においては、この方法による抑制性シナプス後電流の解析が十分に行えなかった。 一方で、平成25年度の研究計画である末梢神経損傷の影響に関して、NMDA受容体を介する興奮性シナプス後電流に対する影響、NMDA受容体のサブユニットの発現に対する影響について検討を加え、ある程度の成果を得ることが出来たので、全体としては『②おおむね順調に進展している』と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
『現在までの達成度』の欄に記述したとおり、平成24年度の実験計画にあったGABAA受容体を介する抑制性シナプス後電流の検討を十分に行うことが出来なかった。GABAA受容体を介する抑制性シナプス後電流はクロライドイオンによる電流であり、グラミシジン穿孔パッチクランプ法などによって細胞内クロライドイオン濃度を保つ必要がある。平成25年度においては、まず、この記録方法について熟達し、GABAA受容体を介する抑制性シナプス後電流を記録し、その生理学的・薬理学的性質を調べ、エンケファリン作動性、GABA作動性およびそれ以外のニューロンで差異が見られるか検討する。 それに引き続いて、平成25年度の当初の計画である末梢神経損傷の影響について検討を加えたい。すでにNMDA受容体を介する興奮性シナプス後電流については実験をしてきている。GABAA受容体を介する抑制性シナプス後電流に対する末梢神経損傷の影響について、エンケファリン作動性、GABA作動性およびそれ以外のニューロンで差異が見られるか検討を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の計画としてパッチクランプ・ホールセル記録を行い、電気生理学的・薬理学的検討のために神経伝達関連試薬を購入する。その他、パッチ電極作製用ガラス管、単一細胞採取用のピペット作製用ガラス管、5%CO2/95%O2混合ガス等、実験に必要な消耗品を購入する。また、単一細胞の遺伝子発現解析のためにRT試薬、前増幅のための試薬、Real-Time PCR試薬等を購入する。また、末梢神経損傷の影響についての実験に用いるため、小手術用器具、吸入麻酔薬等を購入する計画である。 平成24年度には、『現在までの達成度』に記述したとおり、GABAA受容体を介する抑制性シナプス後電流のパッチクランプ記録の技術習得のため、試行錯誤に多くの時間を割いた。その結果、当初の計画に比較すると、遺伝子発現解析を行うためのRT試薬、前増幅用の試薬、Real-Time PCR試薬等の消耗が少なく、物品費の使用額が1,142,459円となった。次年度使用額として算出された459,824円は、平成25年度の研究費と合わせて、上述のような実験に必要な物品購入に充てる予定である。
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Research Products
(10 results)