2012 Fiscal Year Research-status Report
ポリウレタン-絹複合材料を用いた新規小口径人工血管の開発
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23500512
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
中澤 靖元 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20456255)
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Keywords | 再生医工学 / 材料科学 / 絹 |
Research Abstract |
現在市販されている人工血管素材を用いた小口径人工血管は、血栓が生じやすく、使用方法が限定されているため、小口径人工血管の 開発は急務かつ同分野において重要な課題となっている。絹フィブロインは高い強度を有することから期待されているが、人工血管として必要な伸縮性や弾性などに乏しい。そこで本研究課題では、ポリウレタンを絹フィブロインと複合化させた新規素材の開発を目的とした。 前年度までに、絹フィブロインとポリウレタンの混合状態の相溶性とダイナミクスについて、固体NMR法を用いた詳細な解析を行い、ポリウレタンと絹フィブロインが部分的な微分散状態にあることを報告した。 今年度はこの結果にもとづき、絹フィブロインとポリウレタンを混合した人工血管の作製した。生体適合性はin vivo評価を行い、ラットで4週の開存率100%を得た。ポリウレタンでの懸念事項であった急性の血栓形成は、ラット、イヌどちらにおいても確認されなかった。 以上より、複数の材料を組み合わせて人工血管に求められる特性を付与することで、開存率の高い小口径人工血管の設計が可能であることを示した。しかしながら本研究でのイヌ移植評価においては、急性の血栓形成による閉塞はなかったものの、移植後4週間で狭窄がみられた。狭窄の原因となる血栓形成や内膜肥厚を抑えるためには、早期内皮化が求められる。今後は、内皮化促進のために絹-ポリウレタン人工血管表面の改変を検討していく。例えば、血管内皮細胞表面にある受容体に結合し、血管内皮細胞の分裂や分化、遊走の刺激を行うVEGF(血管内皮細胞増殖因子)や、細胞外マトリックスと細胞を接着させるタンパク質のひとつであるフィブロネクチンに存在する配列で、血管内皮細胞と結合するREDVペプチド等を表面に修飾することにより、内皮化が促進され狭窄の起こりにくい小口径人工血管の開発が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度得られた分子レベルにおける構造・ダイナミクスの情報を基盤とし、人工血管を作製した上で、各種動物実験評価を行うことに成功し、開存率の高い小口径人工血管の設計が可能であることを示した。 ラットの評価実験においては、血管として十分な組織再生能を有していることが示唆されたが、イヌを用いた評価では、移植後4週目における狭窄の兆候が確認された。早期の内皮形成を促す必要があるため、今後、一層の検討が必要である。 内皮形成促進のための表面修飾(VEGF(血管内皮細胞増殖因子)フィブロネクチンに存在する配列で、血管内皮細胞と結合するREDVペプチド等の表面修飾)については、最終年度である平成25年度に集中的に実施することで、課題の克服を図る。 また、エレクトロスピニング法のみならず、他の手法(ダブルラッセル編み等)についても検討を行った。今後はこの知見をもとにポリウレタン-絹複合体への適用を試みる予定である。 研究の達成度は概ね想定通りではあったが、論文への投稿が予定より若干遅れていることが反省点として挙げられる。最終年度に向けて上述した課題の達成と論文投稿を積極的に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、昨年度得られた混合材料の構造および物理学的性質の知見を活用し、人工血管への応用を目指す。昨年度導入し、今年度から本格的な使用を開始した新たなエレクトロスピニング装置を用い、絹フィブロインとポリウレタンの2液混合型(絹表面への非結合型定着法)および化学修飾型(絹とポリウレタンを化学的に結合させる方法)を予定している。 特に化学的な修飾法については、血管内非細胞増殖因子をはじめとしたペプチドを合成しているため、絹-ポリウレタン表面に架橋させることにより、機能性の向上を目指す。 また、人工血管を作製する際、血管内腔と外側の絹:ポリウレタン比を変化させ、濃度勾配を付加した材料、すなわち 「傾斜材料」の作製については、昨年度から計画していたが、装置上の問題から実施することが出来なかった。新たに導入したエレクトロスピニング装置により本実験は可能であるため、平成25年度末までに成果を得る。さらに連携研究者である東京農工大学大学院 朝倉哲郎教授との共同研究体制を強化し、種々の絹を用いた医療材料への適用を検討し、本研究課題の達成を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、申請者が所属する研究施設の耐震改修・機能改善工事が予定よりも長期化したため、約19万円の残予算が発生してしまった。平成25年度は最終年度となるため、平成24年度残予算も含め、主にデバイス作製に関わる消耗品費および論文校閲費用として使用する。またNMR解析用ソフト(Bruker社製Topspin)のライセンスの購入を予定している。 学会発表関連費用としては、高分子学会年次大会(京都府)、高分子討論会(石川県)、NMR討論会(石川県)、繊維学会(東京都)への研究発表を予定しており 、参加費、旅費を使用する。
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Research Products
(12 results)