2012 Fiscal Year Research-status Report
人体デジタルモデルを用いた救急医療迅速化のための傷害予測手法の開発
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23500513
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Research Institution | Nippon Bunri University |
Principal Investigator |
宇治橋 貞幸 日本文理大学, 工学部, その他 (80016675)
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Keywords | 交通事故 / 自動車乗員 / 傷害予測 / 衝突事故 / 人体デジタルモデル / 自動車有限要素モデル |
Research Abstract |
自動車の有限要素モデルと乗員および客室のマルチボディモデルを用いた様々な前面単独衝突のシミュレーションを行い、衝突加速度や車体損傷に関する衝突データベースを作成した。そして、階層的クラスター分析により衝突加速度の波形の特徴に着目して、前面衝突を7つの衝突形態に分類することにより、衝突形態ごとに衝突加速度および車体損傷の特徴が異なるだけでなく、衝突加速度と車体損傷との間に相関関係のあることを明らかにした。更に、衝突加速度の波形と大きさの特徴を、衝突形態と衝突前後の車両速度差(△V)の二つだけのパラメータで代表させることにより、事故時の衝突加速度から衝突形態を容易に判別できる手法を提案した。衝突データベースにある車体損傷すなわち客室変形を分析し、衝突加速度との相関を調べ、客室変形のうち最も乗員に近いブレーキペダルが乗員の傷害に関係すると考え、その変位が客室変形を代表するものであるとした。そして、衝突形態別にこの客室変形すなわちブレーキペダルの変位量と△Vの間には固有の関係があり、客室変形と衝突加速度とは互いに相関関係にあることを明らかにし、各衝突形態の客室変形の特徴は、衝突形態および△Vにより表されることを示した。乗員の頭部、胸部、下肢の傷害に着目して、その発生メカニズムと傷害リスクカーブを対象として、7種類の衝突形態の様々な△Vにおける衝突加速度と客室変形を入力として傷害解析を実施し、傷害データベースを作成し、衝突形態に応じて傷害と△Vの相関関係が顕著に異なり衝突形態の判別が重要であることを明らかにした。続いて、この相関関係を傷害リスクカーブで表し、△Vを変数とした重傷発生確率についての乗員傷害予測式を衝突形態別に導出し、事故時の衝突加速度から衝突形態と△Vを抽出し、乗員傷害を予測する手法を提案し、実際の前面衝突事故事例に対して適用し、その精度を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自動車の前面衝突事故における乗員の傷害に関与する多くの因子を、衝突形態と衝突前後の車両速度差の二つだけに集約することにより、衝突加速度のみから乗員傷害を瞬時に予測する手法を構築することに成功した。実際の事故では、女性や高齢者など交通弱者の被害が大きくなる傾向があるが、これらのモデル作製を行うには身体形状や人体の耐性などに関するデータが不足しているため、平均的な成人の結果から相似的に求めるのが現状では現実的な方法である。この問題に関しては、次年度も引き続きデータ収集などの努力を継続する。自動車全体の有限要素モデルと客室のモデル化に関しては、自動車会社の全面的な協力が得られたため、単に客室モデルに衝突加速度を入力するだけでなく、車体全体の有限要素モデルを使用することにより実際に近い衝突加速度を得ることが可能となった。研究実績の概要では触れなかったが、衝突方向の全方位化を図るために側面衝突における乗員の傷害予測についても研究を行った。しかし、側面衝突は乗員と客室構造物との間の空間が狭く、両者の直接的な接触衝突が避けられないため、前面衝突の場合とは大きく異なり、乗員傷害の推定に同じ手法を用いることが困難であった。同時に、前面からの衝突における衝突角度がどこまで前面衝突の範囲に入り、どこから側面衝突の範囲にはいるのかについても、その境界を明らかにするには至らなかった。しかし、オフセット前面衝突が斜め前方からの衝突形態に類似し、乗員の傷害をある程度予測できること、また側面衝突における乗員の傷害を予測するための因子についてはある程度明らかになって来ている。従って、総体的な研究の達成度は、個々には過不足はあるものの順調に推移しており、本助成金は大いに役立った。
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Strategy for Future Research Activity |
前面から側面までの交通事故に絞り、乗員の傷害を予測する手法について引き続き研究を行うが、正面からの衝突に関してその傷害予測手法が完成の域に達してきている。一方、側面からの衝突に関しては、まだ改良すべき点が多くあり、特に予測因子の抽出と定義に関しては次年度においても多くの時間と努力が必要である。この際、乗員に作用する加速度を車両の特性や衝突角度と速度から推定しなければならないが、側面衝突では実際の事故データが前面衝突に比べて少なく、自動車アセスメント(JNCAP)の全データを入手して分析するとともに車両の有限要素モデルも利用して推定精度の検証を行う必要がある。また、交通事故・転倒などの不測の事故による傷害情報を継続して収集し、事故シナリオの分類・整理を行うことにより、想定した交通事故シミュレーションの妥当性についても検証を行う。事故シミュレーションを大量に行って傷害データベースを構築するには、多くの時間が掛かるため大学院生に補助を依頼するとともに、特に傷害の解析結果の分析には医学部の研究協力者(阪本雄一郎:佐賀大学医学部教授など)や日本大学工学部の西本哲也教授などの意見を仰ぎながら行なっていく。また、必要に応じて車両モデルの追加などをする場合には、自動車会社の協力を依頼しながら進めて行く予定である。また、自動車技術会や日本機械学会などに積極的に出席し、情報収集や研究発表を行って行く予定である。また、研究協力者(東京工業大学・宮崎祐介准教授、Hongik University・H.Y.Choi Professor、新潟大学・Jonas Aditya Pramudita助教)の意見とアドバイスも大いに活用する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度と同様に、交通事故シミュレーションを大量に行い、乗員の傷害データベースを行うために大学院生に研究補助を依頼する必要があるので、謝金を支出するとともにシミュレーションを行うためのコンピュータや関連物品の購入に支出する予定である。 また、多くの研究協力者との打ち合わせを行うための旅費を支出する予定である。旅費に関しては、研究成果の発表や情報収集のために日本機械学会や自動車技術会に出席するとともに国際会議でも研究発表を行うために支出する予定である。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Estimation of Vehicle Deformation based on Acceleration from2012
Author(s)
Katagiri, M., Tsubouchi, H., Ujihashi, S., Fukaya, T., Awano, M.,Ito, K.
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Journal Title
Proceedings of the 6th International Conference on
Volume: 1
Pages: 383-390
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