2011 Fiscal Year Research-status Report
神経回路発達を誘導するグリア細胞トランスポーター分子の制御メカニズム
Project/Area Number |
23500516
|
Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
吉田 祥子 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40222393)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
穂積 直裕 豊橋技術科学大学, 工学教育国際協力研究センター, 教授 (30314090)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | GABA / トランスポーター / 小脳分化 / 酵素光学測定法 / グリア細胞 |
Research Abstract |
平成23年度実施計画(1)グリア細胞からの伝達物質放出メカニズムについて、培養小脳グリア細胞を用い、GABA放出の光学測定、および細胞内リン酸化の影響を検討した。神経細胞が共存しない環境においても培養初期(~14日培養)のグリア細胞からGABA放出が観察され、一方GFAP発現した培養後期(21日培養~)のグリア細胞では、GABA放出が著しく減弱した。さらに、グリア細胞をジブチリルcAMP処理して細胞内リン酸化を進めたところ、約60分で長期間の培養と同等のGABA放出能の低下がみられた。長期培養、リン酸化処理のいずれにおいても、GABA放出の減弱とともに、小胞性GABAトランスポーター(VGAT)の減少が観察され、グリアからのGABA放出にVGATが深く関与していることが示唆された。実施計画(2)新規ATP放出量観察デバイスの開発について、ATP要求性の脱水素酵素を利用した細胞外ATP分布の光学測定システムを新たに開発した。従来のルシフェリンールシフェラーゼを用いたものに比べ圧倒的に光量があり、空間分布だけでなく、小脳組織内でのATP濃度の時間変化をCCDを用いて観察することができた。現在特許申請中である。実施計画(3)測定精度の向上のための担持方法・酵素を改良において、従来酵素のN-末端でガラス面に共有結合していたため、酵素種によっては十分な効果が得られなかったものがあったが、C-末端で結合する技術を開発した。これにより、酵素の固定化方向を制御することが可能になり、より効率的な測定デバイスを構成することができる。実施計画(4)高感度16ビットCCDカメラによる高感度・高速撮影では、成熟した小脳皮質および大脳皮質からの、酵素光学法を用いた伝達物質放出の観察に成功した。今後神経回路形成の過程までを追跡可能な技術として利用できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に計画した研究計画のうち、(1)グリア細胞からのGABA放出メカニズムと制御因子を確定する については、5つの小課題中4課題が達成できた。特にATP放出の新規測定法の開発は、十分な光量と時間分解能を持つ測定系を開発することに成功した。さらに培養グリア細胞を用いたGABA放出の研究では、細胞内の状態変化とGABA放出メカニズムの動的な相関を得ることに成功し、一部平成24年度の研究内容まで進めることができた。一方、研究計画の(2)トランスポータータンパク質の分布の変化が、細胞の音響特性に及ぼす影響を音響インピーダンス顕微鏡で確認する については、音響インピーダンス顕微鏡を用いた細胞レベル観察に技術的なフレームアップが必要だったため、細胞内の条件を変えて測定を進める段階に到達することができなかった。フレームアップ自体は順調に進んでおり、平成24年度には細胞内条件を変えながら測定することができると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、(1)発達期小脳で、GABAを合成している細胞を特定する、および(2)GABAの取り込みと放出に強く関与するトランスポータータンパク質を、細胞膜に安定化させるメカニズムと制御因子を確認する、の2項目の研究を実施する。平成23年度に、発達初期にはグリア細胞からGABAが放出されること、これが細胞内リン酸化を受けてグリア細胞のバーグマングリアへの分化が進むとGABA放出が減弱することをみた。これを受け、組織内でのGABA合成グリア細胞の分布を特定し、どのような条件下でグリア細胞がGABAを放出するのか、組織内でGABA放出の停止に至るシグナルは何かについて検討し、次年度の遺伝子的検討につなげる。さらに、現在観察しているVGATがグリア細胞のGABA放出のエンジンであるとすると、小脳分化に伴ってVGATの局在の変化が予想される。免疫組織化学的手法と併用し、VGATが細胞膜周辺でどのような挙動を示すか観察を進める。加えて、発達期のGABAの生理的な意義について、GABA動態に影響する各種の抗うつ薬・高けいれん薬を用い、GABA放出と個体の成長の関連を調べて、次年度につなげる。インピーダンス顕微鏡を用いた細胞観察のフレームアップが整ってきたので、生きた細胞内の細胞骨格の変動を、非接触観察する研究を今年度本格化させる。現在、平面方向の分解能サブマイクロメーター、深さ方向の分解能数マイクロメーターで機器設定しており、特に生体膜直下のアクチン繊維の観察が可能である。グリア細胞内のVGATの局在変化に伴った細胞の音響特性変化を観察する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、音響インピーダンス顕微鏡のA/D変換器に不良があり国外修理の必要があったため、細胞を用いた測定のフレームアップが遅れた。研究費15万円の次年度使用額が生じたのは、主にこの時間的な遅れが原因である。現在、細胞測定のセットアップは整っており、測定を進行している。平成24年度は、細胞を用いた酵素光学測定法の研究とともに、これを動物組織にフィードバックした研究をおこなう。酵素を含めた試薬費、動物費などの消耗品支出が必要である。また、国内の学会に参加し、発表を予定しているため、旅費が必要である。音響インピーダンス顕微鏡を用いた測定では、昨年度の積み残しを含めた研究を実施するため、予定より支出が多くなる可能性がある。これは主に細胞と、音響観察用の小デバイス作成のための支出である。
|
Research Products
(6 results)