2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500532
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
板東 潔 関西大学, システム理工学部, 教授 (70156545)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 赤血球 / 変形能 / マイクロチャンネル / 時定数 / 数値シミュレーション / immersed boundary法 / マイクロカプセル |
Research Abstract |
赤血球の内部溶液の粘度と赤血球膜のヤング率が赤血球の変形能に与える影響を調べるため,赤血球がマイクロチャンネルを通過する時間,およびマイクロチャンネル通過後に元の形状まで回復する時定数を数値シミュレーションにより求めた。流れの基礎式はストークス方程式であり,連成計算手法はimmersed boundary法を用いた。マイクロチャンネルの幅は5μmである。計算結果は実験結果とほぼ同様な赤血球の変形挙動を示した。マイクロチャンネル通過時間については,内部粘度およびヤング率の増加とともに直線的に増加した。一方,形状回復時定数については内部粘度の増加とともに直線的に増加したが,ヤング率の増加とともに減少するという逆の頃向を示した。この数値シミュレーションの結果を利用すると,マイクロチャンネル通過時間と形状回復時定数を同時に測定することにより,赤血球の変形能を評価することが可能となることを示唆する結果を得た。 静止流体中で赤血球の端をマイクロピペットを用いて吸引して単軸引張りを行い,吸引を中止した後,赤血球が形状を回復する過程における時定数を求める計算と実験を行った。そして,赤血球膜のヤング率,赤血球内部粘度,赤血球体積の変化が形状回復時定数に与える影響を示した。 赤血球の生体外モデル,あるいは模擬赤血球としてアルギン酸-ポリエルリジン・マイクロカプセルを作製した。そして,変形能評価のため,マイクロマニピュレータに取り付けられた平板によるマイクロカプセルの圧縮試験を実施した。同時に,変形の理論モデルを構築し,変位と圧縮力との関係,および変形形状について実験結果との比較を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト赤血球を用いて,既に製作済のマイクロチャンネル内を通過させる実験を行った。マイクロチャンネルを通過後,赤血球は形状を元の形状に回復するが,その場合の回復過程の時定数を画像解析により求めた。その際,赤血球の特性変化を模擬した実験を行うため,グルタルアルデヒドを使って赤血球膜を硬化させた赤血球,および赤血球内部のヘモグロビン溶液の一部をMAP液で置換した赤血球ゴーストについても実験を行った。以上は研究計画通りである。 マイクロチャンネルを通過する赤血球の2次元数値シミュレーションを行った。ただし,赤血球膜は弾性体を仮定した。当初は赤血球膜は粘弾性体と仮定して計算を行うつもりであったが,膜粘性の効果は非常に小さいと考えられたため,弾性体と仮定した計算を行った。この点は研究計画と食い違った。 赤血球をモデル化したマイクロカプセルに対する圧縮試験を行い,その結果よりマイクロカプセルの変形能に関する評価を行った。そして,そのマイクロカプセルが模擬赤血球として使用可能かどうかを調べるため,マイクロカプセルをモデル化した圧縮変形の解析を行い,実験結果と比較することにより,モデルの妥当性に関する検証を行った。以上は研究計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
マイクロチャンネルを通過する赤血球の3次元数値シミュレーションを行う。ただし,赤血球膜は弾性膜と仮定し,三角形要素を用いた有限要素法により,変形した赤血球膜に生じる力を求める。赤血球膜の変形と流れとの連成解析手法は,2次元解析と同様immersed boundary法を用いる。実験で用いるマイクロチャンネルは一辺が5μmの正方形断面であり,赤血球の直径(8μm)より幅が狭くなっているが,まず一辺が10μmで赤血球が流路の壁と接触することのない場合について,変形過程の計算結果を求める。次に,この計算法を流路幅が狭いマイクロチャンネルに拡張する。この場合,赤血球とマイクロチャンネル壁との間には非常に薄い潤滑層が形成されるが,2次元計算においては,この問題を容易に解決することができているため,この方法を3次元に適用する。そして,赤血球がマイクロチャンネルを通過する時間,および赤血球がマイクロチャンネルを出た後の形状回復過程における時定数を求める。そして,赤血球の変形挙動,マイクロチャンネル通過時間および形状回復時定数を実験結果と比較して数値シミュレーションの妥当性を検討する。この計算において,以下の因子が赤血球の変形能に与える影響を定量的に調べる。(1)自然状態における赤血球の大きさや幾何学的形状,(2)赤血球内部のヘモグロビン溶液の粘度,(3)赤血球膜の弾性係数,(4)赤血球膜の粘性減衰係数。さらに,この計算結果より赤血球の変形能における支配的因子を調べる。 赤血球の生体外モデルとしてのマイクロカプセルについて平板による圧縮変形の解析を行う。前年度は解析を容易にするため,膜張力を到る所一定とする仮定を用いたが,本年度はその仮定を取り除き,膜の変形に関する微分方程式を直接解くことにより解を求める。この方法を用いることにより,計算結果は実験結果と高精度に一致することが期待出来る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費(900,000円)の使用計画は以下の通りである。 物品費(320,000円)は以下の費目に用いる。文献複写料,専門書購入料,ソフト年間保守料(Matlabなど),パソコン用ソフト購入料(Microsoft Office, Internet security, Fortran compiler, MicroAVSなど),パソコン周辺機器購入料(プリンター,ハードディスク,メモリー,USBメモリー,DVD-R,CD-Rなど) 旅費(250,000円)は研究の遂行に必要な情報と資料の収集のための出張旅費,および研究成果の発表のための出張旅費として用いる(東京1泊2日5回)。 人件費・謝金(200,000円)は,研究室に所属の学部学生や大学院生に研究資料の整理を依頼するアルバイト料として支払う。その他(130,000円)の経費は,研究成果をまとめた論文を英語の学術雑誌に投稿する際の英文校正用の費用として用いる。間接経費(270,000円)は研究の遂行に間接的に必要となる経費として用いる。 次年度への繰越金68,543円については,この繰越金に関わる研究の遂行を本年度ではなく次年度に行うことを予定している。
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