2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500532
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
板東 潔 関西大学, システム理工学部, 教授 (70156545)
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Keywords | 赤血球 / 変形能 / 時定数 / 数値シミュレーション / immersed boundary法 / マイクロカプセル / 人工赤血球 |
Research Abstract |
赤血球の内部溶液の粘度と赤血球膜のヤング率が赤血球の変形能に与える影響を調べるため,赤血球に単軸引張力を印加し,その後力を解放する三次元数値シミュレーションを行った。流れの基礎式はストークス方程式,赤血球膜は弾性膜とし,構成方程式としてはneo-Hooke体に対するひずみエネルギー関数を用いた。流れと赤血球膜の変形の連成計算手法はimmersed boundary法を用いた。その結果,変形挙動は以下に示す実験結果と定性的に同等なものとなり,計算の妥当性や現実性に対する裏付けが得られた。 上記の計算に対応する実験として,赤血球をマイクロマニピュレータに接続したマイクロピペットを用いて吸引し,単軸引張力を印加した後力を解放する実験を行った。赤血球に働く力は,吸引圧を圧力計で測定し,ピペット先端の断面積を乗じることにより求めた。そして,赤血球全体としての見かけのヤング率,および形状回復時定数を求めた。これらの結果は計算を検証する実験データとして用いることができる。 赤血球の力学的モデルとして,直径が10μm程度のAPA(Alginate-poly(L)lysine-alginate)マイクロカプセルを作製した。そして,このマイクロカプセルが人工赤血球として使用できる力学的特性を持つかどうかを調べるため,平行な二枚の剛体平板による圧縮実験を行った。この実験ではマイクロマニピュレータを用い,アームに装着し先端を平板に加工したマイクロピペット,およびもう片方に取り付けたカンチレバーの間でマイクロカプセルを圧縮した。その結果,力と変位の関係,および変形形状が求められた。同時に,マイクロカプセルの圧縮変形をモデル化する変形理論をたて,実験結果との比較を行うことにより,理論の妥当性と適用範囲について考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロチャンネルを通過する赤血球の3次元数値シミュレーションを行ったが,計算時間がかかりすぎ,期間内に所望の研究成果を得ることが困難であると予想されたため,マイクロチャンネルを通過する計算は2次元計算とし,3次元計算として赤血球に対する単軸引張りの計算を行った。こちらの計算でも,マイクロチャンネル内流れに対応する形状回復時定数を求め,赤血球の変形能を評価することは可能である。 赤血球の単軸引張りによる3次元の変形計算では,実験では実施することが困難な,膜ヤング率の変化による影響を調べた。また,2次元の単軸引張りの計算に比べて,より現実に近い計算が可能となった。また,計算結果と実験結果を比較すると,3次元計算ではマイクロピペットの吸引部の変形形状が局所的に大きく変形し,この特徴は実験結果とよく一致していた。 マイクロカプセルの圧縮変形の計算は当初の予想を越えて研究は進展した。これは変形解析に軸対称膜の変形理論を用い,そこに体積が一定の拘束条件を加えることにより,解析の精度が向上した点を挙げることができる。また,構成方程式としてneo-Hooke体,およびEvansとSkalakの提案したひずみエネルギー関数を用いて両者による結果を比較した。その結果,圧縮力と変位との関係では,実験結果に近い結果が得られた。ただし,実験結果との食い違いは,計算では膜の曲げ剛性,および膜の流体透過性を考慮していないことが原因として考えられた。また,マイクロカプセルをDDSとして用いる場合,内包する薬剤の放出性能が重要であるが,この特性を決定するものは赤血球膜の経壁圧である。そこで,計算では変形と経壁圧との関係を明らかにした。 マイクロカプセルの圧縮実験では,これまでは直径が200-300μmのものを用いていたが,今回は直径が10μm程度のものを用い,より赤血球の大きさに近い実験が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
赤血球の単軸引張りの計算では,膜のヤング率の変化とともに内部粘度を変化させ,これらが変形動態に与える影響について調べる。なお,本計算は3次元計算であるため,いろいろなパラメータを変えた計算を効率的に行うためには,計算時間を短縮することが必要である。そこで,計算速度を向上させるための対策(計算スキームの改良,計算機システムの再構築等)について調べる。同時に,赤血球全体をケルビンモデルとしてモデル化する。そして,数値シミュレーションの結果を用いて,2個のバネ定数と1個の減衰係数を求め,変形能をこれらのパラメータと関係付けることにより,変形能の定量的評価を行う。 赤血球を用いた実験においては,光ピンセットを用いた実験を行い,マイクロピペットでは不可能な,複雑な形態と運動に対する操作と応答に関する計測を行う。これにより,実際の循環器系における赤血球の複雑な挙動をモデル化した模擬実験を行うことができ,それぞれの挙動に対する変形能を評価することが可能となる。 マイクロカプセルを用いた実験では,先の尖ったピペットを用いた押し込み実験を行う。これは細胞のマニピュレーションではよく行われる操作であり,このような操作に対する力と変位の関係,および変形形状を実験により求める。さらに,この実験に対応する数値シミュレーションを行うことにより,理論モデルの妥当性と現実性に関する検討を行う。 以上の計算と実験をもとに,赤血球の変形能が変化するメカニズムについて,赤血球を構成する因子別に考察を行い,変形能の評価モデルを構築する。そして,このメカニズムを生体医工学的観点から考察することにより,赤血球の変形能を改善することが可能な最も効果的な医学的方法を調べる。そして,変形能の改善により,循環器系の生活習慣病の予防と治療に役立つことを,実験と理論解析により明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費(1,200,000円)の使用計画は以下の通りである。 物品費(450,000円)は以下の費目に用いる。高速数値シミュレーション用計算機購入料,専門書購入料,ソフト年間保守料(Matlabなど),パソコン用ソフト購入料(Microsoft Office,Internet Security,Fortran compiler,MicroAVSなど),パソコン周辺機器購入料(プリンター,ハードディスク,メモリー,USBメモリー,CD-R,DVD-R,ケーブルなど) 旅費(310,000円)は研究の遂行に必要な情報と資料の収集のための出張旅費,および研究成果の発表のための講演会参加登録料と出張旅費として用いる。 人件費・謝金(240,000円)は,研究室に所属の大学院生に研究資料の整理を依頼するアルバイト料として支払う。その他(200,000円)の経費は,研究成果をまとめた論文を英語の学術雑誌に投稿する際の英文校正用費用などとして用いる。間接経費(360,000円)は研究の遂行に間接的に必要となる経費として用いる。 次年度への繰越金(291,094円)については,この繰越金に関わる研究の遂行を本年度ではなく次年度に行う。この繰越金は「11.現在までの達成度」で述べた研究計画の一部変更のために生じたものである。
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