2012 Fiscal Year Research-status Report
運動は歩行・姿勢制御とそれに関与する神経系の老化を抑制・改善できるのか?
Project/Area Number |
23500604
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
武本 秀徳 県立広島大学, 保健福祉学部, 助教 (10453218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金村 尚彦 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (20379895)
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Keywords | 加齢 / 移動能力低下 / 運動介入 / BDNF / セロトニン |
Research Abstract |
雄性Wistarラットを,12または24ヶ月齢まで自然飼育した群(それぞれ12および24ヶ月齢対照群),自然飼育後,22-24ヶ月齢または12-24ヶ月齢の間で回転ケージ内で飼育した群(それぞれ短期および長期運動群)の全4群に振り分けた。これら群の走行能力,筋収縮能力,脊髄前角細胞数を比較し,運動介入による高齢動物の移動能力の変化を検討した。 実験終了時,長期運動群は,12および24ヶ月齢の対照群,そして短期介入群より, 1日あたりの走行距離,そして最高走行速度は有意に高い値を示した。一方短期運動群では,1日あたりの距離は12および24ヶ月齢の対照群と変わりなかったが,最高走行速度は有意に高かった。 一方,運動介入された群と対照群間で,ひらめ筋と長母指伸筋の電気刺激により発生する筋張力に差はなく,両筋の疲労の特性にも差はなかった。さらに介入期間の違いは,これらの筋機能の特性に影響していなかった。 ニッスル染色された腰髄組織切片の評価から,12ヶ月齢対照群より24ヶ月齢対照群の方が脊髄前角細胞が減少していること,この減少は長期運動群で抑制されてることがわかった。 短期と長期の運動群間における1日あたりの走行距離の差は呼吸・循環系の能力差と言うことで説明できるかもしれない。しかし,最高走行速度の差は電気生理的な筋機能の差では説明できず,神経系の調整能力の差と推察される。この予想は,今回行ったニッスル染色の結果が支持しているように思われる。以上の結果は,高齢期における運動介入による移動能力の向上は,神経学的な可塑性に基づいている可能性が高いことを示しており,今後,臨床における治療戦略を検討する上での材料となり得る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初,加齢に伴う移動能力低下に対する運動介入の効果を分析対象として研究を進めてきた。これに加えて,同じ動物を用いて,加齢に伴う記憶学習能力の低下に対する運動介入の効果についても分析を行い,データが得られつつある。 これら研究における生化学的分析は,広島大学ストレス脆弱性克服プロジェクトの協力を持って進めることとなった。同プロジェクトは特にBDNFについての豊富な知識と技術の蓄積を持っておられる。その結果,実験結果の飛躍的な精度向上が見込まれる。さらに,生化学的分析についての労力削減が得られたことから,他の分析や論文作成など成果の公表のための作業に注力できている。 また,同じ動物を屠殺する際,骨・筋系の組織を同時に採取し,埼玉県立大学のグループに分析を依頼した。 現時点で公表されたデータは非常に限られているが,以後,非常に多面的で豊富なデータを提供できる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
動物を飼育し運動介入を実施する過程はすでに終了し,動物から得られた検体および行動データを分析しているところである。分析は,運動介入による移動能力,そして記憶学習能力の維持改善の二方面から行う予定である。 移動能力に関連した昨年度までの実験と分析から,運動介入が期間依存性に移動能力の低下を防ぐこと,そしてこの効果が筋系というより神経系の可塑性に基づいていることがわかった。そして,神経系の可塑性の高さは,長期の運動介入が腰髄前角細胞の加齢に伴う現象を抑制したことに由来する可能性が示唆された。この運動による脊髄前角細胞の救助はBDNFの発現動態から説明できる可能性がある。また,加齢は脊髄に投射するセロトニンの量を減少させることが知られているが,このセロトニンはBDNFの発現を調整する作用を持っている。運動が脊髄に対するセロトニン支配を維持している可能性がある。以後これらの観点から分析を行う予定である。 記憶学習能力に関連した分析では,現時点では運動介入による短期および長期記憶の改善効果をみるための行動評価を行い,そのビデオ解析を行っているところである。加えて脳のゴルジ染色および海馬,前頭前野におけるBDNFの発現動態を生化学的に分析する方向で,連携研究者と協議している。 以上の結果について,本年度2回の学会発表,そして2編以上の外国語論文を公表することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に研究結果公表のための学会参加(国際学会),および論文掲載のための費用として研究費を消化する予定である。
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Research Products
(1 results)