2012 Fiscal Year Research-status Report
片麻痺と運動失調症の三次元書字運動解析-習熟運動と巧緻運動
Project/Area Number |
23500615
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
岡島 康友 杏林大学, 医学部, 教授 (50160669)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 秀寿 杏林大学, 医学部, 准教授 (50206835)
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Keywords | 運動失調症 / 片麻痺 / 利き手 / 非利き手 / 書字 / 三次元運動解析 / 巧緻性 / 運動学習 |
Research Abstract |
リハビリテーションでは軽症の片麻痺、運動失調症、固縮・振戦などの機能障害に際して、手指の運動の評価、そして種々の巧緻運動練習が行われる。巧緻運動のなかでも書字は意図した字をほとんど意識することなく実行できる習熟運動でもある。非利き手の書字運動や種々の病態下での書字運動を比較解析することによって、巧緻性の問題とは別に、習熟性の指標を明らかにし、片麻痺や運動失調症での変化、さらには運動障害の違いによる書字練習のやり方の違いを明示できると考える。本研究では書字中のペン先と上肢の多評点の三次元運動解析によって、手の遠位と近位部の運動の連動性・分離性といった指標を定量化して、利き手と非利き手の違い、錐体路障害、運動失調症などの病態での変化を調べ、習熟運動の本態を解明し、リハビリテーションに役立てようとするものである。 3年計画の研究であるが、平成23年度は三次元書字運動解析システムを構築し、まずシステムの精度、信頼性を確認する。その上で健常者の利き手、非利き手の書字中のペン先と手部遠位と近位部の3評点の三次元座標を同時に記録し、書字運動の習熟性を表す指標を検討する。指標は形体面と運動面の両面で検討し、運動面では書字速度に依存しない、すなわち早く書いてもゆっくり書いても同一値になる指標に探索する。また一部の健常者を対象に非利き手での書字練習をさせて、指標の変化をみることで習熟性の指標としての妥当性を検証する。平成24~25年度は利き手の不全片麻痺患者、小脳性運動失調患者、そして患者と年齢を一致させた健常者群で解析する。書字運動の習熟特性は小脳障害では失われ、片麻痺、すなわち錐体路障害では保持されると考えている。単なる運動ノイズ増加である巧緻運動障害と習熟性低下を伴う運動学習障害は区別して評価し、リハビリテーションプログラムをたてるべきであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に構築した高速サンプリング三次元書字運動解析システム(POLHEMUS 社製Liberty)を用いて、平成24年度は健常者10名、利き手不全片麻痺患者5名、小脳性運動失調患者4名のデータを収集した。方法は3種類の大きさの平仮名"あ"を利き手、非利き手で各サイズ10回書かせ、書字中のペン先と示指基部と手基部の3評点の三次元座標を同時に記録しoff-lineで汎用数値解析ソフトウェアMatlab(Cybernet社製)を用いて解析した。 1文字を書くのに要する時間は書字ごとに変動があり、速く書けば巧緻性が低下する特徴を有するのに対して、習熟した書字では書字時間による影響は小さくなることが健常者の利き手、非利き手の書字解析で示された。また、ペン先の運動速度をY軸、書き始めからの書字運動軌跡の長さをX軸にグラフを描くと習熟した書字ではグラフパターンは書字の大きさ、書字時間によらず一定の形になること、さらに書字形態の均一性や書字中の手の遠位と近位部の運動方向の位相一致性でも習熟性を示す特徴を見出すことができた。そして、これら習熟性の指標は錘体路障害である不全片麻痺者の書字では保たれるのに対して、小脳性運動失調患者では低下する傾向が見出されている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は最終年度であり、健常者、利き手不全片麻痺患者、小脳性運動失調患者で各々10名以上を目標にデータ収集を継続し、統計的検証が可能になるようにする。なお、傍証として、実際の書字場面の立体ビデオ画像を記録し、指標による統計解析と対比させ、説得性を高める努力を行う。錐体路障害で生じる巧緻性の低下は単なる運動ノイズの増大によるものであって、習熟した書字運動プログラムそのものは保たれるが、運動失調症では習熟特性は失われるという仮説を実証することである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は最終年度であり、画像記録を新たに加えたデータ収集の継続、そして結果をまとめて論文化する。研究費は学会旅費、英文校正、報告書製本にも費やす予定である。
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