2011 Fiscal Year Research-status Report
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23500617
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
大木 紫 杏林大学, 医学部, 准教授 (40223755)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 頚髄症 / 脊髄固有ニューロン / 錐体路 |
Research Abstract |
まず正常被験者で空間的促通法や針筋電図記録を用い、大脳皮質運動野上肢領域から頚髄介在ニューロンを介し、四肢筋運動ニューロンに運動指令を伝える間接的経路の存在を解析した。その結果、上肢筋(上腕二頭筋)と下肢筋(外側広筋、大腿直筋)へ運動指令を伝える経路を確認した。間接的経路の上肢筋への効果に関しては、近位筋で強い傾向が見られたが、遠位筋でも観察された。間接的経路が機能回復に貢献する可能性を検証するため、上肢筋への経路に可塑的な効率変化が引き起こせるか、paired-association stimulation法で検討した。その結果、錐体路から頚髄介在ニューロンへの伝達効率上昇を引き起こせることを確認した。更に間接的経路の機能と機能回復に果たす役割を検討するため、頚髄症患者で腕の到達運動を解析した。腕の到達運動は動物実験で、頚髄介在ニューロンを介した間接的経路により依存することが知られている。Age-matchさせた正常被験者と比べ、患者では運動の軌跡の滑らかさが低下し、毎回のバラつきが大きくなる傾向が見られた。これを反映し、患者では到達位置の誤差や移動距離が大きくなる傾向が見られた。しかし移動距離の増大は利き手の影響を受けないのに対し、到達位置誤差の増大は非利き手を用いた場合にしか観察されなかった。到達運動の障害は、日本整形外科学会頚髄症スコアで見た手の巧緻運動障害や、経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位で見た錐体路の伝導障害とは相関せず、介在ニューロンを介した間接的経路の機能状態を反映すると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「正常者の運動制御に関与する脊髄介在ニューロン活動の記録を行う」との目標に関しては、上肢筋、下肢筋への経路とも実験を完了し、当初の目的通りの成果を上げることができた。特に下肢筋への経路は、大脳皮質運動野上肢領域からの経路が確認され、機能回復に関与する可能性が考えられた。また、上肢筋への経路に関しては、PAS法を用いて「介在ニューロン系に長期的変化を引き起こす」ことが確認され、こちらも当初の計画通り進行している。しかし長期的変化を引き起こせることは確認できたが、PAS法は経頭蓋磁気刺激と末梢神経刺激をtimingを合せて行う必要があり、伝導障害がある患者で同じtimingを使えるとは限らない。またこれまでの実験結果では、長期的変化を引き起こすには随意収縮を加える必要があり、麻痺が強い患者では用いることができない。今後は、様々な状態の患者で、安全かつ効率的に長期的変化を引き起こす方法を開発する必要がある。このため、この方法を実際に「脊髄障害患者に用い訓練を行う」、というところまではまだ到達していない。「患者の運動解析法の開発」に関しては、腕の近位筋運動である到達運動の評価法の検討を行った。この結果、これまでより簡便な方法で、運動機能評価が可能である可能性が示唆できた。しかし、当初の目的であった巧緻運動の評価に関しては、倫理委員会の承認が遅れ、まだ実施できていない。最近承認がおりたため、今後実験を行う計画である。以上多少の問題はあるが、現在のところは当初の計画通り、順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところ、現有の設備備品と連携研究者の設備備品を用いて、実験の遂行が可能であった。このため、次年度使用額が発生したが、実験の進行に影響は出ていない。今後は、「現在までの達成度」で問題となった点について、重点的に実験を行う。特に、臨床現場での使用を考え、簡便かつ効率的な方法を検証する。第一に、脊髄介在ニューロン系に長期的変化を引き起こす方法を改良し、患者への適用を可能にする。このためには、刺激のtimingや筋の随意収縮によらない方法を、まず健常被験者で確立する。このための方法として考えているのは、これまで長期的変化や介在ニューロンの活性化に有効であることが報告されているいくつかのもので、例えば末梢神経の連続電気刺激、腕や下肢の受動的なサイクリング運動、前庭刺激などである。第二に、患者の運動機能評価法については、より簡便で汎用的な方法を開発する。例えば、腕の到達運動の移動距離は病態の有効な評価法である可能性が示唆されたが、3次元位置計測システムが必要で、汎用的とはいえない。そこで、ノートPCとマウスを用いて、より簡便なシステムによる計測が可能かを検討する。この場合2次元の運動であり、障害がより検出しにくい可能性がある。その場合は、机に滑りにくい素材を貼るなどし、運動をより難しくすることを考えている。また手の巧緻運動評価のため、頸髄症患者の把持運動解析を開始する。到達運動評価と合せて、患者の包括的評価が可能かどうかを検討する。以上の実験と平行し、これまでの成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、これまでの成果発表のために使用する。学会発表としては、2014年10月13-17日にNew Orleansで開催されるNeuroscience2012で二演題を発表する予定である。一題は正常被験者で観察した脊髄介在ニューロン上シナプスの長期的効率変化についてで、もう一題は頸髄症患者の到達運動解析の結果についてである。それぞれの演題を発表する研究協力者と合わせ、30万円x3人の旅費を使用する。更に、正常者の腕の筋への間接経路の効果についての結果を、英文誌に発表する。このため、英文校閲費(10万円)、研究成果投稿料(30万円)を使用する。また、「今後の研究の推進方策」で述べた実験を実施するための経費を支出する。必要なのは、被験者への謝金(1千円x20名)、実験を行うための消耗品(5万円:表面筋電図電極、サージカルテープ、アルコール綿)、実験装置作成のための消耗品(3万円:マウス、マウスパッド、スイッチ、ケーブル)である。
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