2011 Fiscal Year Research-status Report
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23500638
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
立川 哲也 独立行政法人理化学研究所, 運動学習制御研究チーム, 研究員 (60435659)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
「苔状線維-小脳核細胞シナプスにおける可塑性メカニズム」高頻度苔状線維刺激と過分極を誘発する電流注入を小脳核細胞に行うことで、このシナプスに長期増強(LTP)を引き起こすことができる。これは、小脳運動学習の長期記憶におけるメカニズムの一つであると考えられている。現在までに、細胞外に神経型の一酸化窒素(NO)合成酵素の阻害剤を投与することで、このLTPが抑制されることを見出した。また、NO合成酵素のノックアウトマウスにおいては、このLTP誘発が消失しており、さらに細胞外にNO産生剤であるNOR3を投与するとLTPが救済されることを見出した。これらの結果から、LTPの誘発にNOの関与が示唆された。「プルキンエ細胞‐小脳核細胞シナプス伝達の特性」小脳核細胞は小脳プルキンエ細胞から30-40の入力を受けている。プルキンエ細胞は50-100Hzで高頻度発火しているが、学習時には登上線維からの入力により発火が一時的に抑えられ、小脳核細胞に対して脱抑制が生じる。この脱抑制が苔状線維‐小脳核細胞シナプスにおける可塑性機構に必須であると考えられている。そこで抑制性シナプスのシナプス前性機構について、周波数依存性、シナプス小胞のリサイクリングについて検討した。実験には、代謝型受容体の一つであるGPRC5Bのノックアウトマウスを用い、野生型と比較検討した。また、小胞放出におけるカルシウムセンサーであるシナプトタグミンを阻害する抗体遺伝子をマウスに注入し、プルキンエ細胞に発現させ、抑制性シナプス伝達への影響について調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
苔状線維‐小脳核細胞シナプスにおけるLTP誘発メカニズムに関してはNOの関与を示唆させる結果を得ているが、AMPA受容体数の増加を伴うLTP誘発に、NOの他どのようなメカニズムで生じるのか直接的な証拠は得られていない。LTPを誘発するメカニズムの一つとしてカルシウムの関与が示唆されている。現在NO合成酵素の阻害剤存在下、もしくはNO合成酵素ノックアウトマウスを用いて、カルシウムイメージングによるNOとカルシウムの関係について解析を進めている。小脳核細胞からのカルシウムイメージングは難易度が高く、若干苦戦している。それは小脳核細胞が放射状に約200マイクロメーターほど樹状突起を伸ばしているため、スライス上で苔状線維刺激によるシナプス入力部位を同定するのに困難であり、さらに入力部位を同定してもその深度によっては鮮明な蛍光強度の変化を捉えられない点があげられる。進行状況としてはおおむね半分程度であると考える。また、平行して進めている小脳核細胞へ投射する登上線維の同定ならびにシナプス入力特性の解明についても、幼弱なマウスに色素やウイルスを投与して可視化することの困難さから検討が順調に進んでいるとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、苔状線維‐小脳核細胞シナプスにおけるシナプス可塑性の誘発メカニズムについての電気生理学的実験はほぼ完了しており、カルシウムイメージングでの解析を進めていく。小脳核細胞に投射する下オリーブ核からの登上線維の入力特性に関しては、現在までに形態学的・電気生理学的に詳細に記述した報告例は存在しない。かなり困難を伴う実験であることが予想される。マウスへの色素注入およびウイルスベクターを用いてGFPを発現させるなど可視化する技術の確立を目指し、邁進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、急性小脳スライス標本からの電気生理学的実験を優先したため、計画していた予算計画から、119,592円余りが生じた。次年度に、細胞を可視化する実験を加速させるための費用として使用する予定である。顕微鏡に安価で蛍光画像を取得できるシステムの導入を予定している。また、蛍光ラベルされたウイルスベクターやトレーサーを局所に注入し、目的とする細胞に取り込ませ、遺伝子導入や可視化を行うためには、安定した麻酔下管理のための吸入麻酔装置と脳定位固定に必要な装置、マニュピレーターなどの装置が必須である。急性スライス標本の小脳核細胞からの電気生理学的記録は生後14-18日齢が適している。この時期までに十分な遺伝子発現や順行性蛍光色素のトレースを行うためには、比較的早期に注入実験を行う必要がある。現在使用している装置は成熟齢には適しているが、幼弱なマウスへの安定した局所注入には適していない。生後2-3日齢のマウスに安定して注入を行うため新たな装置が必要となり、購入を計画している。
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