2011 Fiscal Year Research-status Report
低分解能感覚系経由で三次元空間を高精度に認識させる視覚障害者用空間認識装置の研究
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23500658
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 寿 中央大学, 理工学部, 教授 (10206518)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 視覚障害者支援 / ステレオ視法 / 空間認識 / 視覚系 / 聴覚系 / 触覚系 / 情報伝達速度 / 情報縮約 |
Research Abstract |
従来、視覚障害者の支援を目指し、ステレオ視法を用いた空間認識システムについて種々研究がなされており、空間の高解像度な三次元情報をなるべく損失少なくユーザへ投入することが試みられてきた。だが、人間の聴覚系や触覚系の情報伝達速度は視覚系のそれに比べて格段に遅いので、いかに高解像度な情報をユーザに投入しても、ユーザが空間を正確に認識できるには至っていない。本研究は「逆転の着想」により、空間の三次元情報の中からユーザが真に必要とする情報のみを抽出し、触覚や聴覚などの(低)分解能に適合した一次元情報へと効果的に縮約することによりユーザに三次元空間を高精度に認識させることが可能となる新規な視覚障害者用空間認識装置を創出することを目的としている。 平成23年度は、研究代表者は研究協力者(院生)と共に、ステレオ撮像装置および情報処理装置からなる視覚障害者用空間認識装置を試作した。 ここに、ステレオ撮像装置は平行等位に設置された主カメラと副カメラを備え、対象物を撮像した二つの画像を情報処理装置に転送する。情報処理装置は画像入力用インターフェース、注目領域設定部、ステレオマッチング部、距離値算出部、代表値導出部、および出力信号生成部から構成され、対象物とステレオ撮像装置との離間距離をステレオ視法により算出しその距離に対応する出力信号を生成する。これらは通常のPCを用いて実装し、高速・高精度ステレオ視法を搭載した。また、中核をなすステレオマッチング部の出力を裸眼立体視ディスプレイで直接観察することにより、情報処理装置が良好に機能するように主要パラメーターを調整した。 なお、情報処理装置以外のステレオ撮像装置は、電気部品や機械部品を研究室にて加工することにより形成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、ステレオ撮像装置と情報処理装置からなる視覚障害者用空間認識装置を試作した。当初の計画との主な相違は、ステレオ撮像装置と振動器を一体化していない点だが、使用感の改良は次年度以降の計画に含まれており、遅延を意味するものではない。 折しも鉄道駅のプラットフォームにおける視覚障害者の事故が社会的に注視されている。これに意識しつつ装置の使用感を、屋内外の多様な段差を対象として調べたところ、事故を防止するためには、ユーザが定位誤りを起こさないように空間認識できる必要があるだけでなく、誘導用ブロックの表面形状、プラットフォームの正確な縁端、および電車の進入などを検出できる必要があることを詳細に認識した。 そのためには、細長い円柱状の筐体の両端に二個のカメラが設置された形状よりも、通常の白杖をやや短くしたものの先端部に二個のカメラが設置された形状のほうが適切である。そこで、世の中で最も小型なカメラと考えられる内視鏡を並行に二本束ねることにより後者の形状を試作したところ、独自の高速・高精度ステレオ視法の効果により、予定以上に精密な三次元情報が得られた。二本の内視鏡を束ねた杖状のステレオ撮像装置の主目的は、表面形状、段差の縁端、および移動体などを検出することであり、そのまま内視鏡の汎用三次元化にも応用できるわけではないが、実用化の可能性は高い。 視覚障害者用空間認識装置としての最終報告は完成度を高めたうえで次年度以降に行う予定であり、今年度はスピンオフである三次元内視鏡の試作品を用いて口内の三次元情報の獲得にさえ成功した(それほど高精度な装置ができた)事実を公開した。 目的に沿い当初の計画を実施したうえで、さらに本質的な改良を試みた結果として発展的な応用性が明らかとなり即時公開に至ったという意味で、当初の計画以上の成果が創出できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、ステレオ撮像装置を改良する。具体的には、平成23年度に得られた結果をもとにして、実際の使用感を試しつつ、視覚障害者が手に握るステレオ撮像装置をスパイラル的に改良し、機能面だけでなく形状や重量バランスの面で緻密に作り込む。 現在のところステレオ撮像装置は、片手で持って使用できるように細長い円柱状の筐体を用いて形成している。両端近くに、3CCDカメラである主カメラおよび副カメラを約10cmの間隔で平行等位に設置している。この円柱状の筺体に新たに、前面を示す探りを付ける。さらに、背面には出力装置としての振動器を一体的に固設し、ユーザがステレオ撮像装置を握った状態において手の平で振動器の振動を感じ取れるようにする。また、設定切替手段としてのスイッチをステレオ撮像装置に追加する。ユーザはスイッチを親指で操作することにより、広域モード、局所モード、スリットモードの切替えが行なえるようにする。 また、特に鉄道駅のプラットフォームにおける視覚障害者の事故の防止を意識し、誘導用ブロックの表面形状、プラットフォームの正確な縁端、および電車の進入などを検出するべく、通常の白杖をやや短くしたものの先端部に二個のカメラが設置された形状を、工業用内視鏡を並行に二本束ねることによって実現したステレオ撮像装置(そのまま多用途の三次元内視鏡としても応用可能)についても、同様なスパイラル的改良を行う。 平成25年度は、モードパラメーターを最適化するほか装置全体の総合的な完成度を高める。特に、広域モード、局所モード、スリットモードの使用感を左右する微細パラメーターを緻密に最適化する。 さらに、これまで研究した視覚障害者用空間認識装置について、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画時よりも高性能カメラの価格対性能比が向上していることが主な原因となり、繰越金が生じている。 画像入力用インターフェース、注目領域設定部、ステレオマッチング部、距離値算出部、代表値導出部、および出力信号生成部から構成され、対象物とステレオ撮像装置との離間距離をステレオ視法により算出しその距離に対応する出力信号を生成する情報処理装置は、当初は画像処理ボードを用いて実装する計画であったが、現在のPCの性能が極めて高いので、このまま現有設備のPCを用いることを継続する。 また、現在のところ、中核をなすステレオマッチング部の出力を、室内に設置された大型の裸眼立体視ディスプレイで直接観察することにより、情報処理装置が良好に機能するように主要パラメーターを調整している。発展的な性能として、特に鉄道駅のプラットフォームにおける視覚障害者の事故を防止することを意識しつつ、装置の使用感を屋内外の多様な障害物を対象に調べ主要パラメーターを微細に調整するためには、携帯可能な小型の裸眼立体視ディスプレイが新たに必要となる。当初計画時には実用化されていなかったような極めて高い解像度の小型裸眼立体視ディスプレイが現在では入手できるので、物品費でこれを購入し活用する(研究目的に沿った繰越金の活用最適化)。 特に鉄道駅のプラットフォームにおける視覚障害者の事故の防止を意識し、誘導用ブロックの表面形状、プラットフォームの正確な縁端、および電車の進入などを高い信頼度で検出するべく、通常の白杖をやや短くしたものの先端部に二個のカメラが設置された形状を、工業用内視鏡を並行に二本束ねることによって実現したステレオ撮像装置についても、市販されている電気部品や機械部品を組み合わせ用いることによりスパイラル的に改良する。
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