2013 Fiscal Year Research-status Report
徳川政権における幕閣の武芸思想と武芸政策に関する文献学的研究
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23500706
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Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
菊本 智之 常葉大学, 健康プロデュース学部, 教授 (70267847)
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Keywords | 松江藩 / 藩主 / 武芸実践 / 不伝流 / 直信流 / 家系 |
Research Abstract |
平成25年度は、23年度調査途中であった山陰の雄藩である松江藩の武芸に関する資料の追加調査を行った。松江藩藩主の松平家は、徳川家康の次男・結城秀康を祖とする越前松平家であり、松平不昧の官位も定信とほぼ同位である。今回は、特に江戸時代前期の初代藩主松平直政と江戸時代後期の名君と謳われた7代藩主松平治郷(不昧)の武芸関係資料にあたった。前回、藩の御流儀であった不伝流居合に達し、不伝流中興の祖とされていることが明らかになったので、今回は藩の武芸として不伝流を導入した藩祖直政と不伝流中興の祖となった治郷の武芸実践、武芸策を研究することで、松江藩の武芸振興や藩主の意向が見えてくると考え、平成23年度に引き続き不伝流を中心に調査、資料収取を行った。 今回の調査研究から、この不伝流の源流である浅山一伝流とのかかわりも新たに見出すことができた。不伝流は浅山一伝流に入門した伊藤長太夫次春不伝に始まっているが、浅山一伝流との関係の中で、幕末、久留米藩の剣術師範として活躍した津田一左衛門正之と、幕末最後の大老となった姫路藩の酒井忠績が家臣高橋哲夫武成を久留米に向かわせ、津田道場の師範代、免許を得るまでにさせていることも明らかになった。 松江藩では、不伝流居合のほか、直信流柔道、新当流剣術、一指流管槍、樫原流鍵槍の5流を藩の御流儀としており、不伝流の調査から、幕末にかけての幕府、藩政で実績を上げた為政者の武芸観を知ることができる資料に一部あたることができた。直信流柔道も松平定信の起倒流柔道と元を同じくする流祖から出ていると考えられており、松江藩の直信流柔道についても更なる調査研究の対象とする必要が明らかになった。 平成25年度は、これらの調査と資料の分析、解読、整理に終始し、研究の成果として発表する段階に至らなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
松平定信とほぼ同時期に藩政の改革を成功させ、文化人として知られる越前松平家の松平治郷(不昧)の武芸に関する資料のいくつかにあたることができたが、直接、本人が記した武芸関係資料は、収集できていない。また、平成24年度より調査を進めてきた幕末最後の老中筆頭であった定信の孫、板倉勝静の武芸関係資料も直接的なものは、平成25年度も発掘することができなかった。これに加えて、平成24年度に行った伊予松山藩の調査で収集した資料について、平成25年度も引き続き丁寧に解読分析を行ったが、本研究で着目している藩主の武芸観や武芸実践の内容が検出することができなかった。よって、当初、平成25年度に着手するはずであった資料調査、分析、整理などの研究の進捗は大幅な遅れとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、調査対象としてきた藩主、幕閣の武芸に関する資料が思うように発掘できなかった。平成26年度は情報収集に時間をかけて、必要な人物の武芸関係資料にあたっていきたい。これまでの研究が活かされるよう、松江藩、備中松山藩(岡山県高梁市)、伊予松山藩については、引き続き資料の発掘の可能性があるので、継続した調査研究を行い、新たな可能性として、幕末に大きな発言力をもった土佐藩、薩摩藩などの藩主の武芸に関する資料、また、幕閣として老中、大老などの役職にあった姫路藩、佐倉藩などの藩主について調査を進めることを新たな取り組みとして行いたい。研究計画では後半に入っており、これまでの資料の整理だけでなく、幕閣や政治的に成功を収めている藩主、幕政に影響力の大きかった藩主などの武芸実践や武芸研究、藩や国内に発信した武芸奨励などの具体的な資料を発掘し、当初、研究計画で明らかにしていこうとした部分について、研究成果をまとめていきたい。「家」「家系」というものに流れている、また伝承されている武芸に対する考え方という部分についても着目していきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、これまでの調査、研究で使用してきたデジタルカメラ(資料撮影用一眼レフ)や撮影機材、画像データ処理などを行うパソコンなど、6年以上使用している一連の機材を新しいものにする予定であった。また、研究の対象としている幕政や藩政で実績をあげている藩主の所領した地域に赴き、資料収取などを行う予定であったが、作業の都合や進捗状況でパソコンなどの入れ替えにタイミングが合わず、購入することができなかった。また、公務の関係もあり、研究出張の都合がつかないこともあり、予定していた地域への調査が実施できなかったことが次年度使用額が生じた大きな理由である。 現在、使用しているパソコンは、性能的にも現在の情報機器の対応が難しい状態になっており、研究作業に支障をきたしている。今後の研究、作業を円滑に進めていくためには、早急なパソコン、および周辺機器、時代に合わせた研究環境の整備が必要になってきた。データ管理用のメディアの購入なども欠かせない。また、平成25年度に思うように進まなかった資料収集の研究出張についても積極的にこなしていかなければならない状況である。研究の後半に入っており、研究の成果をまとめていく段階に入りつつあるが、今後は、これまで以上に解読や分析を進めるうえで、解読作業の依頼や専門的知識の提供を受けることが必要になってくると思われる。 平成26年度は、平成24年度、25年度に積み残した研究を取り戻すために、計画的、有効的に貴重な予算を使用して研究計画の遅れを取り戻していきたい。
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