2014 Fiscal Year Research-status Report
徳川政権における幕閣の武芸思想と武芸政策に関する文献学的研究
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23500706
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Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
菊本 智之 常葉大学, 健康プロデュース学部, 教授 (70267847)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 武芸実践 / 幕閣 / 武芸思想 / 藩主 / 政治思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、これまで調査研究を進めてきた松江藩の武芸関係資料の解読、分析、史料の整理などを進め、特に7代藩主・松平治郷(不昧)の武芸政策と不伝流中興の祖と呼ばれる治郷自身の武芸実践、およびそこに見られる武芸思想などについて研究を進めた。その中で不伝流との関係がみられた福岡久留米藩の武芸流派との人的交流についても研究を進めた。また、松江藩で行われた直信流柔道は、当時「柔道」という名称を用いた数少ない流派の一つであり、同時期、寛政の改革を断行した松平定信の傾倒した起倒流の中の一派である鈴木清兵衛系の「起倒流柔道」と通ずる思想的な背景も見て取れた。これら二つの柔術流派は、系統を辿ると、同じ流祖にたどり着き、また、近世後期という社会的に新たな幕藩体制の在り方が問われる時代に、武士階級の倫理的な思想、道徳哲学に並んで、高度な技術に裏付けられた実践哲学としての武芸実践が藩政に取り入れられていたと考えられることが浮き彫りになってきた。この点、同時代に名君として知られる松平定信と松平治郷を取り上げたことで、為政者の武芸思想と武芸政策が武芸実践という哲学によって深く裏打ちされていることが明らかになってきた。 また一方で、家系や血筋という着眼点から進めている部分については、徳川吉宗から受け継がれている為政者としての自覚が生み出す政治哲学は、藩主という家に引き継がれたものだけではなく、他家へ養子として入った真田家や板倉家などにも受け継がれ、ここでも真田幸貫(定信の次男)や板倉勝静(定信の嫡男の八男・孫)らの武芸実践によって武芸思想、政治哲学が生まれてきているであろうことが窺える部分が一部明らかになってきた。 26年度の後半部分は、幕末最後の老中首座であった板倉勝静の関係史料発掘が、この研究において重要な鍵となると考えるため、これについてさらに調査準備を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究を進めていく中で、幕末最後の老中首座であった板倉勝静は、徳川吉宗の玄孫、松平定信の孫ということもあり、重要なキーマンとなっているが、板倉勝静の個人的な史料や本人の著した武芸実践の詳細な記載や様子を示した史料が少なく、また、政治に関する史料も周辺史料がほとんどである。26年度もこれらを継続したが、具体的に発掘することができなかった。 その他の幕閣、為政者についても徳川実記、續徳川実記のような公になっている史料で辿る部分が多く、一次史料の発掘に時間を要している。よって、当初、予定していた研究の計画は大幅に遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、幕閣の武芸実践の様子が窺える史料発掘、情報収集に時間をかける予定であったが、実際に調査したところ、思うような史料の発掘は成果として上がらなかった。平成27年度は、研究のまとめに入る段階であり、これまでの調査研究の成果も活かしながら、当初の研究目的が達成できるように、研究時間の確保とこれまで整理できていない史料の解読、分析に力を注ぎたい。 松江藩、備中松山藩、伊予松山藩については、本研究について鍵となる藩主を排出していることから、引き続き調査研究の対象とし、幕末に大きな存在となった土佐藩、薩摩藩などの武芸政策、藩主の武芸実践、幕閣として活躍した姫路藩、佐倉藩なども合わせてみることで徳川政権における武芸が、為政者のどのような思想、哲学、嗜好によっておこなわれていたのか、成果としてまとめていきたい。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、これまで使用していたノートパソコンが旧式で容量やOSの関係でほとんど活用できなくなったため、新たにノートパソコンを購入し、また、調査で収集してきたデータ史料を紙ベースに打ち出しているが、整理できていなかったため、製本機を購入し、史料の整理ができるようになった。しかし、公務との関係で研究出張の計画を立てることが難しかったため、積極的に時間を作って行うはずであった調査、研究の出張、成果の発表の機会を逸し、そのための経費を予定通り使途することができなかった。これらの研究計画の未履行が次年度使用額が生じた大きな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成25、26年度と史料収集や調査研究が進まなかった。研究期間の最終年度である平成27年度は成果のまとめをする必要もあり、研究出張も含めて、積極的な研究活動を行う予定である。今後は、史料の解読や分析を進めるうえで、解読作業の依頼や専門的知識の提供なども受けることが必要になってくると思われる。これまでの進捗を取り戻すために、計画的、有効に貴重な予算を使用して計画の遅れを取り戻し、本研究の成果としてまとめていきたい。
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Research Products
(1 results)