2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500712
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
鈴木 裕子 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (40300214)
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Keywords | 感性 / 身体的な感性 / 相互行為 / 身体 / 幼児 / 模倣された子ども / 幼児の感性尺度 / 保育者の専門性 |
Research Abstract |
本研究では「身体的な感性」という概念を手がかりとして、保育の場において感性の形成や発揮の過程を明らかにし、同時に幼児の身体的なコミュニケーションを機能させ豊かに育むための支援方法の検討を試みている。平成24年度は、2方向の研究により以下の成果を得た。 1)幼児間の身体による相互行為を成立させる要因を明らかにするために、模倣された子どもに着目し、そこから広がる身体による相互行為の事例の分析と論証を試みた。昨年度の3歳児に続いて4歳児を対象とし発達的変化を考察した。その結果は、①模倣されたことから広がる身体による相互行為は、4歳になっても消失はしないが、3歳に比べて減少する。②受け手側(模倣された子ども)の意識が異なる。3歳児では、同調や同期を繰り返すこと自体を楽しむ傾向が強い。4歳児では、他者に対して自分を模倣することを意識的に促したり、他者を誘うために模倣を仕掛けたりといった方略を用いることができる。③3歳児では、やりたいという感情とやりたくないという感情を、欲求として端的に表す行為が、身体による相互行為の広がりに影響を与える。4歳児では、やりたいという欲求は、ある程度自覚し、意欲として行為にするが、やりたくないという欲求との調整が不十分であり、身体による相互行為を不安定にする。 2)感性発現の様相を具体的にするために、保育者に対して「表現」に関連する保育活動への関心や支援、子どもの表現の豊かさと貧しさ、支援の困難さ等を質問紙調査した。その後、独自に開発した「幼児の感性尺度」の構成概念を援用して分析した。その結果、保育者は「表現」を自己の内面を他者と伝え合う活動として意義づけていることが認められた。保育者の感性と表現に係る専門性として、生活に必然性のある表現活動を支える技術力、感性的専門性としての身体的な感性、専門家としての自己を分析し自らを保育者として育てる力が挙げられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、6つの方向と段階(研究1:「身体的な感性」の操作的な定義と論考、研究2:保育者の「身体的な感性」の捉え方、研究3:「身体的な感性」を育むための介入プログラム作成の基礎資料の収集と試行、研究4:幼児期の身体的な感性発現の検証、研究5:身体的な感性発達の縦断的調査、研究6:身体的な感性を育むための介入プログラムの作成と実施及び検証)を想定し、現時点ですべて着手している。 5つめの方向と段階(研究5:身体的な感性発達の縦断的調)では、平成24年度に「幼児間の身体による相互行為を成立させる要因の発達的変化」として、4歳児の観察調査を行い、得られた知見を学会誌(子ども社会研究)に投稿し受理された(印刷中)。平成25年度は、5歳児の調査を計画している。これまでの3歳児、4歳児の発達的特徴をもとにした一定の仮説も得られており、感性が他者とのコミュニケーションを促進させる基盤となる可能性の検討を通して、「身体的な感性」という概念の有効性が実証されることが期待できる。 また、2つめの方向と段階として位置づけていた「研究2:保育者の「身体的な感性」の捉え方」についても、保育者を対象に表現に係る子ども側と保育士側の問題点の調査をもとに、感性の発現の様相を具体化し、「表現に係る保育者の専門性」という視座で考察が進められた。そこで得られた知見を学会誌(保育士養成研究)に投稿し受理掲載された。 以上の点から、本研究目的に対して一定の成果が得られ、平成25年度への課題も明らかになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は以下の2点を重点的に扱う。 1)幼児期の身体的な感性発現の縦断的調査と検証:5歳児を対象とし、幼児間の身体による相互行為、特に「模倣された子ども」に焦点を当てた観察と調査から「身体的な感性」の発達を捉える。(研究4:幼児期の身体的な感性発現の検証、研究5:身体的な感性発達の縦断的調査) 2)身体表現活動を「身体的な感性」を育むための介入プログラムとして扱い,幼児の感性尺度を手がかりにして感性の育ちを保育者が具体化できるような視点を整理することを試みる。「身体的な感性」発現のプロセスを,他者と双方向にやりとりする行為として積極的に捉えていくために,身体という媒体が強調され身体的な相互行為における典型性の高い機能として解釈できる身体表現活動の場面を対象として検討を行う。身体表現活動を中心とした介入プログラムを作成・実施し,日常の生活との関わりについても,幼児期の感性尺度を用いて検証する。(研究6:身体的な感性を育むための介入プログラムの作成と実施及び検証)
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は以下のように研究費を使用する予定である。なお、次年度使用額(B-A:1,575円)は、PC購入後の端数残金として生じており、平成25 年度に繰り越して使用する予定である。 1)事例収集のための定期的な観察調査を継続するため、協力園などに出向く交通費や打ち合わせの旅費、通信費、研究補助謝金、教材作成のための物品費に加え、質的なデータを整理するためのPCソフトなどの物品、ファイル、用紙、インクカートリッジ等の消耗品が必要となる。 2)得られた質的なデータの客観性を高めるために連携する研究者や保育者との合議が必要となり、その会議のための旅費、交通費等が必要である。 3)これまでに得られた研究成果を積極的に発表し、広く研究者や実践者からの情報を得たいと考えているため、学会発表の旅費、成果発表費、論文投稿時の諸費用、翻訳費、別刷費などが必要となる。
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Research Products
(5 results)