2011 Fiscal Year Research-status Report
末端を加速するスポーツ動作における力学的エネルギー利用の有効性に関する研究
Project/Area Number |
23500723
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
飯野 要一 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (50345063)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 力学的エネルギー / 逆動力学 / 有効性 |
Research Abstract |
卓球の上級者と中級者のフォアハンドドライブ動作を撮影し、床反力を計測した。被験者は、学生リーグ1部の大学男子選手12名と3部の大学男子選手8名であった。全身を15の剛体リンクセグメントとしてモデル化し、逆動力学法を用いて関節トルクを算出した。さらに、関節トルクの仕事率と関節トルクと関節力によるエネルギーの移動の割合を算出した。また、各セグメントの運動エネルギー、位置エネルギー及びそれらの和である力学的エネルギーを算出した。現在までに分析を終えた1部の選手12名の結果を述べる。 卓球のフォアハンドドライブにおいて、バックスイング時に股関節と膝関節を屈曲させ重心を下げ、全身の位置エネルギーは減少し、その後フォワードスイング時に後ろ股関節を伸展させ、全身の位置エネルギーが増加する。位置エネルギーが最小になった時刻からボールインパクト時までの位相において、全身で193±40Jの仕事がなされた。ラケットと手の運動エネルギーの増加量は、この値の27.8±4.3%に相当した。全身のエネルギーの移動量の総和(ラケット方向への移動を正とする)は、400+88Jであった。 ボールインパクト時のラケットスピードと、全身での仕事量、全身の仕事に対するラケットと手の運動エネルギーの増加量の割合、全身のエネルギー移動量の総和のそれぞれとの相関係数は、0.51、0.45、0.78(p<0.05)であり、エネルギーの移動量の総和のみラケットスピードと有意な相関があった。このことは、全身の仕事に対するラケットと手の運動エネルギーの増加量の割合を大きくすることが、必ずしもラケットスピードを高めるために有効な打ち方ではないことを示唆した。また、全身での仕事量を大きくすることだけでなく、全身のエネルギーの移動量を大きくすることもラケットスピードを高めるために重要である可能性を示唆した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
卓球の上級者12名のフォアハンドドライブの動作を撮影し、同時に床反力を計測する実験は7月までに終えることができた。中級者8名を対象とした実験は、10月までに終える予定であったが、卓球のボールマシンが故障したため、実施が3月になってしまった。使用する機器の耐久性の確認や、故障した時のバックアップを考えておくことが今後必要であると考えられた。 全身の各関節における関節トルクの仕事率、および関節トルクと関節力によるエネルギーの移動の割合、各セグメントの運動エネルギー、位置エネルギー、及び力学的エネルギーを算出するプログラムを作成した。上級者12名については、全身の関節でなした仕事、その仕事に対するラケットと手の運動エネルギーの増加量の割合、全身の関節でのエネルギーの移動量の総和を算出し、ラケットスピードとの相関からエネルギー利用の有効性とラケットスピードの関連性についての示唆が得られた。 中級者の結果を分析し、比較する必要があるが、すでに実験を終えておりそれほど時間を要しない。卓球の実験から得られた結果は、学会に発表する予定である。従って分析の多少の遅れはあるが、おおむね順調に進展していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、中級者のフォアハンドドライブの分析を進め、上級者の結果と比較し、力学的エネルギー利用の有効性の観点から、良い動作の特徴を明らかにする。上級者については、全身の仕事に対するラケットと手の運動エネルギーの増加量の割合はインパクト時のラケットスピードと有意な相関はなかった。このことは力学的エネルギー利用の有効性が高いことが、ラケットスピードを大きくすることに直接結びつかないことを意味する。力学的エネルギー利用の有効性を中級者についても調べ、上級者と比較し、力学的エネルギー利用の有効性の意味を明らかにしたい。また、上級者と中級者間の違いを力学的エネルギー利用の有効性だけでなく、各関節での力学的エネルギーの生成量や移動量など関節レベルで詳しく分析し、力学的エネルギーの観点から良い動作の特徴を明らかにする。 野球の投動作を対象として、力学的エネルギー利用の有効性の観点から、良い動作の特徴を明らかにする。このために、野球の上級者10名と中級者10名程度を被験者として投動作を撮影する実験を行う。上級者の被験者は、東都大学リーグ1部の大学選手に依頼し、中級者の被験者は、東京大学の野球部選手に依頼する。7月までに中級者の実験を終え、10月までに上級者の実験を終える。力学的エネルギー利用の有効性や、各関節での力学的エネルギーの生成量や移動量を上級者と中級者で比較し、力学的エネルギーの観点から良い動作の特徴を明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、動作分析のためのモーションキャプチャ―システム等物品費の購入に891,035円、体育学会の参加の為の旅費に55,340円、被験者謝金等に87,750円、モーションキャプチャ―システムのトレーニング費用に262,500円の支出を行った。その結果、3,375円の残金が生じた。 次年度は、今年度の残額を含めて303,375円の研究費を使用する予定である。野球の投動作を対象とした実験を行い、その被験者20名の謝金として100,000円(5千円×20)、実験補助者の謝金として40,000円(1千円×40h)を支出する。データ保存のためのハードディスク等の実験の消耗品に33,375円支出する。日本体育学会と日本バイオメカニクス学会に参加のため、参加費と旅費に100,000円支出する。卓球のフォアハンドドライブの研究で得られた成果を学術誌に投稿する際の英文校正費として30,000円を支出する。
|