2011 Fiscal Year Research-status Report
ロングパイル人工芝に適用可能な緩衝性能試験器と評価法の開発
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23500759
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
湯川 治敏 愛知大学, 地域政策学部, 准教授 (40278221)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ロングパイル人工芝 / 2次元衝撃試験 / 緩衝性能評価 |
Research Abstract |
本研究の目的は近年普及がめざましいロングパイル人工芝に対して適用可能な緩衝性能試験器とその評価法の開発である.従来のスポーツアリーナや陸上競技場のトラック等に対して実施されてきた衝撃試験およびその評価方法では必ずしもスポーツ活動によって生じる衝撃力の範囲をカバーされておらず,また,実際にプレーヤーが運動する際の加速度波形や床反力を計測すると衝撃試験とは相反する結果が観察されることがある.この原因の一つは,本来は様々な運動様式に対する特性が考慮されるべきであるにも関わらず,従来の衝撃試験は単一の落下重錘試験による緩衝性のみによって評価している為である.そこで本研究では筆者らが開発した多段階衝撃試験法による非線形Voigtモデルによってロングパイル人工芝のモデル化を行い,当該モデルの適用可能性について検討を行った.第一段階としては鉛直方向のみのモデル化を行ったが,ウレタン走路と比較すると約3倍の厚みがあり,さらに充填剤の可動性により測定誤差が大きくなる傾向があった.そこで衝撃試験装置の改良を行い,安定した衝撃試験を実施可能とし,さらにサーフェスに与える衝撃面積の変化をモデルパラメータに加えることにより総合的に同定精度の向上を図ることができた.同時に開発済みの2次元衝撃試験器の改良を行い,従来よりも大きな衝撃力かつストロークの大きな衝撃にも耐えうるセンサとし,さらに正確な落下高と初期角度を測定する機構を装置に付加した.これらの研究成果は従来の衝撃試験では評価が困難であったロングパイル人工芝の緩衝性能をモデル化とシミュレーションを用いることにより様々な衝撃に対する緩衝性能を検討できるようになり,さらにこれまでは単なる従来の静止摩擦および動摩擦係数としてしか表せなかった水平方向の特性に関しても,より実際のプレーヤーが発生する衝撃的力に対するサーフェスの挙動を検討できるようになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では2次元衝撃試験器を元にロングパイル人工芝における実験に適合するよう,センサの可動範囲を広げ,さらにより大きな衝撃にも耐えうるセンサの改良を行うこと.さらに,ランニングにおける能動的な衝撃を機械的に再生可能な衝撃試験器を作成し,改良した2次元衝撃試験器を用いてロングパイル人工芝に対する衝撃試験を行うこととしていた.しかし,これまでの鉛直方向のみの衝撃試験をロングパイル人工芝に対して実施し,ウレタン系サーフェスと同様の同定精度が得られるかどうかを確認したところ,これまで用いていたテストフットでは同定精度が低くなることが判明した.これはウレタン系スポーツサーフェスの場合はサーフェス表面が一定形状かつ変形を生じにくく,テストフットに対して衝撃を与える前後でもテストフットの挙動は安定しているのに対し,ロングパイル人工芝では充填剤である珪砂およびゴムチップは一定形状ではなく,荷重に伴って塑性変形を生じること,荷重点がテストフット中央からずれることにより不均一な沈降が生じてしまうことが理由として挙げられる.そこでまずテストフットの改良を行い,ロングパイル人工芝のような不均衡な表面に置いても安定した挙動が得られるようロッド付きテストフットを開発した.また,ウレタン系スポーツサーフェスで用いたテストフットよりも大きなテストフットを新たに製作した.さらに異なるテストフットによって得られた複数の多段階衝撃試験を一括して処理することによりテストフットの衝撃面積もモデルパラメータとして扱える新たなモデルを提案し,これによって鉛直方向については同定精度の向上が見られた.全体として,計画前半の2次元衝撃試験器における強い衝撃にも耐えられるようなセンサの改良にとどまったが,落下高と初期角度を高精度で計測する機構を付加することができ,さらに鉛直方向モデルの改良をおこなうことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果により,2次元衝撃試験器のセンサ部の強化および落下重錘の落下高とセンサ上部のParallelogram link(平行四辺形リンク)の初期角度を正確に測定する機構を付加した.さらにロングパイル人工芝に対する鉛直方向の衝撃試験においては従来のテストフットでは再現性のあるデータが測定できないことが判明したためテストフットの改良とテストフットの面積をパラメータとして持つモデルの提案とその同定方法を提案した.これは本研究の基礎的で重要な部分であり,現段階で明らかになったことは今後の研究推進をする上で重要な意味を持つ.この知見を元に,初年度に開発が滞っていたランニングにおける能動的衝撃を再現する重錘落下機構の開発をまず行う.衝撃試験器は約60kgまでの段階的に変動可能な重錘下に適切なバネおよびダンパーを配置することによりこれまでの衝撃試験器では発生させることができなかった200msec~300msecの衝撃時間となる単峰性の衝撃力を発生させることを目的とする.さらに初年度にはセンサ部の強化を行ったが,より強い衝撃力に耐えうる補強あるいはセンサ部の再設計を行うことにより,センサ部をシューズラスト(木製足形)に装着し,ジョギングシューズだけで無く,サッカーやラグビースパイク等も装着可能な改良を行う.2次元衝撃試験はこれまでウレタン系スポーツサーフェスに対してのみ実施していた為,サーフェスと接するセンサ底面の形状は平面であったが鉛直方向衝撃試験によって明らかになったようにロングパイル人工芝では塑性変形を考慮する必要があり接触面の形状を検討すると共に,実際の使用状況に合わせたシューズ,スパイク等による衝撃試験を実施する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度における研究費の使用計画は以下の通りである.1.2次元衝撃試験器センサ部の補強およびシューズラスト装着機構と能動的衝撃力発生機構の開発.高強度の衝撃試験に耐えうるセンサ部の補強およびシューズラスト装着機構の開発の為に小型荷重センサ,小型加速度計等のセンサ類の購入および各センサにおける測定に必要な計測機器(アンプ,多チャンネルA/D変換器等)の購入が必要である.また,能動的衝撃力発生機構の開発にはウェイトトレーニングに用いる重量調整機構付きのマシンに適度なバネ,ダンパを付加する計画である.その為にトレーニングマシン,バネ,ダンパ等の機械パーツおよび必要に応じてフレームや固定金具類,各種センサ,電子パーツ,工具類等の消耗品の購入も必要である.さらに実験機器製作や製作過程における確認実験等も必要なため実験被験者や実験補助などの謝金の支払いも生じる. 2.研究成果の発表並びに関連分野研究者との情報交換および最新研究動向の把握のため,国際学会および国内学会での発表を行う.7月に米国マサチューセッツ州Lowell にて開催されるISEA(International Sports Engineering Association)Conferenceでの発表および,11月に国内で開催される日本機械学会スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクスシンポジウムでの発表を予定している.
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