2012 Fiscal Year Research-status Report
ロングパイル人工芝に適用可能な緩衝性能試験器と評価法の開発
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23500759
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
湯川 治敏 愛知大学, 地域政策学部, 准教授 (40278221)
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Keywords | ロングパイル人工芝 / 2次元衝撃試験 / 緩衝性能評価 |
Research Abstract |
本研究の目的は近年普及がめざましいロングパイル人工芝に対して適用可能な緩衝性能試験器とその評価法の開発である.従来のサーフェスや陸上競技場のトラック等に対して実施されてきた衝撃試験およびその評価方法では必ずしもスポーツ活動によって生じる衝撃力の範囲がカバーされておらず,また,実際にプレーヤーが運動する際の加速度波形や床反力を計測すると衝撃試験とは相反する結果が観察されることがある.この原因の一つは,本来は様々な運動様式に対する特性が考慮されるべきであるにも関わらず,従来の衝撃試験は単一の落下重錘試験による緩衝性のみによって評価している為である.そこで本研究では筆者らが開発した多段階衝撃試験法による非線形Voigtモデルによってロングパイル人工芝のモデル化を行い,当該モデルの適用可能性についての検討を行った.初年度は第一段階として衝撃試験装置の改良を行い,安定した衝撃試験を実施可能とした.これは対象となるロングパイル人工芝は珪砂およびゴムチップを人工繊維の間に充填することにより天然芝の特性を模しているが,その構造上,安定した衝撃試験の結果を得ることが困難であった.そこで,衝撃試験器のテストフットに上下動の安定化を図るためのロッドを付加し,更に従来のウレタン系サーフェスに使用していたものよりも衝撃面積を大きくすることにより比較的安定して実験結果を得ることが可能となった.但し,衝撃面積をパラメータとして含むモデル化とその同定方法については従来のウレタン系サーフェスにおける同定手法をそのまま適用できないことが判明した.また,2次元衝撃試験器の改良を行い,従来よりも大きな衝撃力かつストロークの大きな衝撃にも耐えうるセンサとし,さらに正確な落下高と初期角度を測定する機構を装置に付加した.2年目では衝撃面積をパラメータとして含む粘弾性モデルとその同定方法の確立に重点をおいて研究を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では2次元衝撃試験器を元にロングパイル人工芝における実験に適合するよう,センサの可動範囲を広げ,さらにより大きな衝撃にも耐えうるセンサの改良を行うこと.さらに,ランニングにおける能動的な衝撃を機械的に再生可能な衝撃試験器を作成し,改良した2次元衝撃試験器を用いてロングパイル人工芝に対する衝撃試験を行うこととしていた.しかし,これまでの鉛直方向のみの衝撃試験をロングパイル人工芝に対して実施し,ウレタン系サーフェスと同様の同定精度が得られるかどうかを確認したところ,これまで用いていたテストフットでは同定精度が低くなることが判明した.これは人工繊維と充填材で構成されたロングパイル人工芝の構造上テストフットの挙動が不安定になるためである.そこで初年度にはまずテストフットの改良を行い,ロングパイル人工芝のような不均一な表面に置いても安定した挙動が得られるようロッド付きとし,更により衝撃面積の大きなテストフットを製作した.これを用いることにより多段階衝撃試験における安定したデータが得られるようになったものの,依然としてウレタン系サーフェスと比較すると同定精度が低い問題があった.そこで,2年目には特に鉛直方向モデルの同定精度を向上させるための同定方法の検討を行い,従来の最小二乗法のみによるパラメータ同定ではなく,パラメータ探索を併用したハイブリッド同定を行うことにより同定精度の向上を図ることが出来た.2次元衝撃試験は本研究の目的ではあるがそのベースとなる鉛直方向のモデルおよびそのパラメータ同定の精度が得られないままで2次元衝撃試験に発展することは,2次元方向でのモデル化の可否にも影響してくると考えられるため,当初の予定からは遅れているがまず鉛直方向モデルの同定精度の向上を優先して研究を遂行した.さらに,充填材表面から表出した人工繊維の不均一性が同定精度へ影響を検討中である.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度および2年目の研究成果により,2次元衝撃試験器のセンサ部の強化および落下重錘の落下高とセンサ上部の平行四辺形リンクの初期角度を正確に測定する機構を付加した.さらにロングパイル人工芝に対する鉛直方向の衝撃試験においては従来のテストフットでは再現性のあるデータが測定できないことが判明したためテストフットの改良とテストフットの面積をパラメータとして持つモデルとその新たな同定方法を提案した.これは本研究の基礎的で重要な部分であり,現段階で明らかになったことは今後の研究推進をする上で重要な意味を持つ.さらに,より高精度の同定を行う為,データの不均一の原因と考えられる表出部の人工繊維の影響を除去した状態での同定精度の検討を行う.これにより,同定精度を向上させるための新たな方策が得られると考えられる.これらの知見を元に,初年度にセンサ部の強化を行った2次元衝撃試験器について,より強い衝撃力に耐えうるセンサ部の再設計を行い,センサ部をシューズラストに装着可能となるよう改良を行う.このことにより実際のサッカーやラグビ-スパイクを装着しての2次元衝撃試験が可能となる.また,当初の計画ではランニングにおける人間の能動的な力発揮を再現可能なばね-ダンパ機構を製作する計画であり,前述の2次元衝撃試験の入力衝撃として利用する計画であった.しかし,全体的に研究の実施が遅れていることからばね-ダンパ機構による能動的衝撃の発生機構の開発は2次元衝撃試験器の開発と同時に平行して行うこととし,2次元衝撃試験器の改良が完了した段階で単純な落下重錘を入力衝撃とした衝撃試験を実施し,緩衝性や2次元モデルの検討を行う.ばね-ダンパ機構による落下重錘機構が開発されれば人間の能動的な力発揮を模した衝撃時間の長い衝撃試験が実施可能であるが,短い衝撃時間に対する緩衝性の検討を先行して行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度における研究費の使用計画は以下の通りである. 1. 2次元衝撃試験器センサ部の改良およびシューズラスト装着機構の開発.高強度の衝撃試験に耐えうるセンサ部の補強およびシューズラスト装着機構の開発の為に小型荷重センサ,小型加速度計等のセンサ類の購入および各センサにおける測定に必要な計測機器(アンプ,多チャンネルA/D変換器等)の購入が必要である. 2. 能動的衝撃力発生機構の開発.能動的衝撃力発生機構の開発にはウェイトトレーニングに用いる重量調整機構付きのマシンに適度なバネ,ダンパを付加する計画である.ウェートトレーニングマシンは購入済みである他,さらにバネ,ダンパ等の機械パーツおよび必要に応じてフレームや固定金具類,各種センサ,電子パーツ,工具類等の消耗品の購入も必要である.さらに実験機器製作や製作過程における確認実験等も必要なため実験被験者や実験補助などの謝金の支払いも生じる. 3. 研究成果の発表並びに関連分野研究者との情報交換および最新研究動向の把握のため,国際学会および国内学会での発表を行う.9月に香港にて開催される6th Asia-Pacific Congress on Sports Technology (APCST2013)での発表および,11月に国内で開催される日本機械学会シンポジウム:スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクスでの発表を予定している.
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Research Products
(4 results)