2012 Fiscal Year Research-status Report
異なるラット系統種の筋力トレーニングへの応答の差をモデルとした筋肥大因子の探索
Project/Area Number |
23500788
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Research Institution | Nippon Sport Science University |
Principal Investigator |
中里 浩一 日本体育大学, 体育学部, 教授 (00307993)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣瀬 立朗 桐蔭横浜大学, スポーツ健康科学部, 助教 (80468800)
越智 英輔 明治学院大学, 教養部, 准教授 (90468778)
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Keywords | 筋肥大 |
Research Abstract |
2012年度は腓腹筋における等尺性トレーニング(麻酔下にて足関節角度90度にて腓腹筋の電気刺激(60-100Hz)を5秒間5セット×5セッション)をおこないSD系ラットでは有意な肥大が確認されたが、Wistar系ラットでは肥大は確認されないという系統種依存性があることを確認した。本年度は筋力トレーニングに対して筋タンパク質合成応答が優れるSD系ラットを用いて以下の二つの検討を行った。 (1)収縮形態を変化させることでその後の筋タンパク質合成応答に差があるか (2)電気刺激の条件を変化させることで筋タンパク質合成応答に差があるか (1)の成果に関して、一般的に筋力トレーニングを繰り返していくと筋の成長は鈍化していくことが知られている。本ラットトレーニングモデルにおいて、等尺性収縮トレーニングの繰り返しで筋肥大を導くもののその成長率は鈍化することがすでに観察されている。そこで、等尺性トレーニングを持続的に行い筋の成長が鈍化したSD系ラットに対して、トレーニング途中で伸張性トレーニングを付加した結果、筋の成長率がトレーニング開始初期値程度に回復することを見出した。 (2)に関して、現在の電気刺激が筋強縮を誘発する高周波数の電気刺激であるのに対し、一般的な電気治療などに用いられる低周波数(10-20Hz)の電気刺激であり短縮を導くような弱い電気刺激が用いられている。このように実用性の高い低周波数電気刺激による筋収縮は高周波数電気刺激と同程度の筋タンパク質合成亢進刺激および筋肥大を導くかどうかを検討した結果、特に筋肥大に関しては高周波数と低周波数でほぼ同程度(5%)の筋肥大が得られることが確認された。 以上のように本年度は筋肥大に対する異質な刺激を複数見出すことに成功した。これらの刺激が筋肥大を得にくいWistar系ラットにおいて有効性があるかどうかが今後の検討課題と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はWistar系ラットとSD系ラットにおける筋肥大応答の差を初年度に確認し、次にSD系ラットにおいてタンパク質合成を活性化するトレーニング様式を模索することを次年度の目標としている。そういった当初の目標に対して、初年度は系統種別の差を明らかにし、本年度生理学国際専門誌(Kobayashi K, Ogasawara R, Tsutaki A, Lee K, Ochi E, Nakazato K., Genetic strain-dependent protein metabolism and muscle hypertrophy under chronic isometric training in rat gastrocnemius muscle., Physiological Research, 2013)に論文を掲載した。 本年度は既に実績報告においても示した通り、伸張性収縮が等尺性収縮とは(おそらくシグナル分子が)異なった筋肥大刺激をもたらすこと、および低周波数電気刺激によっても高周波数電気刺激と同程度の筋肥大をもたらすことなどをSD系ラットにおいて確認した。このような結果は当初申請書を作成した際に目的とした、収縮形態が同一の場合で条件を変えることによる筋肥大と収縮形態そのものを変化させた場合の筋肥大の二つの条件を見出すことに成功したことを示している。したがって研究計画申請時にたてた目標とほぼ同程度の成果を得ているといえる。ちなみに収縮形態を変化させた場合の筋肥大応答の変化と低周波数電気刺激による筋肥大応答の両者はともに論文作成・投稿済みであり、おそらく本年度中に国際誌への掲載が実現されるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度において筋肥大応答性の高いSD系ラットにおいて(1)等尺性収縮に対して伸張性収縮は質的に異なる筋肥大刺激をもたらす、(2)低周波数電気刺激であって高周波数電気刺激と同程度の筋肥大をもたらす ことなどを見出した。最終年度である本年度は筋肥大応答性の低いWistar系ラットにおいて伸張性収縮あるいは低周波数電気刺激によって筋肥大をもたらすかどうかを検討する。実はすでに予備的な検討において我々は特に低周波数電気刺激下での等尺性収縮トレーニングによって同収縮様式で高周波数電気刺激においては筋肥大しなかったWistar系ラットの筋肥大に成功している。2014年度は手始めにWistar系ラットにおいて低周波数電気刺激トレーニングが筋肥大を確実に誘発するかをまず確認する。筋肥大が確実であることを確認したら、次は当初の目的である筋肥大の鍵分子を探索すべくmRNAの網羅解析を行う。対照群は非トレーニング条件下の腓腹筋とし、高周波数電気刺激トレーニング後の筋肥大していない筋と低周波数電気刺激トレーニング後の筋肥大した筋の3群比較によるアレイ解析から筋肥大鍵分子の同定に挑戦してみたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の研究の推進方策に基づき以下の実験を行う。 (1)Wistar系ラットにおける低周波数電気刺激による筋肥大の有効性 (2)低周波数電気刺激における筋肥大鍵分子の探索 まず(1)の実験を行うに当たり、sham群、高周波数群、低周波数群それぞれに8匹程度の実験動物を購入するために3000円×24匹=72000円および動物維持費として8000円程度が計上される。次に筋肥大を確認するため病理組織化学的解析による筋線維断面積や生化学的分析による筋タンパク質重量測定などに50000円程度を計上する必要がある。さらに分子レベルにて筋肥大の根拠を確認するために、既に鍵分子として知られるp70S6kなどの2,3の分子の存在量をウエスタンブロッティング法にて定量するに当たり抗体購入費も合わせて100000円程度の計上が必要である。 (2)の鍵分子の探索に関して、これまでに行った実験動物から得た筋を出発材料とするために追加新たに動物実験を組むことはないが、予備のために各群3匹として3000円×9=27000円を計上する。今後の研究方策どおりにアレイ解析を行うとすると残りの全ての予算(467300円)を用いて委託することになる。ただし、状況によってはリアルタイムRT-PCRなどを用いてターゲットを絞った解析を行う可能性があり、リアルタイムRT-PCRおよび確認用のウエスタンブロッティングのプローブ購入およびプラスチック等消耗品購入のために上記の予算を用いる予定である。
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