2011 Fiscal Year Research-status Report
メカニカルストレスが骨から分泌されるホルモンに及ぼす影響
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23500865
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
梅村 義久 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00193946)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | メカニカルストレス / 骨細胞 / FGF23 / オステオカルシン |
Research Abstract |
骨細胞で作られるタンパクであるFGF23(fibroblast growth factor 23) およびOCN(osteocalcin)は、血液中に入りホルモン様に他の臓器に影響を与え、全身のカルシウム・リン代謝および糖・脂肪代謝にも影響を与えていることが、最近の研究によって明らかとなってきた。本研究の目的は、運動などによって骨に与えられるメカニカルストレスが、これらのホルモン様物質の血中濃度の調節因子となり、全身のカルシウム・リン代謝および糖・脂肪代謝に影響を及ぼしているという仮説の検証である。 本研究ではラットを用いて、運動様式としては私の先行研究から有効なメカニカルストレスを与えることのできることが証明されているジャンプトレーニングを採用することとした。2011年度においてはまず予備的な実験として短期間のトレーニング期間中の、血中FGF23とOCNの動態を観察することとした。8週齢の雄性ウィスターラットをジャンプトレーニング群とコントロール群に分けて、2週間のトレーニング期間を設けた。経時的に血液を採取して測定を行なった結果、血中OCNについては2週間の期間中でジャンプトレーニングの影響は観察されなかった。一方、血中FGF23についてはトレーニング開始4日後においては両群に差がなかったものの、1週間後においてはトレーニング群が1%以下の有意水準で低下していた。2週間後においてもトレーニング群のほうが低下傾向を示した。 先行研究によると、血中FGF23の減少は活性型ビタミンDを上昇させることが示唆されており、このことにより腸管からのカルシウム吸収が増加した可能性が指摘される。骨塩量を増加させるトレーニングの初期の段階でFGF23が減少を示したことは、メカニカルストレスが全身性のカルシウム代謝の調節因子となっていることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年度の研究においては、まず予備的な実験として、ラットの安静時の血清FGF23の測定をおこない、血清FGF23は日内変動が大きいことを観察した。この結果より、FGF23の測定には採血の時間を規定する必要があることが明らかとなった。また、OCNについては以前から本研究室で測定しているため、本研究に欠かせない2つのタンパクの血清濃度の測定が可能となった点において、本研究の基礎的な方法が確立した。 2011年度の本実験の当初の研究計画においてはトレーニング期間を4週間程度の期間に設定して、血中のFGF23およびOCNの濃度の動態などを観察する予定であった。しかし、東日本大震災による研究費削減の可能性が通知されたため、予算の都合上、トレーニング期間を2週間に限定しトレーニング初期の動態に注目することとした。期間は限定されたものの、トレーニング期間中の血中のFGF23およびOCNの濃度の動態を明らかにすることができた。この結果の中でも、FGF23の血中濃度はトレーニングの影響を受けることが観察されたことについては今後の研究発展が大きく期待され、当初の目的にも合致し研究の達成度が高いと評価される。 しかし、2011年度の当初の計画においては、8週間のトレーニング中の血中のFGF23およびOCNの動態のほか、活性型ビタミンDや副甲状腺ホルモンなどを測定する予定であったが実施できなかった。この点において、一部研究計画どおりに行えず、このため予算執行も少なかった。しかし、大変に興味深い研究成績を得ることができ、2012年度以降の実験に期待がされる面では十分な実績をあげることができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年度の研究計画においてはトレーニング期間を4週間程度の期間に設定して、血中のFGF23およびOCNの濃度の動態を観察する予定であった。しかし、東日本大震災による研究費削減の可能性が通知されたため、予算の都合上、当初の計画を変更してトレーニング期間を2週間に限定した。これはFGF23およびOCNはELISA法にて測定するが試薬が高額であるため、血液のサンプル回数が制限されるためである。しかし、研究実績の概要において報告したようにトレーニング初期において血中OCNは変化しないものの、FGF23が減少するという結果を得ることができた。後に研究費の削減はないことが判明したが、実験の再試行には予算的に余裕がなく、また変更をした実験の結果は仮説の一部を支持する内容であり、次のステップとして全身性のカルシウム・リン代謝に洞察を加える実験が重要であると考え、実験計画を再考したうえで2012年度に着手することが賢明であると判断した。 これをうけて2012年度の実験においては、トレーニング初期のFGF23の変動と、この期間の全身性のカルシウム・リン代謝に特に注目することとする。すなわち、トレーニング初期のFGF23の変動と、この期間における活性型ビタミンDや副甲状腺ホルモンの血中濃度、無機リンおよび総カルシウムの血中濃度、および骨塩量・骨代謝などを測定する。これらの測定により、メカニカルストレスが骨細胞で生産されるタンパクであるFGF23の分泌抑制を介して、腎臓の活性型ビタミンDの分泌を亢進して、腸管のカルシウムの吸収を増加させているという仮説を検証する。また、トレーニングを中止した後のFGF23および全身性のカルシウム・リン代謝にも注目し、メカニカルストレスとFGF23のカルシウム代謝への寄与について検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度の研究費の使用計画の内訳は、まず物品費として実験用動物、飼育用消耗品、試薬類、生化学実験用消耗品を予定している。実験用動物としてはウィスター系のオスラット50匹を購入するための予算として2,200円×50=110,000円を支出する。動物実験の飼育用試料としては20,000円を使用する。FGF23の測定においてはELISAキットの試薬を購入する。96ウェルのキット4箱が必要であり、105,000円×4=420,000円の支出を見込んでいる。オステオカルシンと副甲状腺ホルモン測定についてもELISA用の試薬キットが必要であり、110,0000円×2=220,000円および120,0000円×2=240,000円を予定している。その他、ラット麻酔用の試薬、解剖用器具、および生化学分析用のマイクロピペットのチップやマイクロチューブなどで68,000円を支出予定である。以上、物品費としてはすべて消耗品で1,078,000円を支出する予定である。この予算は昨年度および本年度の実験計画が一部変更されたことに伴い、当初の申請より増額となっている。旅費としては、当初の申請どおり、2回の学会発表の旅費として150,000円を支出する予定である。 人件費・謝金としては、当初の申請どおり、実験の補助者に謝金を支払う費用として300,000万円を支出予定である。 その他の項目としては、一部の血液検査を業者に業務委託する費用として、400,000円を予定している。この費用は当初の申請にはなかったが、昨年度の実験結果をうけて測定項目を見直し、一部外注による測定が適切であると判断した。 以上、合計1,928,000円程度の使用を予定している。
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