2012 Fiscal Year Research-status Report
メカニカルストレスが骨から分泌されるホルモンに及ぼす影響
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23500865
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
梅村 義久 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00193946)
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Keywords | 運動と骨代謝 / ジャンプトレーニング / FGF23 |
Research Abstract |
2012年度の研究においては、若年齢のラットを用いて、骨に荷重を加えるジャンプトレーニングおよびそのトレーニングの中止により血清FGF23がどのような変化を示すのかを経時的に測定し明らかにすることを目的とした。骨細胞から分泌される繊維芽細胞増殖因子23(FGF23)はホルモン様に働き、リン代謝調節において中心的な役割を担うことが報告されている。また、カルシウム代謝にも影響を与えている。一方、運動などにより骨に荷重を与えた場合に、骨形成が亢進されるなど骨細胞を介して骨代謝が変化することが知られている。そこで、骨に荷重を加えるジャンプトレーニングが骨細胞に刺激を与えて、FGF23の分泌を変化させる可能性が考えられる。 本研究の結果、若年齢ラットにおいてジャンプトレーニング開始後、短期間において骨塩量が増加して骨代謝が変化したことが確認された。しかし、血清のFGF23濃度にはトレーニングの影響は検出されず、トレーニングをしていないグループとの差は有意ではなかった。昨年の予備実験においてはトレーニング直後に有意な低下を観察しており、本研究の結果とは一致しなかった。FGF23の血液濃度には日内変動が大きいとの報告があり、昨年度と今年度の実験では採血の時間帯を変えたために、この影響が結果の差に表れた可能性が指摘される。今後この点を踏まえてさらに検証する必要があると考えられた。また、本研究においては脱トレーニングによっても、血清FGF23濃度の有意な変化は観察されなかった。 本研究の結果、ジャンプトレーニングが血清FGF23濃度の経時的変化に及ぼす直接的な影響は明らかにできなかった。しかし、FGF23については依然として不明な点が多く、トレーニングを踏まえ、カルシウムやリン代謝に関するホルモン等の関連についてのさらなる研究が必要であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度の研究においては、まずラットをトレーニング群とコントロール群に分け、トレーニング開始から4週間のラットの血清FGF23の経時変化を観察した。その結果、FGF23の血清レベルにジャンプトレーニングの影響を見出すことはできなかった。また、2週間の脱トレーニング期間もFGF23の血清レベルに影響を与えなかった。 一方、前年の2011年度の研究においては、トレーニング期間を2週間に限定しトレーニング初期の血清FGF23およびOCNの動態について明らかにした。その結果、FGF23の血中濃度はトレーニングの影響を受け、濃度が低下することを明らかにした。 このように結果が一致しなかった原因の一つには採血時間帯が異なっていたことが指摘される。そもそも予備実験において、ラットの安静時の血清FGF23の測定をおこない、血清FGF23は日内変動が大きいことを観察していた。2011年度の実験においては午前中の採血としたが、2012年度においてはFGF23が日内で低下する午後とした。もっとも低値を示す午後の時間帯において差が大きく表れると予想したが、結果は異なっていた。 以上のように、2012年度の研究においては仮説通りの結果とはならなかったが、2011年度の結果と合わせて考察することにより、次へのステップとなる点において、研究目的に達成に向けて順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度の研究計画においてはトレーニング期間を2週間として、骨に荷重を与えるジャンプトレーニング開始した後の、血中のFGF23濃度の動態を観察する。採血時間を午前中に設定して、2011年度と同様に血清FGF23濃度がトレーニング開始後すぐに低下することを確認する。 さらに、2013年度の実験においては、トレーニング初期のFGF23の変動に伴い、全身性のカルシウム・リン代謝がどのように変化するかについても注目する。すなわち、この期間における活性型ビタミンD、副甲状腺ホルモンの血中濃度、無機リンおよび総カルシウムの血中濃度、および骨塩量・骨代謝などを測定する。これらの測定により、メカニカルストレスが骨細胞で生産されるタンパクであるFGF23の分泌抑制を介して、腎臓の活性型ビタミンDの分泌を亢進して、腸管のカルシウムの吸収を増加させているという仮説を検証する。この実験のためには比較的多量の血液サンプルが必要である。従って、全項目を測定するためにはラットを犠牲にする必要があり、時系列のデータを得ることができない。そこで、2011年度、2012年度の結果を踏まえて、トレーニング期間は2週間のみに限定する。 これらの3年間の実験結果をもとに、骨に荷重を加えるトレーニングが、骨から分泌されるホルモンであるFGF23の血中濃度に与える影響と、それに伴う全身性のカルシウム・リン代謝に及ぼす影響について検討をする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、2012年度の研究費の残高については、2012年度の研究において採取した血液サンプルの分析が一部の項目において未実施であるためで、2013年度において凍結した血液サンプルを使用して実施する予定である。血液サンプルの分析が一部未実施になった理由は、測定結果をもとに測定項目について再検討していたためである。 2013年度の研究費の使用計画の内訳は、まず物品費として実験用動物、飼育用消耗品、試薬類、生化学実験用消耗品を予定している。実験用動物としてはウィスター系のオスラット40匹を購入するための予算として2,200円×40=88,000円を支出する。動物実験の飼育用試料としては20,000円を使用する。FGF23、オステオカルシンおよび副甲状腺ホルモン測定についてはELISA用の試薬キットが必要であり、各210,000円、110,000円および120,000円を予定している。その他、ラット麻酔用の試薬、解剖用器具、および生化学分析用のマイクロピペットのチップやマイクロチューブなどで69,469円を支出予定である。以上、物品費としてはすべて消耗品で617,469円を支出する予定である。 旅費としては、他の経費に使用する必要があるため当初の申請とは異なり、支出しない予定である。 人件費・謝金としては、実験の補助者に謝金を支払う費用として400,000円を支出予定である。 その他の項目としては、一部の血液検査を業者に業務委託する費用として、300,000円を予定している。この費用は当初の申請にはなかったが、2011年度の実験結果をうけて測定項目を見直し、一部外注による測定が適切であると判断したからである。また、2012年度の血液サンプルについても血液検査を業者に業務委託するので、2012年度の研究費の残高はこの費目で使用する。以上、合計1,317,469円の使用を予定している。
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