2012 Fiscal Year Research-status Report
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23500872
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
千葉 桂子 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (80188482)
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Keywords | 生活文化 / 東北 / 刺し子 |
Research Abstract |
平成24年度においては,南部菱刺しと津軽こぎんについて調査を行った。八戸市や青森市で調査した資料の多くは「たっつけ(股引き)」と呼ばれる農作業時に着用された下衣や「前だれ(前かけ)」である。たっつけの生地は藍染めの麻(綿も存在したと思われる)が一般的で,その布目をふさぐように刺し子がされていることが多い。また,前だれは,大正時代に入手が可能となった毛糸により行われた。南部菱刺しの文様の特徴としては,横長の菱形を呈することである。それは,刺し縫いする際に経糸を偶数目すくうことに起因している。しかしながら,詳細に観察すると,経糸を奇数(1目)のみすくっている部分を包括している文様も存在していることがわかった。 津軽こぎんは,津軽藩の現弘前市を中心においてみられる刺し子である。江戸時代に,木綿の着物を着ることを禁じられた農民が麻の着物の布目を刺し縫いしてふさぎ,防寒,長持ちさせる目的で行われていた。青森市で調査した資料は現存する資料は,着物の前後身頃の腰よりも上の部分で刺し子が施されているものであった。こぎんを刺した部分はとても大事にされ,他の傷んだ部分の布を変えて作り直しをしながら着続けられた。その部分のみ売買されたという背景もある。生地は藍染めの麻が基本である。それに,木綿の白糸により,経糸を奇数目すくって文様を表す特徴がある。文様の特性としては,奇数目をすくうことにより縦長の菱形を呈する。今回の調査では,南部菱刺しとは異なり,文様の中に偶数目の部分は見当たらなかった。津軽こぎんは,一つの文様のモチーフとモチーフの間に,直線ではない一定の幅のある縁取りのような文様が連なっている傾向があるが,南部菱刺しは,モチーフとモチーフの境界線が共有されて連なっていくという異なった傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の主目的は,「津軽こぎん」と「南部菱刺し」に関する調査であった。それについては,青森市と弘前市の博物館や現在でも生産を続けている工房等を訪ね,文様特性を検討するために現存する資料の写真撮影をすることができた。また,それらが作られてきた背景についても知ることができた。 東北地方全体で捉えた場合,それらは北東北固有の技法による刺し子といえ,昨年度調査した南東北の福島や山形とは異なる技法であることが確認でき,文様特性における差異について比較検討するための基礎情報が把握できた。また,文様特性の幾何学的分析については,専門家のアドバイスを得る機会をもてた。 さらに,昨年度調査を行った「会津の仕事着コレクション」((財)会津民俗館所蔵)の収集台帳の電子化を行い,データーベース化のための準備を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は最終年度であるので,これまでの刺し子に関する調査の結果を考察し,必要に応じて追加調査を行う。これまでに福島,山形,青森(津軽こぎんと南部菱刺し)にみられる刺し子について調査を行ったが,秋田,宮城については触れることができないでいる。文献等においても両地域の刺し子に関する情報は少ないが,さらに調査を進めて,東北に存在する刺し子の実態に関する情報の蓄積とそれぞれにみられる文様特性の分析をさらに進める。なお,幾何学的分析の試みについても専門分野の研究者に助言を受けて取り組む。また,継続して「会津の仕事着コレクション」((財)会津民俗館所蔵)のデータベース化を進めて,その中に出現する刺し子の文様特性について分析を進める。それに付随して東北の仕事着の歴史をふり返ることにより,東北の衣生活文化の一端について明らかにすることをめざす。研究成果については,研究発表やホームページを通して還元を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度と同様に関連書籍の購入及び文献複写に使用するが,調査地に赴いてビジュアル資料等の収集を行うために旅費を使用する。また,その際には作業補書者が必要であり,謝金として使用する。また連携研究者等の旅費も支出を予定している。 さらに,昨年度から取り組んでいる「会津の仕事着コレクション」((財)会津民俗館所蔵)のデータベース化およびその他,これまでに調査した資料等の情報公開のために,webページ作成等の費用を計画している。
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Research Products
(3 results)