2012 Fiscal Year Research-status Report
未利用生物資源から吸水性・抗菌性・生分解性に優れた紙おむつ素材をつくる
Project/Area Number |
23500922
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Research Institution | Fukuoka Institute of Technology |
Principal Investigator |
桑原 順子 福岡工業大学, 工学部, 准教授 (40289351)
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Keywords | コラーゲン / 水産加工残滓 / 三重らせん / 抗菌性 / 線維化 / ゼラチン |
Research Abstract |
国内で年間300万トン以上廃棄されている水産加工残滓に着目し、特に魚皮由来コラーゲンを利用した多機能性高分子の創製を試みることを目的としている。これまでに、水産加工残滓から抽出したコラーゲンとγ-PGAとの共重合体を調製し、高い吸水性を示す線維化ゲルを作成した。さらにコラーゲンの線維化について詳細に調べたところ、塩濃度とpHに影響を受けることが明らかとなった。そこで、弱酸性領域における添加塩効果について濁度法により評価した。その結果、魚由来コラーゲンは一般的なコラーゲンの等電点である9.1より酸性側である4.5~5.6の間で線維化を生じた。また、pH4.5のとき、塩濃度140mMの濁度は無塩系の約25倍高く、コラーゲンの線維化には添加塩効果が大きく影響していることが明らかとなった。ヒト尿の平均的な成分組成に近い値で魚由来コラーゲンは線維化を生じていることから、今後、より生体に適した材料への応用が期待される。 また、蛍光色素法により変性温度について評価を行ったところ、コラーゲンの変性過程は2段階で推移することが明らかとなった。これまで、コラーゲンの変性温度とはコラーゲン特有の三重らせん構造が崩壊する温度と見なされてきたが、より詳細な蛍光色素法による実験結果より、三重らせん構造が崩壊する温度より低温側で三重らせん構造を維持したまま線維鎖間の解離が生じていることが示唆された。このコラーゲン線維は、ヒトの体温より低温側でコラーゲン鎖の解離がまず生じることから、崩壊温度の差を利用した機能性材料を構築することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コラーゲン特有の変性温度について円二色法だけではなく、蛍光色素法、濁度法を用いて詳細な実験データを得るために予想以上に時間がかかり、当初の計画通りには進まなかったため、コラーゲンに抗菌性を付与する段階までには至らなかった。また、線維化の条件検討にも多少時間を費やす結果となった。 しかしながら、魚由来コラーゲンの変性温度および線維化に必要な溶液条件について塩濃度、至適pHを含めて詳細なデータを得ることが出来た。このような変性メカニズムや線維化に必要な条件が明らかになれば、魚由来コラーゲンの溶液中での物性を明らかにするだけでなく、実験サンプルの作成数を減らすことにつながり、時間を効率的に使用することが出来るため、本研究はおおむね順調に進展しているといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はリシンやアルギニンなどの塩基性側鎖、グルタミン酸、アスパラギン酸などの酸性側鎖、あるいはジスルフィド結合を側鎖間で形成可能なシステインなどのアミノ酸のジペプチド体や、第四級アンモニウム、EDTAなど抗菌性分子を導入し、種々の微生物に対する抗菌活性試験を実施する予定である。また、これまでに実施出来なかった生分解性の評価を行う予定である。 また、水産加工残滓からのコラーゲンの抽出効率はゼラチンに比べて余り良好ではない。そこで、今後は三重らせん構造は部分的ではあるが、工業生産量の多いゼラチンに着目して、ゼラチンを構成するアミノ酸側鎖の修飾化を検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ジペプチドの合成、化学的架橋化、分離および精製に多くの試薬およびガラス器具が必要であり、また抗菌活性試験では多くの細菌類の菌株が必要とされることから次年度の研究費については、おもに消耗品として使用する予定である。 また、今年度は旅費を計上していたが、参加を予定していた学会の日程が合わず旅費として使用することができなかった。また、ビームライン使用料については、研究協力者の所属先が移動になり、現在、替りに協力していただける研究者を調整中である。
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