2011 Fiscal Year Research-status Report
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23500925
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
香西 みどり お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (10262354)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 大麦 / 米 / 炊飯 / 糖 / 水分分布 |
Research Abstract |
大麦の炊飯および吸水特性に関する基礎的研究として平成23年度は、大麦試料は85%とう精丸麦、60%とう精丸麦、60%とう精丸麦を加熱・圧ペンした押し麦、55%とう精丸麦を半分にカットした米粒麦を用い、標準計測法を改良した炊飯特性の測定、炊飯過程の粒内水分分布の測定、炊飯による成分変化の測定を行った。大麦の炊飯特性では米に比べて丸麦の吸水が遅いこと、溶出固形分量が多いことが分かり、炊飯過程で起こる吸水や溶出固形分が飯の物性に影響することから炊飯条件や飯において米との違いが明らかであった。MRIを用いて大麦の粒内に水が入っていく様子を観察し、プロトンの緩和時間(T2)の測定から炊飯過程の粒内水分分布の変化を把握した。大麦は米に比べて同じ炊飯時間における吸水が遅く、粒内も不均一であることが視覚的・定量的に明らかになりこれを考慮した炊飯条件が必要であることが示された。押し麦、米粒麦では丸麦に比べ吸水が促進され、加工により吸水性が向上していることが示された。炊飯による成分変化では、総遊離アミノ酸量は85%とう精丸麦で有意に増加したが、他の大麦試料では有意差はみられなかった。全糖、還元糖量は炊飯により増加し、85%、60%とう精丸麦の特徴としてフルクトースの増加がみられた。このように大麦のとう精度や加工法により糖の消長が異なる原因の一つとして、糖の生成・分解に関わる酵素の種類や活性、粒内での酵素の局在が異なることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大麦の炊飯に関する基礎的研究として、まず大麦の炊飯特性が丸麦で吸水が遅いこと、溶出固形分量が多いことが分かり、炊飯条件設定において考慮する必要があることがわかった。MRIを用いた大麦の炊飯過程の粒内水分分布の変化を把握したことは大麦は米に比べて同じ炊飯時間における吸水が遅く、粒内も不均一であることを裏付ける有用な情報であり、押し麦、米粒麦では丸麦に比べ吸水が促進され、加工により吸水性が向上していることが視覚的・定量的に示された。炊飯による成分変化では、総遊離アミノ酸量が85%とう精丸麦で有意に増加したが、他の大麦試料では有意差はみられなかったことや全糖、還元糖量は炊飯により増加し、85%、60%とう精丸麦の特徴としてフルクトースの増加がみられたことは大麦のとう精度や加工法により糖の消長が異なることを明らかにした初めての結果であり、その原因の一つとして、糖の生成・分解に関わる酵素の種類や活性、粒内での酵素の局在が異なることが示唆されたことは今後の大麦の研究における内在性酵素の作用に着目することに対する意味づけがなされた有用な情報と考える。これらの知見はこれまで加水比など炊飯に必要な条件と物性との関係という視点から報告されてきた先行研究に対し、新たに食味との関係と糖生成とそれにかかわる内在性酵素の関係、さらに炊飯条件設定へのデータ蓄積へと大麦の研究範囲を拡大するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
大麦の炊飯特性をさらに把握するために、炊飯の温度履歴を変えて大麦100%飯を調製する。沸騰までの時間を11分間(標準)、45分間、また炊飯途中で一定温度を保持する条件を40℃、60℃、80℃で15分間とし、その後通常の炊飯と同じように、沸騰させ、沸騰後13分間の沸騰継続を行い飯を調製する。それぞれの温度条件で調製した麦飯の成分を終濃度50%のエタノールで抽出して、還元糖(ソモギネルソン法)、遊離糖(酵素法)、遊離アミノ酸(アミノ酸自動分析計)量を測定する。次に大麦内在性酵素の温度依存性を測定するために、大麦粉よりリン酸バッファーで粗酵素液を抽出する。透析により脱水濃縮を行って粗酵素液を調製し、4~80℃でインキュベートして糖の生成量から酵素活性の温度依存性を明らかにする。大麦を40%混ぜて米と標準炊飯で混炊する実験を行い、大麦と米それぞれの単独炊飯との違いをテクスチャーアナライザーによる物性測定により明らかにする。さらに大麦40%の割合で米と混炊した混合飯および米、大麦それぞれの単独炊飯による飯の成分抽出液を50%エタノールにより調製し、還元糖、遊離糖および遊離アミノ酸量の測定を行う。単独炊飯から予測される混合飯における糖の量と実測値がどのような関係になっているかを比較することにより、麦飯の成分に及ぼす混炊の影響を考察する。さらにこのことを応用した麦と米を混合して炊飯する方法についても考案する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は温度履歴を種々に変えた炊飯を大麦100%について行い、炊飯過程の温度上昇速度が麦飯の成分にどのように影響するかを調べる。そのために試薬、ガラス器具、HPLC用カラムなどが必要となり、これらの消耗品を購入し、使用する予定である。具体的に糖の測定用に種々の試薬、酵素法によるキットの購入、遊離アミノ酸を測定するためのアミノ酸自動分析計に必要な試薬である。さらに炊飯後の飯の物性についてはテクスチャーアナライザーによる測定があり、適切なプランジャーを選択し、購入を考える。また実験補助、資料収集、データ整理などの諸作業にアルバイトを依頼するため謝金として使用する予定である。
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