2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23500955
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
橋本 道男 島根大学, 医学部, 准教授 (70112133)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片倉 賢紀 島根大学, 医学部, 助教 (40383179)
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Keywords | n-3系多価不飽和脂肪酸 / 神経新生 / 縦断型疫学研究 / うつ / リピドミックス / ドコサノイド / 認知症予防物質の探索 |
Research Abstract |
1) 神経新生に及ぼす多価不飽和脂肪酸の影響:ドコサヘキサエン酸(DHA)・エイコサヘキサエン酸(EPA)は神経新生を促進させるが、アラキドン酸(AA)ではこの効果は認められなかった。DHA・EPAによる神経新生促進作用の機序として、神経細胞の増殖と分化を制御しているHes1の発現をDHAは抑制することにより、EPAはHes6の発現を増加させて間接的にHes1の作用を抑制し、神経新生を促進することが明らかになった。 2)脳の脂肪酸関連メディエーターに及ぼすAAとDHA摂取の影響:魚油抜き飼料飼育若齢ラットにAAとDHA(各240㎎/㎏BW/日)を12週間、経口投与した後に、LC/MS/MS法により、脳内脂肪酸関連メディエーターを網羅的に定量した。【結果・考察】AA投与ラットでは、海馬の5-HETEが増加し、DHA投与ラットでは、海馬や大脳皮質でのAAの減少、EPA, DHA, PD1, RvD1&D2の増加が認められた。脳内脂質メディエーターは、AA投与による影響はほとんど認められなかったが、DHA投与により、DHA関連メディエーターは増加することが明らかとなった。 3) 島根県在宅健常高齢者を対象とした疫学調査結果の精査:高齢者574名の赤血球膜脂肪酸を測定し、島根大学疾病予知予防研究拠点から入手したアンケート結果、うつ、ならびにやる気スコアと赤血球膜脂肪酸との関連性について解析した。【結果・考察】女性は男性よりも赤血球膜の多価不飽和脂肪酸量が多いにもかかわらずうつ傾向にあった。うつ傾向にある女性ではαリノレン酸が低下していたことから、うつ傾向の改善には青魚だけではなく、αリノレン酸を多く含むエゴマ油の様な食材も有効である可能性が示唆された。また、うつ傾向にある女性では不飽和化酵素活性の指標は低下していたことから、生体内での多価不飽和脂肪酸の合成が低い可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主たる目的は、1) 神経幹細胞による基礎研究、2) 脳内脂肪酸関連メディエーターの測定・解析と脂肪酸の脳内での作用機序との関連性の検討、3) 島根県在宅健常高齢者の疫学調査の精査、等を検討することである。計画の項目ごとに評価すると、 1) 神経幹細胞による基礎研究:アラキドン酸、DHA、EPAの神経新生への影響とその作用機序を明らかにした意義は大きい。米国の学術誌に受理され、印刷中である。 2) 脳内の主要な多価不飽和脂肪酸であるAAとDHAの摂取による脳内脂肪酸関連メディエーター産生への影響に違いがあること、DHA関連メディエーターであるドコサノイドが産生されることを明らかにしたことは意義ある知見である。 3) 平均年齢67歳の約600名の赤血球膜脂肪酸を測定し、うつ病とやる気との関連性を検討し、DHAだけではなくαリノレン酸による精神神経疾患への予防効果の可能性と、不飽和化酵素の意義を見出した意義は、今後の基礎研究の展開に重要である。 平成25年度は認知症・認知機能との関連性を精査しなければならない課題が残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 遺伝子解析に関する共同研究 2008年から2010年の2年間に、DHA・EPA強化食品による認知症予防効果に関するヒト介入試験を行った際、強化食品摂取による効果が認められた治験者と認められなかった治験者が見出された。これはDHA合成能に起因した不飽和化酵素などの遺伝子多型の関与が示唆され、遺伝子解析が必要と思われ、この分野にご造詣の深い女子栄養大学副学長であり、自治医科大学名誉教授である香川靖雄先生との共同研究を構築中である。 2) 赤血球膜脂肪酸測定、アルツハイマー病モデルラットの作製など、既に確立した実験技術を駆使する場合、あるいは既存の統計解析などは、大学院生と非常勤職員の継続雇用で可能である。 3) 外部資金の調達が必要であり、共同研究や奨学寄付金の獲得、さらには各種助成金への申請を検討中である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)平成24年度未使用額(68,996円)は、不飽和化酵素の遺伝子多型の検索に関する共同研究が開始される女子栄養大学医化学講座(坂戸市)との研究打ち合わせ旅費に残していたものであり、これを平成25年度の旅費経費の一部として使用する。 2) ADモデルラット空間認知機能障害へのPUFAによる予防効果の機序の解明:ラットにPUFA(DHA、AA)を投与した後にAβを脳室内に投与し、空間認知機能評価を行い、予防効果を評価する。評価後、脳内のAβをELISA法で定量し、PUFAのアルツハイマー病予防効果の作用機序の解析方法は平成24年度で行った評価法に準ずる。魚油抜き飼料の費用が必要。 3) 新規な認知症予防物質の探索:ツボクサ由来Madecassosideによる認知症予防物質の可能性を、動物実験と培養細胞系を用いて評価する。 4) 疫学調査結果のデータベース化:2004年から行った島根県の在宅健常高齢者を対象とした「食事栄養と認知症・生活習慣病」に関する疫学調査データをデータベース化し、SPSSなどの解析ソフトで精査・再評価を行い、認知症やうつ病などの神経疾患さらには生活習慣病への食事栄養由来予防物質を探索する。非常勤職員への謝金 5):学会発表・論文作成:日本脂質栄養学会での発表のための旅費・参加費、英語論文校正費用、論文投稿料
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Research Products
(36 results)