2011 Fiscal Year Research-status Report
胎生期低栄養に起因する肥満のポリフェノールによる代謝制御とその分子機構の解明
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23500960
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Research Institution | Aomori University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
佐藤 伸 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (40310099)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向井 友花 青森県立保健大学, 健康科学部, 助教 (60331211)
藏崎 正明 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (80161727)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 胎児期低栄養 / 肥満 / AMPK活性化プロテインキナーゼ / ポリフェノール |
Research Abstract |
妊娠期の低栄養により、成長後の児に肥満が高率に発症することがわかってきた。これまで成人肥満の予防に資する食品成分の研究報告は多数ある。たとえば、カテキン類やケルセチンなどの植物由来ポリフェノールは肥満抑制に働く。しかし、胎児期低栄養に起因する児の肥満抑制に関する知見はほとんどない。 AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は、細胞内のエネルギー代謝調節で重要な役割を果たしている。AMPKの活性化は脂肪酸合成に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼ活性を抑制し、「脂肪燃焼」を促す。本研究では、妊娠期に低蛋白餌を摂取した母ラットの授乳期に小豆由来のポリフェノール(小豆PP)を与え、成長後の仔ラット肝臓中のAMPKタンパク質発現量や活性化に及ぼす小豆PPの影響を調べた。 妊娠したWistar系ラットに20%(C群)あるいは8%カゼイン食(LP群)を妊娠期に摂取させ、出産後から離乳時までに20%カゼイン食(LPC群)または1.0%小豆PP含有20%カゼイン食(LPAP群)を与えた。C群には20%カゼイン食のみを与えた(CC群)。出産後3週および23週の試料を用いて血液生化学検査値やアディポネクチン濃度を測定した。またAMPKタンパク質量や活性化を示すリン酸化したAMPKタンパク質量をウェスタンブロット法にて解析した。 離乳後の仔ラットの体重は三群とも増加し、14週齢以降ではLPAP群の体重は、LPC群に比べて低値を示した。血液生化学検査値では著しい変化は見られなかったが、LPAP群のアディポネクチン濃度はLPC群に比べて有意に高値を示した。23週齢の肝臓では、LPAP群のリン酸化したAMPKタンパク質量はLPC群に比べて有意に高値であった。これらの結果から、授乳期に摂取した小豆PPは、仔ラットの肝臓中のAMPK活性を上昇させ、脂質代謝に影響を及ぼすことが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の本研究の目的は、胎児期低栄養に起因する糖・脂質代謝異常において、植物由来ポリフェノールの生理的役割を明らかにするために、低蛋白餌摂取母ラットから産まれた仔ラットに小豆由来ポリフェノール(小豆PP)を投与し、小豆PPは仔ラットの脂肪酸合成系酵素の活性や発現に影響を及ぼすかを明らかにすることであった。 その結果、妊娠期に蛋白質制限食を摂取した母ラットの授乳期に小豆PPを摂取させたところ、小豆PPを摂取した母ラットに育てられた離乳直後(3週齢)の仔ラット(LPAP群)の肝臓中でリン酸化したAMPKタンパク質量が摂取しない母ラットに育てられた仔ラット(LPC群)に比べて高値を示した。さらに、性成熟以後の23週齢においても同様の結果が得られた。これらのことは、妊娠期に蛋白制限食を摂取した母ラットが授乳期に摂取した小豆PPにより、AMPKが活性化し、その活性が成長後も維持されていることを明らかにした。一方、AMPKの活性化により脂肪酸合成に関わる酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)活性に及ぼす影響については調べることはできなかったので、今年度の課題になる。以上のことから、今年度の成果は目標を概ね達成していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、成獣を用いた動物実験や肥満成人における植物由来ポリフェノールの抗肥満作用に関する報告は多い。一方、本研究は、胎児期低栄養に曝された児の発育初期のある一定期間に植物由来ポリフェノールを与えて、成長後に起こりうる肥満や糖・脂質代謝異常を予防・改善しようとする研究である。 カテキン類は抗肥満作用を有していることが知られている。そこで、妊娠期に低栄養状態とした母ラットに、授乳期を通して離乳までカテキンやエピガロカテキンガレート等を含む茶ポリフェノール(GTE)を与え、成長後の児の糖や脂質代謝におけるGTEの生理調節機能を明らかにするために、生れた仔ラットの肝臓や骨格筋中のAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のタンパク質発現量やmRNA発現量に及ぼすGTEの影響を検討する。もし、AMPKが活性化するならば、1)AMPKのシグナル伝達経路にある脂肪酸合成に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)活性を抑制するか、2)脂肪酸合成系酵素の遺伝子発現を制御する脂質合成転写因子-1c(SREBP-1c)の発現を抑制するかを検討する。 方法として、妊娠したWistar系ラットに20%(C群)あるいは8%カゼイン食(LP群)を出産まで摂取させる。続いてLP群の母ラットに異なる濃度のGTE含有食を出産日から授乳期を通して摂取させる。出産した半数の3週齢(離乳時)の仔ラットの血液生化学検査値および肝臓中のAMPK、ACCあるいはSREBP-1cの発現量をウエスタンブロット法やリアルタイムPCR法により測定する。残りの仔ラットについては性成熟後まで標準動物飼料で飼育する。その後3週齢の仔と同様の項目を解析する。以上から、上述の1)および2)を考察し、授乳期の母ラットのGTE摂取は成長後の仔の糖や脂質代謝に影響を及ぼすかを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費(ウエスタンブロット関連試薬、遺伝子解析試薬類、生化学試薬類など):500,000円。旅費(日本栄養改善学会や日本栄養食糧学会での研究成果発表):100,000円。人件費・謝金(動物飼育や試薬調製など):150,000円。その他(英文論文の校正など):50,000円。
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Research Products
(7 results)