2011 Fiscal Year Research-status Report
脳発育期及び加齢時の脳機能に及ぼすシアル酸の神経科学的解析
Project/Area Number |
23500963
|
Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
横越 英彦 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (70109320)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | シアル / N-アセチルノ酸 / 記憶学習 / DHA |
Research Abstract |
「健康寿命」という言葉をよく耳にするように、ただ長く生きるのではなく、「健康」の状態でいかに長く生きられるかが重要である。そこで注目されるのが、「脳」の健康である。今回注目したのは、脳の主要な構成成分であるシアル酸(ガングリオシド)の栄養生理機能である。今年度はNANA(N-acetylneuraminic acid)が投与後どれくらいの時間で血中においてピークになるのか、またラット乳幼児期の摂取が脳内成分や行動にどのような変化を及ぼすのか検討を行った。 まず、絶食時のNANA血中濃度の検討として、絶食時にNANAの血中濃度変化の測定を行うために、NANA (2 mg/100 g B.W.)対照として水道水をラットに経口投与した。コントロール群では時間による差が認められなかったが、NANA群では、投与後10分で血中濃度がピークに達し、緩やかな減少をする傾向が見られる事が分かった。乳幼児期ラットにおける経時的変化はWistar系雄ラット(10日齢・17日齢・31日齢・42日齢・59日齢・73日齢)に対し乳幼児期から継続的にNANAを投与し、血中NANA濃度及び、脳中NANA濃度の測定を行った。血中のNANA含量はラットの成長に伴って増加する事が明らかとなった。しかし、海馬中では10日齢に比べて17日齢でNANA含量が増加し、その後若干の増減が見られたものの、10日齢と同量の値を示した。大脳皮質中では、10日齢から73日齢までほぼ一定のNANA含量を示し、海馬の10日齢と同様の値を示した。以上の結果より、海馬と大脳皮質でNANA含量が高かったこと、また海馬では離乳期前後にNANA含量が増加していたことから、NANAと記憶学習能に何らかの関係がある可能性が考えられた。しかし、なぜ海馬でのみ離乳時期前後にNANA含量が増加したのかについては今後の検討が必要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(理由)今年度計画していた、NANAの血中濃度及び乳幼児期のNANA投与による脳内成分を検討し、結果を得られたためほぼ当初の目標を達成できたと考えられる。ラットにNANAを投与し続け、更に経時的に解剖をして血中・脳中のNANA濃度の測定、及び、脳内物質の測定を行ったが、飼育にかなりの時間を要した。一方、同様の条件下で、記憶・学習能(今回は、ストレスなどの物理的に負担のない条件として、新規物質探索試験:Novel Object Recognition Testを用いた)試験を行った。これまでの研究から、DHA欠乏ラットでは、記憶・学習能の低下が観察されており、NANAによる影響が見られれば興味深い。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の方針としては、記憶・学習能の低下した条件下でのNANAの影響を解析したい。すなわち、記憶・学習能の低下条件としてDHA欠乏ラットを用い、NANAの投与による行動試験解析、脳内神経伝達物質などの神経化学的解析、及び、NANAの動態などを解析する。さらに、脳の発育期、あるいは、機能化される時期には、脳内神経栄養因子が重要な役割を果たしていることが知られている。そこで、BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)やNGF(Nerve Growth Factor)などの神経成長因子なども検討し、DHAとNANAとの関係について解明を行っていくこととする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、研究費の一部を次年度に繰り越した。その理由は、私が平成24年3月末日をもって静岡県立大学を退職し、同年4月1日から中部大学に移ることが分かっており、年度末に、詳細な研究を行うことが困難であったこと、また、今回のプロジェクトでは、ラットの飼育に長期間を要するため、解析は集中的に行う必要があった。そこで、次年度に纏めて解析することとした。次に、DHA、NANAはともにガングリオシドの構成成分であり、ともに記憶学習に関係するなど共通点が多いことに着目し、その関連を把握することを目的とする。本実験では、餌組成調整により、脳内DHA構成比がほぼ0%のDHA欠乏ラットを作成し、そのラットにNANAを添加することで、学習行動及び脳内NANA濃度変化を検討する。また、各実験において、シアリルラクトースとの比較検討も行いたい。
|
Research Products
(7 results)