2012 Fiscal Year Research-status Report
河川の流速の測定と土石流概念の導入による河川学習の転換
Project/Area Number |
23501035
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
林 慶一 甲南大学, 理工学部, 教授 (10340902)
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Keywords | 土石流 / 斜面崩壊 / 地滑り / 流水の作用 / 河川学習 |
Research Abstract |
本研究の目的は,河川における流水の作用を定量的な流速測定に基づいて明らかにすると共に,中・上流部において土石流の果たす役割の大きさを評価することにある.そのため,河川横断面内の三次元的な流速分布とその時間的・季節的変動を調査し,室内実験を行うとともに,河床堆積物に残された土石流の記録を読み取る方法で研究を始めた。 ところが研究を始めてまもなくの平成23年9月に台風12号が日本列島を襲い,紀伊半島においては日本の観測史上最大量の降雨をもたらし,明治22年の“十津川水害”以来120年ぶりの大規模かつ多様な山地斜面崩壊とそれに伴う地滑り・土石流を発生させ,極めて大量の堆積物を河川上流部の河床にもたらした。偶然であるが,本研究の土石流の研究領域において,このような大規模で多様な斜面崩壊と土砂移動をほぼ初期状態で観察・調査できるという観測史上例のない状況が出現したため,当初の計画を変更して土石流の調査に研究を集中した。土石流の調査は平成24年度前半には完了し,もう一つの研究対象である河川の流速測定と河床堆積物の調査を開始する予定であったが,斜面崩壊に伴う土砂の移動に関して従来全く知られていなかった知見が次々と得られたことから,24年度についても土石流研究を主として継続することとした。 その結果,斜面崩壊後の土砂の挙動には,従来知られていた日本の地質全体を数種(例:第三紀堆積岩類)に分類した上での土石流等との関係よりも,2階級ほど下の詳細な地質区分である層群レベル(例:日高川層群,音無川層群)での斜面崩壊と土砂移動様式の違いが明らかになった。これらの成果は教育的な価値だけでなく科学的な価値も高いため地質学会・日本地学教育学会・日本理科教育学会等で発表した。また,防災上の視点からも注目され,読売新聞の科学欄でも紹介されたほか,シンクタンク協議会で防災関係者に対しても成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
観測史上初めてと言える多数の斜面崩壊の同時発生に遭遇して,河川と土石流の研究を始められたことで,当初の計画では得ることが不可能であった,また想定もしていなかった斜面崩壊と地滑り・土石流とそれらが河床にもたらした堆積物に関して多くの知見が得られたという意味で大きく進展したと言える。 しかし,当初今年度行う予定にしていた太平洋側の多雨地域各地の河川の調査および来年度以降に予定していた他地域の調査は,平成25年度以降にずらすことになるので,本研究自体は1年の延長を考えなければならない状況である。この意味では,遅れていると言うことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23,24年度に紀伊半島で行った斜面崩壊と河川に流入した土砂の調査によって,過去の斜面崩壊による地滑りや土石流によって河床に到達した堆積物の初期状態を推定する観察の視点がえられた。来年度以降はこれらの土砂が流水作用によってどのように変化するかを追跡調査すると共に,この新しい視点を加えて当初計画していた各地域の河川の調査を行う。 平成25年度は,紀伊半島での平成23年の大規模斜面崩壊で河川に流入した土砂のその後の選択的運搬と量的変化などの野外調査を行うとともに,①本州太平洋側の,新生代褶曲堆積岩類からなる多雨地域の河川の流速と河床堆積物・地形の調査,②流速と運搬粒子の関係を検証する実験用人工水路を製作し,①で測定された流速で運搬される粒子の最大粒径を確認する実験を行い,これを越えるより粗粒の土石流堆積物を区別する方法を探索する。 平成26年度は,③瀬戸内区の中生代花崗岩類からなる少雨地域と,日本海側の古期岩類からなる融雪増水期をもつ河川の流速と河床堆積物・地形の調査を行うとともに,④実験用人工水路で,③で測定された流速で運搬される粒子の最大粒径を確認する実験を行い,これを越える粗粒の土石流堆積物を区別する。 平成26年度には,さらに⑤関東地方の新生代後期の水平に近い堆積岩類の上を長距離にわたって流れる下流の長い河川と,北海道の梅雨期のない寒冷気候下での広大な平原を流れる河川の流速と河床堆積物・地形の調査を行うとともに,⑥実験用人工水路で,⑤で測定された流速で運搬される粒子の最大粒径を確認する実験を行い,これを越える粗粒の土石流堆積物を区別する。 さらに,野外調査の成果に基づき,⑦土石流概念を導入した,新しい河川観に基づく教育内容・方法を考案し,⑧小中学校で実践して評価・改善する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
<次年度使用額が生じた状況> 当初の計画では,河川横断面内の三次元的な流速分布とその時間的・季節的変動を調査・解明する計画を立て,小型メモリー流速計を購入する予定であったが,観測史上例のない大規模土砂災害が発生したため,本研究での調査・研究対象を斜面崩壊と地滑り・土石流に当面集中することとした。そのため,流速調査を先送りすることとなり,小型メモリー流速計の購入経費と流速調査のための旅費で約126万円の次年度使用額が生じた。 <次年度の使用計画> 上記の次年度使用額は,次年度交付の70万円と併せて,紀伊半島での平成23年の大規模斜面崩壊で河川に流入した土砂がその後の流水による選択的運搬によって河床でどのように分布を変化させていくか調査するための旅費,また太平洋側の主要河川の流速調査を行うための旅費として使用する。また,当初小型メモリー流速計の購入のため計上していた経費は,研究経過を踏まえて新たに構想した下記の崩壊土砂の移動のモデル実験を行うための装置の購入費として使用する。なお,流速の測定は,当面現有の一軸電磁流速計で行うこととする。 本年度までの研究で,山地斜面の形状と崩壊様式の関係,さらには河床堆積物との関係が明らかになってきたことで,これらを再現するアナログモデル実験ができる可能性が出てきた。これは本研究が目指す教材化においても有効であると考えられることから,崩壊地の原地形の縮小立体模型を製作するための装置(3Dデータを木などの軟素材に切削加工して模型として製作できる3Dプロッター,または同様な立体物を樹脂の積層で形成できる3Dプリンター)を購入し,調査地域の詳細地形模型を用いた斜面崩壊,砕屑物の移動の実験を行う。
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