2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23501078
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
井上 美智子 大阪大谷大学, 教育学部, 教授 (80269919)
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Keywords | 環境教育 / 幼児 / 国際比較研究 / 持続可能性 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
本年度は昨年度からの継続としてオーストラリアにおける就学前教育基準制定の影響・保育概念のとらえ方・養成教育の内容について、文献調査・インタビュー調査をWEB収集、および、オーストラリアの保育学会に相当するEarly Childhood Australiaの大会に参加視察により行った。また、視察の際に複数の環境教育実践施設も訪問し、施設見学及び幼児対象の環境教育の実践について担当者にインタビューを行った。その結果、就学前教育基準制定の具体的な効果が大会でのテーマ設定、発表内容、参加者の関心、民間の環境教育実践施設での実践内容等に既に反映され始めていることがわかった。 本年度のもう一つの研究内容が過去に調査実績のある兵庫県・東京都の公立・私立幼稚園・保育所を対象に昨年度末オーストラリアで開始した質問紙調査と同一項目で調査を実施することであったが、年度末に近い12月に実施し、3月までに2割を超える回収率で回答を得た。オーストラリアの調査も8月までに同率の回収率で回収を終えた。オーストラリアの調査に関しては、分析を開始したところである。国際比較研究として広がったこの調査はこの3月にスウェーデンの研究者によって同一内容の調査が行われており、現在、回収途中である。次年度以降、各国の分析を進め、その後、国際比較を実施する予定である。 保育のガイドラインに環境教育の観点を明示することに実践への大きな影響力があること、保育制度や基盤となる保育理論が同一でない場合には、海外の事例紹介や導入には慎重な対応が必要であることが明らかになると予想したが、その通りの結果を見いだしつつある。また、国際比較研究の成果は日本の幼児期の環境教育の今後の研究・実践の普及に大きく資することが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幼児期の環境教育普及に資する理論構築とそれに基づく具体的実践の提案という目的の下、本研究では「生態学的に持続可能な社会形成のための環境教育」を採用し、就学前教育基準(2009)にもそれを明示したオーストラリアと、「環境保全のための環境教育」を採用して従来型の自然体験しか保育基準に示せない日本の間で、(1)環境教育と保育をめぐる制度・(2)教育と社会のとらえ方・(3)環境教育と保育の両分野における概念理解に焦点をあてて比較し、日本の保育における環境教育の課題を抽出し、今後の幼児期の環境教育普及に資する具体的提案を行うという目的をあげた。 現在まで、オーストラリアにおける実地視察・文献調査・インタビュー調査を主とした研究計画Iと保育現場対象に同一内容の質問紙調査を日豪で行うという研究計画IIは共に順調に進んでおり、日豪の環境教育のとらえ方の違いが具体的な環境教育施策や環境教育実践施設の実践内容、及び、保育現場での環境教育の実践内容に差異をもたらしていることが明らかになった。また、現在回収、及び、入力作業中の質問紙調査であるが、現段階での内容を見る限り、環境教育施策と保育制度の両国の違いが実践者の概念理解に影響を及ぼしている印象がある。これらのIとIIの結果を総合的に分析すれば、日本の保育のよさと共に、大きく変わりつつあるオーストラリアから学べること、及び、日本の保育が今後環境教育を実践していく際の課題がより明確になり、本研究目的は達成されることが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は最終年度になるので、予定通り、研究計画Iの文献調査の継続と、研究計画IIの質問紙調査の分析を行う。本研究では日豪比較研究として申請し、開始した事業であるが、その過程において韓国・スウェーデン等の研究者も交えた国際交流ネットワークが構築された。その結果、本研究で実施した保育現場対象の質問紙調査も日豪比較を超えて、スウェーデンでも実施途中である。また、そのネットワークの研究者が執筆者となって国際的研究動向に関する本が出版予定となっており、学術的な国際交流が始まったところである。そうした中で、本事業の調査結果は国際的動向の理解という点で一つのエビデンスを提供することになる。また、申請者も国際比較の中から文化的差異を超えての教育実践のあり方の必要性を強く感じるようになった。単に西洋的概念の直輸入ではなく、日本の文化的実態及び過去の実践実績を踏まえた上での環境教育実践が求められる。今後はその点を追求すると共に、日本のよい保育実践を世界に示すと同時に、幼児期の環境教育のあり方としての世界標準のモデルの構築を考えていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は最終年度である。研究費は予定通り消化してきたが、質問紙調査の回収時期が年度末になったこと、及び、回収率が悪かったために2度の督促が必要となりその経費が倍増したという理由から、昨年度計上した入力分析費用を平成25年度で計上する。また、旅費としては招聘旅費として使用する。日豪比較研究として予定した質問紙調査がスウェーデンや韓国を含む国際比較研究に発展したため、当初、オーストラリアからのみを予定していた招聘事業に韓国からの協力者も追加し、日本の保育現場視察をふまえて今後の比較研究計画を立てることにした。また、7月には世界幼児教育機構で国際研究ネットワークのうち環太平洋地域の研究者(上述の豪韓両研究者も含む)によるシンポジウムを予定しており、本研究の進展を盛り込んだ発表を行う予定である。旅費の一部はそこでも使用予定である。
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Research Products
(4 results)