2012 Fiscal Year Research-status Report
学習コミュニティのソーシャル・キャピタルに関する実証的研究
Project/Area Number |
23501157
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
多川 孝央 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 助教 (70304764)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安武 公一 広島大学, 社会(科)学研究科, 講師 (80263664)
山川 修 福井県立大学, 学術教養センター, 教授 (90230325)
隅谷 孝洋 広島大学, 情報メディア教育研究センター, 准教授 (90231381)
井上 仁 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 准教授 (70232551)
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Keywords | 学習コミュニティ / ネットワーク分析 / ソーシャル・キャピタル / 可視化 |
Research Abstract |
研究計画の二年目である本年度は、学習者の相互作用と学習効果の関係についての研究を行った。学習者の価値観や動機付けなどに作用する「共同体感覚」が、学習者が自分の周囲のつながりに対して持つ認識に影響されるという先行研究に基づき、学習者のつながりの相互作用のネットワーク構造が、この「共同体感覚」を媒介することで学習の成果に影響すると考えられることを指摘した。また、相互作用が「閉じたネットワーク」という構造を持つときにこの「共同体感覚」が強く働き学習効果が得られること、すなわち、社会学や経済学の分野において同一グループ内での密接な協調や協力関係がソーシャル・キャピタルとして働くのと同様のパターンを持つことを指摘した。これは、学習コミュニティにおけるソーシャル・キャピタルの作用を指摘したということが言える。 以上に基づき、学習者が自分の周囲に持つつながり(相互作用のネットワーク構造)について、次数(つながりの数)およびクラスタ係数という指標によって、その学習者の持つ学習に関するソーシャル・キャピタルを比較・計量することを提案した。これにより、学習者と周囲のコミュニケーションが形成する環境が学習に貢献する度合いを推測し、比較できるようになった。また、ソーシャル・キャピタルの理論を応用することにより、オンラインの電子掲示板のネットワーク構造にSNSの友人関係のネットワーク構造の情報を付加し、これによって教員や学習者が個々の学習者の学習コミュニティ形成を適切に支援できるような可視化手法の提案も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究においては、コース管理システムやソーシャルネットワークサービスより抽出されるコミュニケーションのグラフ構造が、学習とどのように関連するか、また何を媒介として学習に作用するかを、先行研究を援用することにより指摘することが出来た。すなわち、集団で学習を行うことの価値やその効果を、ソーシャル・キャピタルの作用として、ネットワーク分析を通じて把握することが可能となったと呼ぶことができる。また、これに伴い、学習コミュニティのソーシャル・キャピタルの計量および比較に使うことが可能なネットワーク指標を指摘した。以上は、研究計画において第2年目に予定していた通りの内容である。このため、研究計画全体の進捗度合いとしては概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、本年度指摘した(学習コミュニティにおける)ソーシャル・キャピタルの指標を、実際に大学等で運用されているSNS内部のコミュニティ構造の時系列変化と照らし合わせ、これによりソーシャル・キャピタルとコミュニティの成長や衰退との関係について分析する。 第二に、個々の学習者にとっての学習コミュニティのソーシャル・キャピタルを、成績データ等から見た学習の成功や失敗、また、学習者が自分の学習のためにコミュニケーションを選択的に行なってゆく戦略の分析に用いる。一部の先行研究では、学習者の自己評価がコミュニケーションのパターンに影響することが指摘されており、ここから、学習者の自己認識がコミュニケーションを介して学習成果に影響する強固なループを生じ、学習者の集団が長期的には成功者と失敗者のグループに分裂してしまう可能性が予見される。これに対し、ソーシャル・キャピタルの理論およびネットワーク理論を応用することにより、個々の学習者の状況や自己評価のパターンに対応した支援・介入戦略の立案が可能になると考えられる。 平成25年度には、以上の方策を順次実行して研究を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には、大学で運営されているSNSについて、これまで扱ったものよりも綿密に個々の学習者を対象とした分析を行う。このために、計算機が必要となり、高性能なものを購入する予定である。この計算機は研究のまとめおよび発表にも用いる。また、「今後の研究の推進方策」に記載した研究成果について、国内および海外で発表する予定であり、このために旅費等を支出する。
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Research Products
(8 results)